見出し画像

最近の科学ニュース解説×6&お知らせ

皆さんおはこんにちばんは!サイエンスライターの彩恵りりだよ!

今回は、最近あった科学ニュースを6本解説してみたんだけど、なぜここにまとめて書いたのかと言うと、見本としてなんだよね。何の見本かと言えば、ニュース解説のサブスク化、まぁ少し古く言えば有料のメルマガ化をちょっと検討してるんだよね。私も生活しなきゃならないし……!ってことで、これくらいのクオリティや分量で果たして有料化してもいいのかどうかというところで、ぜひ意見を頂戴したいんだよ……!

ちなみに見本だからって手を抜いてないよ!内容はもちろんちゃんとしてるつもりだよ!

78万年前の "コイの土鍋オーブン焼き" の痕跡を発見!世界最古の火を使った調理の証拠

78万年前の魚の化石を分析した結果は、恐らくコイの仲間を土製の容器で覆って火にくべる、現代風に言うなら "コイの土鍋オーブン焼き" にしたことを示唆しているよ!これは世界最古の火を使った調理の証拠である可能性があるよ。 (画像引用元)

火を使って調理を行うことは重要な人類史の転換点であると見なされているよ。火を使って肉や魚を焼くことは、生よりも柔らかくて食べやすくなり、栄養価を高め、殺菌による安全性を高めることにつながるからだよ。脳が大きくなったのは火による調理が要因であると考える研究者も少なくないことから、人類がいつ火を使った調理法を確立したのかは注目されるポイントの1つだよ。ただ、食器の焼け焦げのようなわかりやすい証拠は、条件が良くても数万年程度しか残らず、それより古いものは掘り出された化石に加熱の証拠があるかどうかの分析になるよ。ただしもちろん、野火のような自然の火災による加熱もそのような証拠を残すし、仮に人為的関与が示唆されるものでも、食べ残しや骨を火に入れただけという可能性を排除することは困難だよ。例えば、単純に古いだけなら150万年前の動物の加熱調理の証拠があるけれども、これは人為的な加熱かどうかに大きな疑問符がついているよ。

テルアビブ大学などの研究チームは、この種の研究における重要な発見をしたよ。イスラエルにあるGesher Benot Ya'aqov遺跡 (GBY遺跡) は、囲炉裏のような火を使った痕跡が見つかっている場所だよ。そしてGBY遺跡の78万年前のII-6 L1-7地層には特徴があるよ。ここにはLuciobarbus longicepsとCarasobarbus canisという、どちらも体長2mに達するコイの仲間の化石が見つかっているけど、ほとんどこの2種類で占められているという極端な多様性の低さに加えて、ほとんどが歯の部分しかなく、他の大部分の骨が未発見という偏りがあるよ。これは自然に起こる偏りとは思えず、人類によって食べられた跡であるという根拠となっているよ。GBY遺跡自体から人類の化石は見つかっていないものの、年代からホモ・サピエンス (Homo sapiens) ではなくホモ・エレクトス (Homo erectus) ではないかと見られているよ。

この歯の化石は、火打石の微細な破片と関連して見つかることから、火にかけられた可能性があるよ。そこでエナメル質の結晶サイズから、魚が高温に晒されたかどうかを調べたよ。エナメル質の結晶が大きければ大きいほど、より高温に晒された可能性があるよ。そして温度ごとの結晶サイズの比較対象は、すぐに入手可能で種類が近いアオウオ (Mylopharyngodon piceus) が選ばれたよ。その結果、GBY遺跡で見つかった魚は、200℃から500℃という温度に晒されたことが分かったよ!これは火にかけられなければ達しない温度である一方、直接火にくべられたわけではない低温調理であることを示していることから、自然が要因である可能性は低く、直接火あぶりにされたわけでもないことを示唆しているよ。

GBY遺跡で見つかる他の遺物から推定すると、魚全体を土製の容器で包み込んで火にくべたものと推定されるよ。つまり今風に言えば "コイの土鍋オーブン焼き" というわけ!78万年前の火を使った調理の証拠は世界最古の発見であり、以前の記録を60万年もさかのぼるという非常に重要な発見だよ!また、GBY遺跡から魚の歯しか見つからないのは、骨が低温調理で柔らかくなったことで、魚肉と共に食べられたからと推定することができるよ!人類が魚を食べ始めたのは200万年前と推定されているけれども、骨ごと食べられるようになるという点は栄養価の面で非常に改善されていることから、これはとても重要な発見だよ!

