生きながら10代に葬られ〜正しい青春を送れなかった人へ〜第22話

4月、短大の入学式に出るために、白いシャツに黒のスーツを着る。スーツを着るのは初めてで、少し大人になったようで嬉しい。鏡の前に立つと、ベリーショートでさえない顔の女が立っていた。女らしい曲線や、色気と言ったものがない18歳。恋をしたことも、男性から好意を向けられたこともない自分。そして、私は男性から好かれるための努力を一切しなかった。高校を卒業した時、どこかの化粧品屋さんが女生徒に試供品の化粧水や乳液、ちょっとしたファンデーションなどを配った。私はそれを全部親にあげた。私は化粧に魅力を感じなかった。顔にいろいろなものを塗りたくるのは気持ちが悪く思えたのだ。それに、嘘が嫌いな私は自分の顔面を偽ることがイヤだった。クラスメイトの子達が、アイプチで目を二重にしたり、色のついたリップを塗ったりすることをバカバカしいと感じていた。何より大きかったのは、自分の大好きなジャニス・ジョプリンが「化粧は嫌い。自分に嘘をついているから」とどこかのインタビューで答えていたことだ。自分というものがまだ確立されていない私は、尊敬する誰かの言葉に従って生きていた。ジャニスが化粧をしないなら、私もしない。ジャニスはブラジャーもつけていなかった。じゃあ、私もつけない。私は18歳になってもブラジャーをつけていなかった。ブラのワイヤーが硬くてつけたくない、という身体の感覚的なものもあったし、いじめにあうくらいのペシャンコな胸をした私には必要なかった。

短大の入学式、当日、たくさんの女の子がいた。女子大なので当たり前なのだが、とても落ち着かない。何しろ、この短大にくる女の子は私とは真逆の女の子ばかりなのだ。若いのに、みんなブランドのバックを持っていて、髪の毛を長くして、くるくると巻いたりしていた。爪はピカピカで、小さなアクセサリーが胸元や耳元に光っていた。彼女たちはまさしく女だった。
入学式の後に、サークルの紹介があった。演劇部は短い芝居をし、社交ダンス部は綺麗なドレスを着て、男性と踊った。最後の茶道部の紹介が終わって、私は唖然とした。美術部がないのだ。美大に行けなかった私は、せめて、サークルで絵を描こうと考えていたのである。私はとても落ち込んだ。2年間の短大生活、何を楽しみに生きて行けばいいのだろう。
入学式を終えて、学校の門をくぐると、他大学の男子がたくさん集まっていて、チラシを持って自分たちのサークルに勧誘していた。みんなチラシを押し付けられているのに、私は一枚もチラシをもらわなかった。私は選別されていた。けれど、そんなことにはちっとも落ち込まなかった。私もチラシを配っている茶色の髪の毛の男子なんかと話をしたくもなかったからだ。

家に帰って、広末さんに電話をした。
「ねえ、今日入学式だったんだけど、うちの学校、美術サークルがないんだよ!信じられない。何を楽しみに学校に行けばいいんだろう」
私は暗い声で広末さんに告げる。
「何言ってんの、エリコ。大学生は他の大学のサークルに入れるんだよ。うちの大学はエリコの学校から比較的近いから、うちの大学にきなよ。美術サークルもたくさんあるよ」
カラカラと明るい声で話す広末さん。
「え!美術サークルがたくさんあるの?一個じゃないの?」
驚く私に、広末さんは続ける。
「うちの大学は大きいからね。サークルも面白いのがたくさんあるよ。ロカビリー研究会なんてのもあるよ」
私は広末さんの言葉に驚きながら、そういえば、確かに、今日、学校の帰り道に他の大学の男の人たちがサークルの勧誘に来ていたのを思い出していた。明日の放課後、W大学へ行ってみることにした。

次の日、シラバスを読み込み、授業を取る。短大で、友達ができるといいなと思ったが、私は無理だなあとぼんやり思った。ブランド品を身にまとい、コンサバティブな格好をしている女の子と友達になれるはずもないし、なりたくもない。私は汚いジーンズと古着のシャツを着ていた。おしゃれになりたいとは思っていたが、高校の時に、バイトができなかった私は洋服を全く持っていなかった。父方の叔母がいらないからあげる、と大量にくれた古着の山の中から、着られそうな洋服をもらっていたのだ。おこずかいを持って、渋谷に行くことがあるにはあったが、一枚だけ買っておしまいだし、洋服以外にも欲しい漫画やCDがたくさんあって、洋服ばかりたくさん買うことができない。欲しい漫画と洋服があったら、欲しい漫画を買ってしまうタイプの人間だった。
制服がなくなり、私服になった大学生活では、見た目がとても重要だった。話ができるかできないかが見た目で決まった。私はほとんど誰からも話しかけられなかった。私も誰にも話しかけなかった。ここでも、友達ができそうにないと感じた。これが、美大だったら違っただろう。同じようにジーンズを履いている子がもっといたんじゃないかと思う。

短大の授業が終了して、W大学に向かう。電車に乗り、目的の駅に着き、大学を目指す。W大学は大変な賑わいだった。どこのサークルも新入生を獲得したくて、あらゆる人に声をかけまくっていた。私はなぜか音楽サークルによく声をかけられた。「音楽は聞くくらいなので」と断ったが、「聞くだけのサークルだから」と返された。音楽を聞くだけのサークルって意味がわからない。活動内容としてはいささか不安だ。私は美術サークルに入ってたくさんの作品を作るということを目標にしていたが、サークルというのは必ずしも、そういった熱意を持って入るものではないのだと気づかされた。オールラウンドサークルの存在を知ったのもこの時で、ただ、男女で集まって、旅行に行ったり、バーベキューに行ったりするだけのものがあるのだ。ただの出会い目的のサークルだ。私はそれを知って、ケッと思った。大学でやるべきことは将来の結婚相手探しか、くだらない。私は将来、絶対に結婚しないと決めていた。それは、自分の家庭で母親が虐げられていたのを見てきたからだった。それに、男性に優しくされたことなどなく、中学の時に、クラスメイトの男子からいじめにあった体験や、中学時代のセクハラ塾講師などのため、男性不信が非常に強かった。私は男などどうでもいい、という風情で、大股を開いて、道を闊歩していた。W大の美術サークルは複数あって、どこに入るか悩んだが、一番、活動の説明がうまかったサークルに入ることにした。このサークルの部長のことが好きになるとはこの時、思いもよらなかった。

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生きながら10代に葬られ〜正しい青春を送れなかった人へ〜

いじめ、学級崩壊、全く幸せじゃなかった10代。恋愛したり、友達と海に行くとかそういったことができなかった人に読んでもらいたい。
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