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【ざっくり】東南アジア途上国版NETFLIX-スタートアップiflix社について

NETFLIXといえば、世界で最も有名な映像ストリーミング配信会社の一つである。有料会員数は1億5,100万人(2019年7月時点)である。
実は東南アジアには、東南アジア途上国版NETFLIXとしてiflixというスタートアップがある。
アクティブユーザーは1,700万人(2019年5月)であり、最近、日本でも2019年4月に吉本興業が出資をしてニュースになった。
そんな今勢いのあるiflixについて今回はまとめた。

<目次>
・iflixとは
・iflixの設立経緯
・サービス
・ビジネス戦略
・展開国
・資金調達
・業績
・まとめ

iflixとは
・マレーシアを拠点とする映像ストリーミング配信スタートアップ
・東南アジアを中心に世界22カ国で展開
・NETFLIXとの違いは途上国の一般大衆層(マスマーケット)をターゲットとしている点である

■iflixの設立経緯
iflixはCatcha Groupによって2014年に創業され、本社はマレーシアの首都クアラルンプールである。
Catcha Groupはマレーシア、シンガポールを拠点に投資事業を行っており、東南アジアのデジタル分野で最大級の投資会社である。総資産は1,000億円を超えており、60件以上の投資を実行し、過去9年間で5社をIPOさせている。

そのCatcha GroupのCEO Patrick Grove氏が2014年に創業したのがiflixである。グループCEO自らが創業したということから、iflixが当初から期待の事業であることがわかる。

Catcha Groupの子会社の投資家にはGoldman Sachs、BlackRock、SKY PLC、Fidelity Funds Management等のグローバルで有名な企業がおり、この一部がiflixの投資家にもなっている。

■サービス
iflixでは2つのプランがある。
無料プランと有料プラン(月額3ドル)で、有料プランでは広告なしで数多くの番組が見ることができる。スポーツのライブ配信番組があるのも特徴だ。(アベマ+NETFLIXのような性質)

1.iflix Free / 会費無料
広告付きで一部の映画、テレビ番組(プロモーション番組等)、オリジナル番組が視聴可能
2.iflix VIP / 月額3ドル
広告なしでたくさんの映画、国内外のテレビ番組、オリジナル番組が視聴可能

ちなみにNETFLIXでは無料プランはなく、有料プランも9ドルであり価格でも大きな違いがある。
なぜこういった料金プランになっているかは後程説明したいと思う。

■ビジネス戦略
iflixのターゲットはNETFLIXとは異なる

・各社のターゲット
NETFLIX:グローバルエリート層
iflix:途上国の一般大衆層(マスマーケット)

NETFLIXはグローバルエリート層をターゲットにしているため、
安定した早いインターネット環境で、HD Quality等の画質の良いコンテンツを提供することを前提としている。グローバルエリートは教養もあり、オープンマインドなため、欧米のコンテンツも字幕を付けるだけで他の国でも人気を得ることができる。

一方で、iflixは途上国の一般大衆層(マスマーケット)をターゲットにしており、こちらの層はインターネット環境は悪く、所得も低い、欧米のコンテンツもすぐに受入れられない等のNETFLIXのターゲットとは大きく異なる環境である。

以下が、東南アジア途上国の一般大衆層の主な特徴である。

・クレジットカードを持っている人が少ない
東南アジアではクレジットカードを持っている人が少ない。
インドネシアやフィリピンではクレジットカード普及率が約3%程度であり、そのほとんどが富裕層であり、もし支払い方法をクレジット決済のみにすると、ターゲットである一般大衆層(マスマーケット)を獲ることができなくなってしまう。それに対応するために、iflixでは現地の電話会社や銀行と提携して支払い方法を増やしている。例えば、途上国ではプリペイドの携帯電話が多いので電話会社と提携することで、プリペイドの残高からでも支払うことができるようにしている。

・動画再生環境が悪い
途上国ではまだまだインフラ整備が進んでおらず、インターネット回線が不安定である。例えばフィリピンはアジアの中でインターネットが最も遅い国の一つである。また途上国のデバイスはスペックが低く、データ量制限などもあるため、そのような動画再生環境に配慮するように動画の画質ダウン設定ができるアプリになっている。