もちろん、今回の研究結果はこのシナリオが最も妥当であるというものであって、単に口の部分が他より火力の弱い部分に置かれただけの可能性や、食べられない部分が燃え残りに投げられた可能性を排除しないよ。ここらへんの反論はより詳細な研究で覆る可能性もあるけど、そこも含めてかなり注目される研究として、更なる調査が必要になると思うんだよ!

[原著論文]
●Irit Zohar, et.al. "Evidence for the cooking of fish 780,000 years ago at Gesher Benot Ya’aqov, Israel". Nature Ecology & Evolution, 2022. DOI: 10.1038/s41559-022-01910-z

[参考文献]
●Tel-Aviv University. (Nov 15, 2022) "Oldest evidence of the controlled use of fire to cook food". ScienceDaily.
●Christa Lesté-Lasserre. (Nov 14, 2022) "Early humans may have cooked fish in ovens 780,000 years ago". NewScientist.

タンパク質のミスフォールディングは "遅い水の殻" が関与している可能性が判明!

普通の水と重水それぞれに、塩化ナトリウムまたはヨウ化セシウムを溶かした場合の、α-シヌクレインの凝集率の変化を表したグラフ。塩化ナトリウムの方が凝集割合が高くなり、濃度が高いほどスピードも上がったよ。また重水ではその傾向がより強くなったよ! (画像引用元)

タンパク質」はアミノ酸が多数結合してできている分子だけど、タンパク質が生体内で機能する時には、組成だけでなく、タンパク質の形、より正確には折り畳まれ方が重要になるよ。折り畳まれ方そのものは無数に考えられるけど、正しく機能するには特定の折り畳まれ方になってる必要があるよ。逆に正しくない折り畳まれ方である「ミスフォールディング」をすると、タンパク質は正常な働きをせず、それどころか毒性を発揮することすらあるよ!パーキンソン病やアルツハイマー型認知症のような治療法の見つかっていない難病は、タンパク質のミスフォールディングが原因で起こる病気であると考えられているよ。また、牛海綿状脳症 (BSE) やクロイツフェルト・ヤコブ病は、ミスフォールディングしたタンパク質であるプリオンの摂取で起こると考えられているよ。

ただ、なぜタンパク質が体内でミスフォールディングをするのか、そのきっかけや原因についてはほとんどわかっていないよ。ミスフォールディングの原因を突き止めれば、現在進行を止めることはできても根本的な治療法が存在しないこれらの病気に光を当てる可能性があるよ。ただ、タンパク質は極めて複雑な構造を持つ分子であることから、研究は難航していたよ。

この現状に対し、ケンブリッジ大学などの研究チームは別のアプローチからの研究を試みたよ。これまでタンパク質の折り畳まれ方に関する研究は、タンパク質の構造そのものに焦点が当てられてきたよ。ただ、実際に生体に存在するタンパク質は、分子の周りを水が覆っている「溶媒和殻 (水和殻)」という状態にあるよ。溶媒和殻はタンパク質分子と結合していることから、タンパク質の折り畳まれ方に影響を与えることは予想されていて、水分子の動きが遅いほどタンパク質の凝集速度が上がると予想されていたけど、これまでそれについては研究されてこなかったよ。そこで研究チームは、溶媒和殻を構成する水分子の挙動がタンパク質の折り畳まれ方に影響するのかどうか、実験を行ったよ。

用意したのは、ミスフォールディングがパーキンソン病の原因になるとされる「α-シヌクレイン」だよ。これを水に溶かしたうえで、水分子の動きを阻害するものとして塩化ナトリウム ($${\text{NaCl}}$$) またはヨウ化セシウム ($${\text{CsI}}$$) を一緒に溶かしたよ。塩化ナトリウムもヨウ化セシウムもイオン化結晶であり、電気を帯びたイオンが水分子と結合するよ。イオンが結合した水分子はそれだけ重くなるから、動きが遅くなるわけ。ただし、塩化ナトリウムはナトリウムイオンも塩化物イオンも水分子と強く結合する傾向があるけど、ヨウ化セシウムはセシウムイオンもヨウ化物イオンもあまり水分子と結合しないことから、水分子の動きは塩化ナトリウムの方が遅いはずだよ!

