ホラクラシーの重要概念"Tension"と「じゅんかん(JUNKAN)」

ティール×選挙 (詳細編 後半) 〜 2ヶ月で創るPre-Tealなボランティア組織」では説明しきれなかった「Tension」と「じゅんかん(JUNKAN)」についての補足記事です。

ホラクラシーのもっとも重要な概念・用語の一つが「Tension」です。「Tension」とは、メンバーの各自が心や頭で自覚する"is"(組織の現状)と"to be"(組織のこうあってほしい理想状態)との差異によって生まれる「緊張」を示しています。噛み砕くと、現実と理想のギャップの大きさとも言えるでしょう。

よりイメージをもって理解していただくために、"is"と"to be"の間を1本のゴム(あるいは筋肉でも良いでしょう)がつないでいる状態を思い浮かべてみてください。"is"と"to be"の間の距離が長くなると、ゴム(筋肉)は大きく引き伸ばされますね。このときにゴム(筋肉)には「緊張」が生じます。このイメージから、ホラクラシーでは「Tension」という言葉を当てはめました。

ホラクラシーでは、このメンバー各自が感じる「Tension」を、組織として大切に扱うことが定められています。このことは、ティールにおける個と全体の相互作用を実現する上で大切です。メンバーの誰かが感じている、あるいは、感じ始めている「Tension」は、組織全体の目的達成にとって必要な伸びしろの存在を示唆するものであるからです。

このように、とても重要な概念ですが、日本人の我々からすると、「Tension」というのはしっくりこない言葉であるとも言えるでしょう。「テンションが高い」という日本語表現に、「緊張」というイメージを持つ日本語話者は少ないと思います。

私が参画しているNOL Junkanチーム(Natural Organizations Lab, Inc.を中心とする実践者チーム)では、自然界とくに古来からの自然な「農」をメタファーとして、ティール組織の概念を理解を進めています(クライアントさんにもそのように理解をしていただいています)。肥料や農薬に頼らない古来からの自然な農は、土壌の力と太陽と雨水が主役です。土壌が本来持っている力の源は、豊かな菌類の働きです。農作物や動物が一生を終え、土に還る際に、土壌の菌類がそれらを分解し養分にします。その養分は、また新しく生まれる農作物の命のために使われていきます。このように、自然界では命の循環が起きています。その循環が滞ると、自律的には命が生み出されにくい土になってしまいます。肥料や農薬など他律的な援助に依存することになります。自然界のエコシステムが自律的に維持されていくためには、命の循環はとても大切な仕組みです。

そこで、NOLでは、「Tension」を「じゅんかん(英語表記では JUNKAN)」と呼び、組織が自律的で生き生きと命の輝きを発揮するためには、メンバー各自が感じている、違和感や問題意識、モヤモヤ、現実と理想のギャップは、自律組織が健全に発展・進化してゆくために重要なシグナルですよ、いちばん大切な「命の循環」のきっかけを作り出すものですよ、という理解をもってもらっています。

そして、この「じゅんかん(Tension)」が、メンバーから表明されやすい(挙がりやすい)ようにすることと、あがった「じゅんかん(Tension)」は、いかなる内容であっても、挙げたメンバーのニーズ・文脈・想いを最大限に尊重する形で扱わることが約束されます。

「じゅんかん(Tension)」のイメージが湧かない方は、ミーティングにおいて話したいこと(要はアジェンダと呼ばれているもの)もその一つです。他のメンバーにしたい質問やリクエスト(○○に関する情報がほしい等)ということも「じゅんかん(Tension)」の一例です。また、「なんとなく最近チームの雰囲気が悪い」といったように解決策や根拠が明確ではないことも「じゅんかん(Tension)」の考え方では、尊重すべき大切なこととなります。また「つわりがきつい」といった個々人の体調や事情に関することも、尊重すべき大切な「じゅんかん(Tension)」です。明確に言語化できないことも良いです。「じゅんかん(Tension)」を挙げた人が、言語化できなくても、他の人がそれに寄り添い、明確化を手伝います。ましてや、「じゅんかん」を挙げた人が、解決策まで提示する必要はありません。

逆に言えば、各メンバーの視点から見ると、感じた「じゅんかん」をメンバーに対して表明すること、自律組織において重要なことであるという考え方を信じて、表明する勇気・姿勢が求められます。「このようなことをいうのは生産的ではないのでは?」「こんな個人的なことを言ったら同僚になんて思われるだろう?」「代替案や解決策の無い問題提起は無責任なのでは?」といった、従来のマネジメントにおけるルール・マナーと異なる部分に対して、ある種の勇気や頭の切り替えが必要です。これはティールにおいて大切な概念であるWholnessにも関わってきます。

実務においても、ホラクラシーの実践において、最初の壁の一つはこの点です。実践数を重ねることで、大抵は慣れの問題として解決されていきます。しかしながら、すべての「じゅんかん」が安心・安全に丁寧に、表明したメンバーの想いに寄り添いながら扱われるということが大前提です。一回でも、それが守られなければ、最初の壁は超えられないかもしれません。それくらい大切なことです。

##なお、本記事で説明している「じゅんかん(JUNKAN)」の考え方・捉え方は、筆者 須子善彦 の現時点での理解・解釈によるものです。Natural Organizations Lab, Inc.の公式の説明・見解とは一部異なる部分があるとするならば、私の理解不足に起因します。また、日々、実践を続けているNOL Junkanチームでは、「じゅんかん(JUNKAN)」そのものへの考え方・捉え方もアップデートし続けています。あくまで、元記事「ティール×選挙 (詳細編 後半) 〜 2ヶ月で創るPre-Tealなボランティア組織」で説明した取り組みの際に、このような考え方・捉え方にて、実践していたという理解をしていただければと思います。


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