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お酒を讃える古代ギリシア詩を読んでみよう:「肺腑をワインに浸したい!」と歌うアルカイオスの宴会が楽しそうな件

前回の記事で佐藤二葉さんの『うたえ!エーリンナ』を取り上げ、「私としてはヒロイン達よりも男性詩人アルカイオスの生き様に惚れます」という話を熱く語りました。

(『うたえ!エーリンナ』(佐藤二葉|星海社COMICS)より)

実際にこんなイケメンだったのかどうかなんてことは誰にもわかりませんが、私の頭の中には佐藤二葉さんの描いたこのイメージが取り憑いてしまったので、イケメン詩人だったと仮定してこのまま走らせていただきます

前回もお話したとおり、史実のアルカイオスはクーデターへの加担やアフリカへの亡命生活など波乱万丈な人生を送った方。そんな人生を歩んだ彼が得意としていた詩題が、「お酒」でした。

権力争いにも陰謀にも疲れ果てた男がたどり着いた境地が、ニヒルに現実を突き放しながら酒を交わす喜びを詩に詠むことだったとすると、シビれます。

そんなアルカイオスの「お酒をうたった名歌」をいくつか、古代ギリシア語と拙訳とで引用させていただきます。

宴会好きの私としてはこれらの詩に語られている「お酒を巡ることども」の詩想はわかるような気もするのですが、やはりアルカイオスは古代ギリシアの人、現代の発想ではない言葉のつなぎ方をするので、詩の解釈には謎が残ります

私の好きなものとして、断章347と呼ばれている作品、その書き出し部分を取り上げましょう。

τέγγε πλεύμονας οἰνῳ(テッゲ ポレウノナス オイノー)

直訳すると、「肺腑をワインに浸そう!」ということになります。

「お腹いっぱい酒を飲もうぜ」とか「胃腸をお酒でいっぱいにしようぜ」とかいうなら、まだ理解の範疇ですが、「肺」とは。肺までワインでいっぱいになったらそれって「死」のレベルじゃないですか?

浅学な私には、ギリシアにもともとこういう諺があったのか、それともアルカイオスが本当にデカダンな雰囲気を出したくて過激な言葉づかいを選んでいるのか見分けはつかないのですが、強烈なインパクトを持った書き出しであることは確か。詩としてはこのあと、「この暑い季節じゃ草木は枯れていくだけだし、女どもは淫乱になるだけだ」というようなペシミスティックな情景を語ります。シブい、、、!

次は、断章38と呼ばれる作品から。

その書き出し部分が以下、ちょっと長く取ります。

πῶνε καὶ μέθυ᾿ ὦ Μελάνιππ᾿ ἄμ᾿ ἔμοι· τί φαῖς: ὄταμε[. . . .]διννάεντ᾿ Ἀχέροντα μέγ αν πόρον
ζάβαι[ς ἀ ελίω κόθαρον φάος ἄψερον ὄψεσθ᾿

詩想としては同じく、「なんで飲まずにいられようか」みたいなことを言っているのですが、すごいのが「酒を食らってΑχερονταを渡ろうぜ」という落とし方をしていること。

アケロン川のことです。ギリシアで信じられていた、冥界と現世の境界をなす川のことです。まあ、三途の川みたいなもんです

「酒でも飲んで三途の川を渡ろうぜ!」と言われると、なんだか陰気臭い気がするのですが、「酒でも飲んでアケロン川を渡ろうぜ!」と言われると、背徳的ながら冒険的なロマンも感じてしまうのは私だけでしょうか。。。閻魔大王のいる国へ行くのか、ハーデスが治めるという地下の神殿へ行くのかの違いです。

以上、駆け足ながら、私の愛する古代ギリシアの詩人アルカイオスの詩想の雰囲気を知って欲しく、いくつか紹介させていただきました。お酒を語りながらどこか過激な香りもするアルカイオスの歌、でも、こういうオッサンこそ一緒に飲むとめちゃくちゃ楽しいんじゃないかな。アルカイオス主催の宴会があるなら行ってみたい!幹事は私がやりますんで!

それにしても、外国語をやっていくと発見することですが、各国語の「詩」というものはやはりよいものです。母国語の詩だけを見ているとピンとこないことなのですが。

もはや日本の俳句とか和歌とかも、日本語を勉強している海外の方にこそ良さが伝わっているのかもしれません。母国語って、身近すぎて、その魅力がかえってわからなくなるものなのですよね、、、。

子供の時の私を夜な夜な悩ませてくれた、、、しかし、今は大事な「自分の精神世界の仲間達」となった、夢日記の登場キャラクター達と一緒に、日々、文章の腕、イラストの腕を磨いていきます!ちょっと特異な気質を持ってるらしい私の人生経験が、誰かの人生の励みや参考になれば嬉しいです!