実験の結果、塩化ナトリウムと一緒に水に溶かしたα-シヌクレインは、ヨウ化セシウムと一緒に水に溶かしたα-シヌクレインと比べ、凝集スピードが上がったことが分かったよ!これはつまり、水分子の動きが遅いほど、α-シヌクレインのミスフォールディングが促進されたと言い換えることができるよ!この予想は、水 ($${\text{H}_{2}\text{O}}$$) をより重い重水 ($${\text{D}_{2}\text{O}}$$) に置き換える実験でも証明されたよ。重水は普通の水より分子が重いから、それだけ挙動も遅くなるよ。重水に置き換えても凝集スピードが上がるということは、イオンを溶かした場合にも表れた、水分子の動きの遅さがミスフォールディングを促すという予想と一致するものだよ!

治療薬を見つけるという研究では、人工的に合成したタンパク質や、人工培養した細胞に対して治療薬候補を試すという段階があるけれども、それは今回の実験のように、タンパク質と水に別の物質を混ぜて溶かしている、と言い換えることができるよ。タンパク質と治療薬候補の相互作用はよく検討されているけれど、治療薬候補が水分子にどう影響されるかという点はほとんど考慮されなかったことを考えれば、今回の研究は治療薬探索に重要な助言を与えると言えるよ。これまで治療薬の探索に苦労しているのは、水分子の挙動を考慮していなかったからかもしれない、ということになるよ!

[原著論文]
●Amberley D. Stephens, et.al. "Decreased Water Mobility Contributes To Increased α-Synuclein Aggregation". Angewandte Chemie International Edition , 2022. DOI: 10.1002/anie.202212063

[参考文献]
●Sarah Collins. (Nov 15, 2022) "Slow-moving shell of water can make Parkinson’s proteins ‘stickier’". University of Cambridge.

「中性子過剰核」に関する新研究!最重ナトリウム同位体合成報告と5つの原子核の半減期測定報告

今回の研究では、1つの中性子過剰核が新たに合成され、5つの中性子過剰核の半減期が詳しく測定されたよ! (画像引用元)

原子核は超高密度な物質の塊で、その性質を探ることは一般的に難しいよ。原子核の性質を直接測定するのが難しい代わりに、核物理学の分野では原子核をモデル化し、性質を計算によって求めようとするよ。その代表的なモデルが「シェルモデル (殻模型)」だよ。ただ、シェルモデルが必ずしも正しい計算結果を弾き出すわけじゃないこともわかっていて、直接測定の結果を入れて常に修正を入れているよ。もちろんこれは簡単じゃないよ。

モデルの修正でよく使われるのは「中性子過剰核」と呼ばれるものだよ。原子核は陽子と中性子のいくつかの組み合わせでできているけど、中性子過剰核は名前の通り陽子に対して中性子が過剰に多くくっついている原子核だよ。そして、中性子が多くなればなるほど寿命は短くなり、いつかは中性子そのものが原子核に結合しなくなるよ。この限界となる境界線を「中性子ドリップライン」と呼ぶよ。

ただ、中性子ドリップラインを理論的に求めることは難しくて、実際に合成してみるしかないという場面がしばしばあるよ。なぜなら、中性子はがっちりと原子核に結合するものの他に、「中性子ハロー」と呼ばれるより緩い結合で安定化することもあるからだよ。この存在が、原子核のモデル化を困難にするよ。

日本の理化学研究所のRIBF (RIビームファクトリー) 、そしてアメリカにあるFRIB (Facility for Rare Isotope Beams) は、合成が難しい中性子過剰核を大量に合成し、性質を調べられる数少ない施設だよ。特にFRIBは稼働したばかりの施設で、今回の研究論文は初期段階の性能テストも兼ねているよ。どちらの施設でも、$${^{48}_{20}\text{Ca}}$$ (カルシウム48) をビーム化してベリリウムターゲットに照射する実験を行ったよ。$${^{48}_{20}\text{Ca}}$$は陽子より中性子が8個も多いという中性子過剰核ながら極めて安定しているという珍しい原子核だよ。これをベリリウムのターゲットに高速でぶつけると、$${^{48}_{20}\text{Ca}}$$はバラバラになり、別の中性子過剰核を作るはずだよ。これを調べることで、あまり調べが進んでいない、あるいはまったく未知の中性子過剰核の性質を調べられるはずだよ。

