風に立つ木

風に立つ木

大きな建物が解体されていました。上の方、脇の方から徐々に崩されていって、日に日にその高さを縮めています。少し古めの建物とはいえ、それなりに頑丈に作ってあっただろうに、きっと建て替えなんですね。

工事現場の皆さんは足場をしっかりと組み、騒音防止のためのシートのようなものを被せます。埃(ほこり)が舞わないよう、ホースで水をかけながら、重機で壁や柱を取り払っていきます。そして瓦礫(がれき)はそのままではなく、コンクリートと鉄筋が分別されて、大きなトラックに載せられて、現場を去っていきました。

ダイナマイトの爆発力を利用して、巨大なビルを一気に解体する映像をテレビで見たことがあります。準備にそれなりに手間がかかるのでしょうけれど、一瞬で仕事が片づいてしまうので、あんなふうにやってしまえばいいのに。そう思っていたら、だめなんですって、日本の建物は。外国のものに比べ厳しい耐震基準で設計されているため、爆破しようとしても、すっきりと「壊しきれない」そうです。

作業の済んだ階から、足場が取り外され、周囲はどんどん風通しが良くなってきます。一つの建物が無くなると、ずいぶんと景色が変わるものです。寂しいものですね。形あるもの、いつかは壊れる。今回のは壊しているんですけれど。

風雨や地震などの自然現象に耐えるべく建てられても、人の都合で壊してしまう。もったいない気がするし、そもそも良く考えて建てた方がよかったんじゃないのかしら、とも思うけど、時代が変わるといつまでも古い建物を使い続けるわけにもいかないか…。

建物の近くに大きな木がありました。たまたまその地に生を受けた木は、すくすくと育ち多くの枝葉を伸ばしていきます。太陽の恵みを受け、雨をも味方に、しなやかに風にそよぎ、天を目指して。強風にその身を裂かれても、新しい芽吹きを見せながら。

そんな木は伐採しちゃいけないよね、きっとそれは、人の都合では。
(やすだ)(初出は2010年10月30日)

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