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フェリエラーの盾 一部公開

〜プロローグ〜

これは今よりはるか昔、この地上に人間と魔法と不可思議な出来事が起きていたころのお話。
小さな小さな島国は、未曽有の危機に瀕していました。
「フェリエラーの盾だと!」
王は激怒して大声を上げた。
「ガーライド、説明しろ!どうしてあの盾が必要なのだ!」
謁見の間には固い沈黙が流れ、王はその玉座から立ち上がり、今にも賢者ガーライドにつかみかからんばかりの勢いを見せました。
「お聞きください国王陛下」
ガーライドは落ち着いていました。この数カ月、国内に噂された隣国セージリアが戦争を仕掛けるという話を彼はこの数週間、密偵を放って情報を収集し、この国を救うために粉骨砕身、まさにその身体と、財産を使い果たしてまで国王のために準備して、謁見の機会を得たのでした。
ガーライドには確信がありました。フェリエラーの盾を見つけ出すことが出来れば、この戦争は回避できると。しかし、その根拠にはまだたどり着いていませんでした。最後の密偵は彼の元に戻って来ず。それでも、すぐにでも国王の耳に彼の考えを聴かせる必要がありました。
それほど情勢は緊迫し悪化していました。

国王はガーライドに背を向け、海をご覧になっていました。

この国難を乗り越えるためには目の前の賢者の意見が重要なのは火を見るよりも明らかだったのです。しかし・・・。

世界にはいつも不可思議なことが起きるのです。
理屈は、その世界を生きて行こうとする者たちの羅針盤なのです。それでも自然や心や現象や夢は、時々ですが理屈を超えて人間の生活に大きな力を差し向けて来ます。

この物語の終わりにはどんなことが待っているか、それは理屈では語れないのでした。


~第一章~


さて、物語は、百年前にまでさかのぼる。
王国シーペルムは大海に浮かぶ孤島である。
そのため、長きにわたって他国の侵略をうけることがなかった。平和、それこそがこの国の存在意義であり価値であり、魅力であった。国王は代々、ほんの僅かな税金を国民にかけるにとどまり、豊富な海の幸と、内陸で取れる果実や獣を食し、国は豊かであった。一年のうちに五十日ほど雨の多い時期のあるほかは、四季があり、民は幸福な毎日を送っていた。
ところが、である。ある日、その美しい海に突如何百艘もの軍艦が現れた。東の港を守る兵士たちも、にわかにはそれが「敵」の軍艦であるとは考えなかった。最初の日、軍艦は東の海上二十キロに停泊し、沈黙を守っていた。シーペルムの軍はその船にむかって使いを送った。碇泊している理由を知るためだったが、使いは無残にも殺され、首だけが送り返されてきたのだ。
国内は騒然となった。形だけの軍隊しか持たず、百年もの平和を謳歌したこの国に、戦争の二文字はその大きな闇を捕獲網のように一瞬にして広げ、国民は一斉に逃げ始めた。
一方でセージリアは軍を三つに分け東、西、南の港を包囲し、北の港はあけておいた。シーペルムの国民は我先にその北の港に殺到し、船を略奪し、互いに殺し合い、その有様は日に日に凄惨を極めた。それほど、この国は戦争と無縁であった。セージリアの軍が使いの者を殺してから十日の後、王はこれまでの大臣をすべて解任、この危急存亡の秋(とき)を乗り越えるための新しい組閣をした。といっても、人望のあるものを登用し、国民を落ち着かせ、腕の立つものから戦いのノウハウを教わることくらいであったが、それでも国民の多くは国王の働きかけを信じようとしていた。そして組閣の最も大きな驚きとなったのは当時まだ十七歳のフェリエラーが将軍に選ばれたことだった。
フェリエラーは貧しい漁師の子だった。しかし正義感だけは人一倍で、敵国の艦隊が海上に見えた時も彼はすぐさま船を準備し、作戦を立てた。
彼はある夜、たった一人、南の港を出て敵軍の後方に回り、敵の艦隊を一艘で攻撃し、勇敢にも将軍一人の首を挙げて戻ったのだ。

突然の英雄の登場に国内は沸きに沸いた。この勝利はただ指をくわえて負けていくのを見ているだけの戦争から、戦う意識を、勝とうという気持ちを国民に持たせたのだ。国王はすぐさまフェリエラーを城に呼びつけ、彼の功績をたたえ甲冑と刀を与え将軍として軍の中枢に据えた。彼は国王を前にこう話した。
「敵軍はこちらに戦力がないものと甘く見ています。それゆえに、油断があり、そこを突くことが出来ればわが国にも勝機はあろうかと思います。私めに腕の立つ漁師、剣技にたけた若者を合わせて三百人お貸しください。最初に西の港の艦隊を撃破してご覧に入れます」
国王はフェリエラーのこの言葉を信じた。そして彼に三百人の兵士を貸し与え西の港にむかわせた。西の港に集まった兵士にむかってフェリエラーはこう話した。
「ここからは軍を二手に分けます。一つは予定通り西の海に浮かぶ敵艦隊を襲撃します」兵士たちは静かにフェリエラーの言葉を待った。
「もう一つの軍隊は、ここから北の港へ向かい、船を出して降伏の合図を出してください」
兵士たちは驚いた。それでなくとも少ない軍を二手に分けたうえ、その一つは降伏を申し出るというのだ。
「勘違いしないでください、我々が降伏を申し出れば恐らく敵の艦隊から数隻だけが近づいてくるでしょう。その時を待ってそこを奇襲するのです。そして、敵艦隊の数がそろってきたら西の海に逃げてきて下さい、そこで私たちと合流し、挟み撃ちにし、敵艦を撃破したら一旦ここへ引き上げましょう」
兵士たちは、フェリエラーを信じるしかなかった。彼らは軍を二つに分け、言われたとおりに出港した。この奇襲に敵軍は動揺し、西の海にでた艦隊との間に挟み撃ちにされ火を放たれ、遠く百海里も軍を退却させた。シーペルムの軍はわずかに死者が出ただけで城に凱旋した。フェリエラーの作戦は見事に成功したのだ。

国王は喜んだ。
彼に軍の全権を預け、今後の戦局を一任した。国民は盛大に戦の勝ちを祝った。敵国セージリアでさえも、この予想だにしなかった事態に慌てているようだった。シーペルムの国民の多くはこのまま敵国を退け、フェリエラーがこの国に平和をもたらすのだと信じて疑わなかった・・・。

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