RIBFからの論文は、全く新しい中性子過剰核である$${^{39}_{11}\text{Na}}$$ (ナトリウム39) の合成を報告したよ!これは最も重いナトリウムの同位体の合成報告であるだけでなく、20年ぶりに新しいナトリウムの同位体の合成報告になるよ!合成された$${^{39}_{11}\text{Na}}$$は9個であり、合成報告は疑いようもないよ。ナトリウムの1つ手前の元素、ネオンは$${^{34}_{10}\text{Ne}}$$ (ネオン34) でドリップラインを迎え、それ以上重い原子核を合成することができないのはわかっているよ。だからナトリウムについては、その前に合成報告のあった$${^{37}_{11}\text{Na}}$$でドリップラインを迎える可能性はあったけど、今回の合成でさらにラインが動いたわけ!重要なこととして、$${^{39}_{11}\text{Na}}$$は中性子が28個だよ。これは魔法数と呼ばれる、特に原子核が安定化する数を満たしているよ。中性子過剰核では、安定な原子核で現れる魔法数の法則が消え、新たな魔法数が現れることが知られているよ。$${^{39}_{11}\text{Na}}$$の存在が、28という安定核での魔法数と関連しているかどうかは、これから調べていくことでわかるかもしれないよ。

FRIBからの論文は、すでに発見されているけど、その性質がよくわかっていなかった中性子過剰核の半減期測定に関する報告だよ。合成された原子核はいくつかあるけど、特に注目は$${^{38}_{12}\text{Mg}}$$ (マグネシウム38) 、$${^{40}_{13}\text{Al}}$$ (アルミニウム40) 、$${^{41}_{13}\text{Al}}$$ (アルミニウム41) 、$${^{43}_{14}\text{Si}}$$ (ケイ素43) 、$${^{45}_{15}\text{P}}$$ (リン45) だよ。これらはどれもすでに合成報告自体はあったけど、性質はほとんどわかっていなかったよ。FRIBではこれらの原子核の半減期を測定することに成功したんだよ。注目すべきことに、ほとんどの原子核は理論で予測されるのと一致する半減期を示していたけど、$${^{38}_{12}\text{Mg}}$$だけは予想より短い半減期だったよ。これはシェルモデルを修正する1つの数値となるはずだよ。

FRIBはまだ稼働したばかりで、これら軽い元素の中性子ドリップラインに達するような中性子過剰核を合成する能力はまだ十分じゃないよ。ただ、この後のアップデートで400倍も強力なビームを出せるようになるから、今回の実験を含め、様々な中性子過剰核を研究する重要な手段となってくれるはずだよ!

[原著論文]
●H. L. Crawford et.al. "Crossing $${N=28}$$ Toward the Neutron Drip Line: First Measurement of Half-Lives at FRIB". Physical Review Letters, 2022; 129 (21) 212501. DOI: 10.1103/PhysRevLett.129.212501
●D. S. Ahn, et.al. "Discovery of $${^{39}Na}$$". Physical Review Letters, 2022; 129 (21) 212502. DOI: 10.1103/PhysRevLett.129.212502

[参考文献]
●Lauren Biron. (Nov 14, 2022) "FRIB Experiment Pushes Elements to the Limit". DOE/Lawrence Berkeley National Laboratory.
●"超中性子過剰同位元素ナトリウム-39を発見 -ナトリウム同位元素の既知存在限界を20年ぶりに更新-". (Nov 17, 2022) 理化学研究所.
●Yorick Blumenfeld. (Nov 16, 2022) "Probing the Limits of Nuclear Existence". Physics.

