ひょろりと背の高い三〇近い男性が職場に現れた。

ぬぼーとした風貌で 

 「今日から働く事になった鈴木(仮名)です。」 

  と言った。

  私の職場の人は皆、明るいが鈴木君は覇気がない人だった。以前は本屋さんでバイトをしていたそうだ。私は新しく来た人には結構気を使っている。なんでかというと、自分も初めての職場は緊張するからだ。話しかけられないと凄く辛い。なので、挨拶に加えて本の話などをした。鈴木君も好きな本の話なので私の問いに答えてくれた。鈴木君が私が一人で担っている雑務系の仕事を手伝ってくれると助かるな、と期待していた。

  そして、鈴木君は私の隣の机になった。私はこの頃にようやく自分の定位置の机を与えられた。鈴木君は最初から机を与えられた。鈴木君は最初からお金が発生する。ねたましいという気持ちが自分の中をよぎったが見ない振りをした。

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