・海賊版DVDが既に普及している
途上国では海賊版DVDが普及をしており、1枚100円くらいで販売されている。その価格と比較するとNETFLIXの月額9ドルは高く、加入ハードルが高い。そのため、iflixでは無料プランを用意することで、まずはユーザーを獲得する。その後、有料会員に誘導するが、月額3ドル程度で加入できるようにしている。このように最初は無料で、有料会費も安くすることで、海賊版DVDが普及した国でも顧客を獲得できるようにしている。

ローカルコンテンツが人気である
大量の番組を一気に消費するのには欧米の作品の方が適しているかもしれないが、途上国の大衆市場へのリーチという観点では、現地の制作・配給会社が持つコンテンツの方が強い。それぞれの国にローカライズ(現地語化)されたドラマやリアリティーショウなどの現地オリジナル作品に力を入れている。

■展開国
マレーシア、フィリピン、タイ、インドネシア、スリランカ、ブルネイ、モルディヴ、パキスタン、ベトナム、ミャンマー、サウジアラビア、ヨルダン、イラク、クウェート、バーレーン、レバノン、エジプト、カンボジア、ネパール、バングラデシュ、モロッコ

一時期はアフリカにも展開していたが、2018年に撤退をした。
日本や韓国ではまだサービスが開始されていない。

■資金調達
2015年4月:30億円調達
投資家:
・Catcha Group(マレーシア)/ 上記で説明した企業
・PLDT(フィリピン)/ 電気通信企業
その後すぐにハリウッド映画やテレビ番組を製作することで有名MGM(米国企業)を投資家として迎えた。

2016年3月:調達金額は不明
投資家:
・SKY PLC(イギリス)/ メディア関連企業でヨーロッパ最大の有料放送企業
⇒Catcha Groupと繋がりがあるのでその関係と思われる。
・Emtek Group(インドネシア)/ 通信及びメディアのコングロマリット企業

2017年3月:90億円調達
資金使途は中東、アフリカ、アジアでの新しい国への展開である。
投資家:
・Liberty Global plc(アメリカ)/ 大手TV番組配給会社
・Zain(クウェート) / モバイル通信事業者
⇒Zainはiflixと北アフリカ展開のためのジョイントベンチャーを立ち上げた。
・既存投資家

2017年8月:133億円調達
投資家:
・Hearst(アメリカ)/ メディアコングロマリット
・EDBI(シンガポール)/ 投資ファンド
・DBS Private Bankのクライアント(シンガポール)/ プライベートバンク
・既存投資家

2019年7月:50億円以上調達。(Pre-IPO)
投資家:
・Fidelity International(アメリカ)/ 200兆円を運用する投資ファンド
・吉本興業(日本)/ 芸能プロダクション
⇒シンガポールにジョイントベンチャーを立ち上げ(日本コンテンツ供給のため)
・JTBC(韓国)/テレビ局

以上、過去の資金調達について並べた。
印象としては順調に資金調達を実施し、事業展開のパートナーやコンテンツ調達のために各国の大手企業を株主として迎えているのがわかる。

■業績
売上:未開示であるが、売上は月額会員収入と広告収入である。
アクティブユーザー数:900万人(2018年12月時点 )→ 1,700万(2019年5月)
アクティブユーザーは、半年で2倍近く増えていることがわかる。

ちなみにアクティブユーザー数が多くても、iflixには無料プランがあるため、月額会員売上は比例して増加はしない。しかし、広告ビジネスを行っているため(NETFLIXは行っていない)、アクティブユーザー数が増えることで、最終的にスポンサーが増えて、広告収入も増えると考えられる。

■まとめ
ざっくりまとめると、
NETFLIXは月額会員売上でお客から多くお金を集めて、そのお金をコンテンツの製作費に充てることで、グローバルでも通用するような良いコンテンツを製作する。
一方でiflixは月額会員売上でそこそこのお金を集めて、そこそこのローカルのコンテンツを製作し、グローバルエリートではない途上国の一般大衆層を獲得する。

余談だが、今回記事を書くにあたって、iflixがターゲットにする一般大衆層よりも、さらにその下の貧困層にアプローチしている企業がないか探したところ、企業ではないが日本のNPOでWorld Theater Projectという団体が途上国の貧困層に映画を上映しているそうだ。

以上、今回はiflixについてまとめた。
途上国の一般大衆層(マスマーケット)をターゲットとしたiflixは現在、アクティブユーザー数は1,700万人に到達し、IPOは近いと考えられる。
NETFLIXと正面衝突をするのも時間の問題だ。
今後もiflixから目が離せない。






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