身近だけど長年の謎!「炭酸」の結晶構造を確定

今回合成された重水素化炭酸の固体の結晶構造。重水素が酸素と水素結合で繋がり、単斜晶系を構成することが今回初めて明らかになったよ! (画像引用元)

炭酸飲料や雨水などでおなじみ、極めて身近な存在の「炭酸」だけど、実は大きな謎を抱えていたんだよ。炭酸を化学式で表すと$${\text{H}_{2}\text{CO}_{3}}$$だけど、実はこの化学式で表せる物質は、長年水溶液中のイオンとしての存在でしか知られていなかったよ。遊離した状態の純粋な炭酸は極めて不安定な物質で、水分子がわずかでも (理論上は1分子だけでも!) 存在すれば、水と二酸化炭素に分解し、生じた水が更に炭酸を分解するよ。この不安定性が、長年炭酸を純粋な物質として取り出すことを阻んできたんだよ。純粋な炭酸と呼べる物質は、1965年に気体として初めて合成されたよ。

無事合成された後も、炭酸の性質を知ることは長年の課題だったよ。水分子に対する不安定性は先述の通りだけど、逆に水分子が存在しなければ、炭酸は半減期18万年という比較的安定な物質として存在続けると考えられているよ。また、低温では気体から固体になるとも推定されているよ。このことは、水から隔離された環境である地球大気の上層部、彗星や太陽系外縁天体のような低温の天体に相当な量で炭酸が存在しうることを示唆しているよ。宇宙空間における炭酸の存在の有無や固体で存在できるかどうかは、宇宙空間で起こる化学反応の様子をガラリと変える可能性もあるから、観測によって存在を探れないかが検討されているけど、そのためには固体の炭酸の性質を詳しく知る必要があるよ。

ただし、固体の炭酸を研究することは、炭酸の合成と同じくらいに難題だったよ。どうしても痕跡量の水が存在しうる実験室では、炭酸が極めて不安定であることに加えて、炭酸を固体にするには低温と高圧を同時に加えるという作業が必要になるよ。普通は圧力を加えれば温度が上昇するから、高圧と冷却を同時に行う必要があることを意味するよ。そして、仮に固体の炭酸を合成できたとしても、固体の性質を大きく決める結晶構造の分析は更に難しいよ。炭酸は水素・炭素・酸素という軽い元素で構成されていて、結晶構造の分析に一般的に使用されるX線や電子線での分析を困難にするよ。特に特に水素を含むことは、X線や電子線で結晶構造を分析することを実質的に不可能にするよ。唯一可能なのは中性子線による分析だけど、中性子線を照射して結晶構造を分析する装置は世界でも少ない上に、感度が悪いことから大量のデータを分析しなければならないという別の問題にも当たるよ。しかも、高圧をかける装置は、普通は極めて少量のサンプルでしか実行できない一方で、結晶構造を求めるにはそれなりの量のサンプルが必要と言う矛盾も解決する必要があるよ。

ミュンヘン工科大学とホフマン先端材料研究所の研究チームは、長年の謎であった炭酸の固体の結晶構造を突き止めたと発表したよ!まず合成目標は、普通の軽い水素の代わりに、より中性子線の感度が高い重水素を使用した重水素化炭酸 ($${\text{D}_{2}\text{CO}_{3}}$$) としたよ。次に、炭酸を直接合成するため、重水 ($${\text{D}_{2}\text{O}}$$) と二酸化炭素 ( ($${\text{CO}_{2}}$$)) を直接圧縮して合成する手法を取ったよ。重水と二酸化炭素は凍結の上粉砕混合され、約0.4mLをニッケル-クロム-アルミニウム合金製の囲いに入れたよ。そして、液体窒素で冷やしながらダイヤモンドアンビルセルにかけ、-100℃と1.85GPa (18億5000万Pa・1万8500気圧) の低温高圧下にかけたよ。そして、合成されたであろう重水素化炭酸に中性子線を照射し、結晶構造を測定したよ。

実験結果を出せるまではかなりかかったよ。さっき書いた通り、炭酸は不安定で、中性子線はきちんとした結晶構造を出すのに多数の測定が必要だよ。炭酸が合成されたと証明するのに8年、結晶構造を割り出すのに2年もかかったよ!そして長年の苦労の末、合成された固体炭酸は単斜晶系であることが分かったよ。この結果は、それまでの限定的な合成結果による荒い測定結果や、理論的に予測されていた結晶構造とよく一致するものだったよ!炭酸分子は他の炭酸分子に含まれる酸素原子と水素結合を形成することや、メソメリズムとして二重結合が移動することも合わせて判明したよ。

今回の測定結果から、例えば宇宙空間に存在する純粋な炭酸をどう検出するか、という考えを巡らせることができるよ。炭酸は宇宙に豊富に存在し、恐らく惑星の地下深くに豊富に存在することも珍しくないはずだよ。このことは、例えば惑星の深部で炭酸が固体化する可能性もあり、その時には、例え余剰の水分が存在したとしても固体の炭酸が存在するかもしれないよ。多量の固体の炭酸は、惑星科学的にも影響を及ぼす可能性もあることから、これからも興味が尽きない物質だよ!

