12 マーヴェリックががっくんするわけ

2022年9月3日 最終更新日時 :2023年3月2日

TX816

サイエンスエッセイ 12

 トムクルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」が人気で、ロングラン上映中だ。機械好きの筆者は、戦闘機の(その用途はともかく)機械としての徹底した機能性に感心する。

 映画の中にこんなシーンがある。

https://www.youtube.com/watch?v=PYXDpFO56OE
の1分22秒あたりで、マーヴェリックががくんと前につんのめる。

 はて、これはなんだろうと思った次第。
 プロペラ機は翼が厚く大きく、低速でも揚力を生みだすことができる。一方ジェット機の翼は薄く小さく、同じ速度での翼の揚力はプロペラ機よりずっと小さい。発艦速度はプロペラ機よりずっと大きい必要がある。そこで生みだされたのがカタパルトだ。

 映画に登場する米海軍の空母では蒸気カタパルトを使う。
 飛行機の前輪にフックを引っ掛ける。フックは甲板の下でシリンダーにつながっている。高圧の蒸気をシリンダーにためこみ、一気に噴き出して飛行機を引く。もちろんエンジンも全開だ。2秒で時速300kmというから、乗員は座席の背に押し付けられる。その圧力は3Gだとか。自分の体重が3倍になった感じだというが、横向きだとイメージが湧きにくい。有人ロケットの打ち上げをイメージするといいかもしれない。操縦士は寝た形になっていて、体重を背中で感じている。それが3倍になった感じだ。

 つまり、射出時のパイロットは操縦席の背もたれに押し付けられている。それも自分の体重を超える圧力で。

 甲板の端でカタパルトの引っ張る部分ははずれ、そこからは自力で飛行だ。フックが飛行機を引っ張っている間は背中方向に押し付けられるが、フックがはずれた瞬間その力がなくなる。体は後ろに押し付ける力に耐えていたから、力がなくなった瞬間に前につんのめる。これはこれで、首に相当な負担がかかりそうだ。

 実物のコックピットの中の映像が見られるのは珍しい。映画の中では少々旧型の戦闘機が使われている。「今回のターゲットにはこの機種でないとだめだ」などと登場人物が説明するが、本当のところは、最新鋭機のコックピットの撮影は許されないのだろうと思っている。
 
 以前自衛隊の戦車を見学に行った時、最新型の戦車は、前から写真を撮ってもいいが車体後部は撮らないように言われた。後部にはエンジンのカバーなど装甲が弱い部分があるので、その写真は公開できないのだそうだ。

 以上、空母から飛び立つマーヴェリックがつんのめるわけでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?