[原著論文]
●Sebastian Benz, et.al. "The Crystal Structure of Carbonic Acid". Inorganics, 2022; 10 (9) 132. DOI: 10.3390/inorganics10090132

[参考文献]
●Michael Hofmann&Richard Dronskowski. (Nov 22, 2022) "Neutronen vom FRM II machen Kristallstruktur von Kohlensäure sichtbar; Phantom Kohlensäure: Und es gibt sie doch!". Technische Universität München.
●Wolfgang Hage, et.al. "Carbonic Acid in the Gas Phase and Its Astrophysical Relevance". Science, 1998; 279 (5355) 1332-1335. DOI: 10.1126/science.279.5355.1332
●Thomas Loerting, et.al. "On the Surprising Kinetic Stability of Carbonic Acid ($${\text{H}_{2}\text{CO}_{3}}$$)". Angewandte Chemie International Edition, 2000; 39 (5) 891-894. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(20000303)39:5<891::AID-ANIE891>3.0.CO;2-E

「スギヒラタケ」の毒性は3成分が複雑に関与していると判明!

英語で天使の羽とも呼ばれるスギヒラタケは、2004年までは普通に食用とされていて、近年まで毒キノコであることが気づかれていなかった極めて珍しい例だよ! (画像引用元)

古今東西様々な毒キノコが知られているけど、「スギヒラタケ (Pleurocybella porrigens)」ほど奇妙な経歴を持つ毒キノコも他に例がないよ。スギヒラタケは北半球の温帯以北の地域に広く分布しているキノコであり、日本では東北地方・北陸地方・中部地方で普通に食用とされてきたよ。特に東北地方では極めてなじみ深く、平成の大嘗祭で庭積机代物として秋田県から奉納されたものの1つにスギヒラタケが含まれているくらいだったよ!ところが2004年秋ごろから、スギヒラタケを食べた人の間で急性脳症の発症が報告されたよ。59人の発症例と、17人もの死者も出たことから、それ以来スギヒラタケは毒キノコとしてカウントされ、食用が控えられるキノコに数え上げられたよ。

もちろん、スギヒラタケが2004年を境に毒性を獲得したわけではなく、それ以前の報告はスギヒラタケとの関連が分からなかっただけだと見られているよ。では、スギヒラタケのどんな物質が悪さをしているんだろうね?それを特定すれば、もしかするとスギヒラタケの毒抜き方法が分かるかもしれないよ。またそれが無理だったとしても、同じような成分を持ちながら見逃されていた "食用毒キノコ" を見つけられるかもしれないよ。

ところが、その発見は困難を極めたよ。毒性が確認された直後から厚生労働省が研究班を立ち上げるほどだったけど、それでも原因が分からず、研究班は2006年に解散されたよ。毒キノコに限らず、生物由来の毒は複数の成分が複合的に関与して初めて毒性を発揮する場合があるから、単純な "容疑者" でも無数に考えられるよ。また、脳は重要な臓器であることから、脳に入る血管の入り口には「血液脳関門」という一種の関所があるよ。ここは脳の活動に必要な物質以外は通さないようにできていて、そのチェック機能は極めて厳しいよ。毒性物質が脳で毒性を発揮するには、チェックの厳しい血液脳関門をすり抜ける騙しの構造を持っているか、頑丈な血液脳関門を破壊するしかないけど、これも中々特定が難しいよ。


今回の研究で明らかにされた、推定されるスギヒラタケの毒性発現メカニズム。プレウロサイベリン (今回の研究で発見) とレクチンが複合体を作ると、血液脳関門を破壊するタンパク質分解活性を示すよ。そして素通りできるようになったプレウロサイベルアジリジンが脳内に移動し、海馬を構成する細胞のアポトーシスを誘導することが分かったよ! (画像引用元)

宇都宮大学などの研究チームは、厚生労働省の研究班解散後も研究を続けてきたところの1つで、今回スギヒラタケの毒性に関する重要な報告を挙げたよ!それによれば、スギヒラタケは3つの成分が複雑に関与することで脳にダメージを与えることが示されたよ!

まず、スギヒラタケから抽出された成分の中で、マウスに対して致死活性を示し、それまでに知られていない物質を見つけたよ!煮沸でも毒性を失わないこの成分は「プレウロサイベリン (Pleurocybelline)」と命名されたよ!ところがこの成分そのものは、マウスの脳に対して何のダメージも与えないことが示されたよ。ただし、プレウロサイベリンは別の悪さをする可能性があると研究チームはにらんだよ。と言うのは、プレウロサイベリンと、スギヒラタケに含まれる「レクチン」の複合体が、過去の研究で毒性を示した物質と似ている部分があったからだよ。これは、インフルエンザ脳症に先立って血液脳関門を破壊するトリプシン様プロテアーゼや、自然界最強の毒素であるボツリヌス毒素のリシンB鎖およびヘマグルチニン成分と構造的に類似していたよ。実験の結果、睨んだ通り血液脳関門を構成するタンパク質を分解する作用を示したよ。更に、タンパク質を分解する物質はタイプを選ぶことが多いけど、今回は選ばないで分解できる (より正確には、N末端とC末端の両方を分解できる) という、タンパク質ではこれまで知られていない性質を示すことが分かったんだよ! 

そして、トドメは「プレウロサイベルアジリジン (Pleurocybellaziridine)」という別の物質が刺していることも今回の研究で明らかにされたよ。プレウロサイベルアジリジンは2011年の研究でスギヒラタケから単離された低分子化合物としてその存在が知られており、直接の毒性分であると思われていたよ。ところが、プレウロサイベルアジリジンは血液脳関門を通過できないから、これがあるだけでは脳症を発生させることはないわけ。そこでマウスの脳で実験を行ったところ、プレウロサイベリンとレクチンの複合体が血液脳関門を破壊した後、プレウロサイベルアジリジンが海馬に達し、アポトーシス (細胞死) を誘発したことがわかったよ!これは2004年に報告された急性脳症と一致する部分があるよ。更に研究の必要があるものの、今回の研究は過去の症例報告と一致するよ!

今回の研究では、プレウロサイベリン+レクチン+プレウロサイベルアジリジンという3つの成分が脳症の原因であると報告したよ。今回の研究結果が正しいかどうかは更なる研究が必要だけど、それでも過去の研究との比較や、マウスの症例からすると妥当と考えられるから、とても興味深い研究だよ!

[原著論文]
●Tomohiro Suzuki, et.al. "Possible molecular mechanism for acute encephalopathy by angel-wing mushroom ingestion – Involvement of three constituents in onset –". Toxin, 2023; 221, 106958. DOI: 10.1016/j.toxicon.2022.106958

[参考文献]
●鈴木智大. (Nov 16, 2022) "2004年の急性脳症事例から18年 スギヒラタケを原因とする急性脳症に新たな知見 ― 3つの成分が複合的に発症に関与 ー". 宇都宮大学.
● Toshiyuki Wakimoto, et.al. "Proof of the Existence of an Unstable Amino Acid: Pleurocybellaziridine in Pleurocybella porrigens". Angewandte Chemie International Edition, 2011; 50 (5) 1168-1170. DOI: 10.1002/anie.201004646

中性子星は質量によらず大きさが同じくらいだと判明!重くなるほど "柔らかくなる傾向も?

今回の研究結果を端的に表したイメージ図。中性子星をチョコレート菓子に例えるなら、軽い中性子星は中心部に硬いヘーゼルナッツがある一方で、重い中性子星は中心部がプラリネになっている、と例えることができるよ。 (画像引用元)

中性子星」は物質の究極の形態の1つであると言えるよ。直径十数kmの中に太陽と同じくらいの質量が詰まっていて、平均密度は$${10\text{億t/cm}^{3}}$$にも達するよ!これが起こるのは、強大な重力で物質が限界まで詰まっている状態だからだよ。普通の環境で物質が限界まで詰まっているのは陽子や中性子が固まった原子核だけど、中性子星はほとんどすべてが中性子でできた塊で、普通の原子核と同等から数倍程度の密度まで押し込まれているんだよ。これを超えてしまうと無限に潰れてブラックホールになってしまうから、物質の性質を現代の物理学で論ずるのは中性子星が限界で、だからこそ物質の究極形態として注目されているんだよ。

ただ、もちろん中性子星は地球環境には存在せず、実験室でも作れないものだよ。そして中性子が数十個から数百個くっついた塊ですら、現代物理学で完全に記述することができないほど厄介な対象なのに、中性子星はざっと$${10^{57}}$$個ほどの中性子の塊だから、そう簡単に性質が明らかになることはないよ。これほどの高密度・高エネルギーな場を記述する論理モデルは存在せず、近似値で理解を深めようとしている段階だけど、その近似値すら "何が正しいのか" が十分に判明していないという問題があるよ。

ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マインなどの研究チームは、この厄介すぎる相手にある意味で正攻法で挑もうとしたよ。中性子星の内部状態を探るために使われる状態方程式を、ありうるパターンすべてについて網羅的に計算を行って、中性子星の内部を探ったんだよ!もちろん、無限にありうるすべてというわけじゃなく、宇宙に存在する中性子星の観測値を元に数値的な制約をかけたんだけど、それでも状態方程式は100万通り以上もあり、計算ではじき出された "中性子星" は1000万個以上もできたよ!

ところで何を計算したのかというと、大雑把に中性子星の内部が "硬い" か "柔らかい" かを探ったよ。これは、硬い部分ほど強く圧縮されていることを意味していて、言い換えれば、どこが一番中性子星の自重を支えているかを推定する材料になるよ。この硬い柔らかいというのは、状態方程式の上では音速に置き換えられるよ。音速と言われるとちょっとピンとこないけど、これは地球の内部構造を探る際に自然または人工で発せられた地震波を使うのと同じことだよ!

TOV限界に対する質量の比率が0.5倍、0.75倍、1倍 (およそ太陽質量の1倍、1.4倍、2倍に相当) である時の、中性子星内部の音速の変化。0.5倍と0.75倍を比較すると、より中心部に近いところまで音速が変化しない=硬さが変化しないことが分かったよ。また0.75倍を超えると、半径の約3分の1の部分で音速が上がる=硬くなっていることが分かったよ。 (画像引用元)

今回は、中性子星が重力で潰れない限界であるトルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界 (TOV限界) を$${M_{\text{TOV}}\lesssim2.16^{+0.17}_{-0.15}M_{\text{☉}}}$$と仮定したから、太陽の質量の1倍から2倍の範囲内にある中性子星の状態を仮定し計算を行ったよ。すると、太陽質量の1倍から1.4倍くらいまでの軽い中性子星は、中心部が硬く、外側が柔らかいことが判明した一方で、太陽質量の1.4倍以上という重い中性子星の場合、中心部は柔らかく、外側が硬いことが判明したよ!中性子星をチョコレート菓子に例えるなら、軽い中性子星は中心部に硬いヘーゼルナッツがある一方で、重い中性子星は中心部がプラリネになっている、と例えることができるよ。また軽い中性子星でも、より重くなるほど外側から中心部に向かっての硬さの変化が急激に変化する傾向にあることから、中性子星は重くなればなるほど、中心部ではなく中心部のすぐ外側、中心部から半径の約3分の1の距離で一番重力を受け止めているらしいことが判明したよ!

更に別の予想外な結果として、太陽質量の1.4倍の中性子は半径$${12.42^{+0.52}_{-0.99}\text{km}}$$、太陽質量の2倍の中性子は半径$${12.12^{+1.11}_{-1.23}\text{km}}$$であると計算されたよ。これは中性子星の観測値と一致するだけでなく、中性子星は質量によらずほぼ同じ大きさを有するという結果を出しているんだよ!これは中性子星の実際の観測や、物性を探る研究で1つの大きなヒントになるかもしれない結果だよ!

[原著論文]
●Sinan Altiparmak, Christian Ecker & Luciano Rezzolla. "On the Sound Speed in Neutron Stars". The Astrophysical Journal Letters, 939 (2) L34. DOI: 10.3847/2041-8213/ac9b2a
●Christian Ecker & Luciano Rezzolla. "A General, Scale-independent Description of the Sound Speed in Neutron Stars". The Astrophysical Journal Letters, 939 (2) L35. DOI: 10.3847/2041-8213/ac8674


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?