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ティール×選挙 (詳細編 後半) 〜 2ヶ月で創るPre-Tealなボランティア組織

前編に続き、詳細編の後半です。
繰り返しになりますが、ホラクラシー導入までの経緯はこちらを、導入した効果は第二回をご参照ください。

■やったことで上手くいったこと2: 「Tension(じゅんかん)」の扱い方を丁寧に行ったことで、「Tension(じゅんかん)」の大切さや、それをベースとしたチーム運営・意思決定のあり方を理解してもらった。

企業等クライアント様の支援(コンサルテーション)においては、ティールを始め横文字は極力使わないようにしています。ホラクラシーにおいても、専門用語がたくさん出てくるため、どの概念・用語から理解をしていただくかは支援プログラムの設計において重要な観点です。成果や効果を感じてもらわなければ、多くの概念や用語、プロセスを学習していただくことができないと考えています。

私がパートナーとして参画しているNatural Organizations Lab, Inc.(以下、NOL)の伴奏支援においても、早期に取り組むことは、「Tension(じゅんかん)」の扱い方です。このことを丁寧に行うことは、ホラクラシーの導入がその組織にとってよい成果を出すか否かに対して、重要な影響を与えると私は考えています。

最も重要で最も難易度の高いこの「Tension(じゅんかん)」の概念の理解と実践に、多くの時間を集中投下しました。

ホラクラシーにおける最重要概念「Tension」の説明や、私たちの仲間では、この「Tension」を「じゅんかん(Junkan)」と意訳している(ホラクラシーの開発元 Holacracy oneのブライアンにも説明・納得してもらっているとのことです!)理由などは、長くなるので別途記事を改めて書きました

■やったことで上手くいったこと3: チームをコアメンバーとサポートメンバーに分け、前者にのみホラクラシーを適用した。また、前者と後者で、slackとFacebookグループを使い分けた。

大前提の項にて述べたように、メンバーをコアメンバーとそれ以外のサポートメンバーに分け、前者にのみホラクラシーを適用することで、後者のメンバーは新しいことを学ぶ必要なく活動に参加できる様にしました。
具体的には、週1の定例MTGへの参加経験があるか否かで、コアメンバーであるか否かを決めていました。なお、定例MTGの実態はタクティカルMTGであるため、その参加は、ホラクラシーの学習と実践を開始するということと同義です。一部の例外を除き、MTGへの参加を通して、ロールのアサインが行われました(補足: 正式なホラクラシーでは、タクティカルMTGは、1つ以上のロールにアサインされているメンバーが参加する)。なお、週1の定例MTGは常にオープンでいつでも誰でも参加できるようにしていました。

また、メンバー間でのコミュニケーションするためのツールを分けました。ホラクラシーを適用するコアチームにはslackを用いて、サポートメンバー向けにはFacebookグループという具合にです。
この理由は主に、メンバーのスキルです。少なくともこの時点での日本においては、slackはエンジニアやフリーランスなどを除いて、利用してことがないというメンバーも多かったのに対して、Facebookグループはほぼ間違いなく全員が使えました。(大学生が多ければそうもいかなかったかもしれません。)
一方で、ホラクラシーのRole to Roleベースのコミュニケーションは、slackが最も相性が良く、ホラクラシーを導入する上で、slackの導入はセットと考えました。
したがって、選挙のボランティアチームに参加する方は、まず、Facebookグループに入ってもらい、各ロールの活動の中で生まれたアクティビティ(ビラ配り、ポスター貼りなど)に参加していただくことを第一ステップとしました。共に活動をする中で信頼関係が培われ、その中でさらにコミットを高めたいという希望を持つメンバーに対して、週一のタクティカルに誘うなどして、「ゆるいホラクラシー」の世界へ招待しました。Facebookグループのみの参加レベルのメンバーのうち、コアメンバーにシフトしたいという意向を持つメンバーのサポートを行うロールも存在しました。

次に、コミュニケーションツールと対になる点である情報の透明性の話をいたしましょう。ホラクラシーを簡素化する上で、ホラクラシー同様のレベルでの情報の透明性はホラクラシー同様重要だと考えました。
よって、Facebookグループにおいても、チーム全体の状況が一目で分かるように「目的俯瞰図」の最新バージョンを常に共有しました。また、ロールの一覧とアサイン状況も常に共有しました(ホラクラシーを理解・体験していない状態で見ても、既存の似たような概念に当てはめるだけで、本質が理解できないと思いますが)。また、メンバー間コミュニケーションロールが、全てのタクティカルMTGの議事録と動画をFacebookグループに共有しました。

なお、投票日までの最後の一週間は、やはり多くの新規メンバーが参加してくれることになり、Facebookグループでの情報共有に工夫が必要となりました。そこで、数ヶ月前にFacebookグループに導入された「チャット」機能を用いて、メンバーを活動別にサブグループに分け運用しました(slackのチャンネルのような運用)。

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■伸びしろが残ったこと1:  慢性的なマンパワー不足であった。

ホラクラシーを始めとする先進的な取り組みに注目した、という声もありました。また、党の動員ではなく一般市民のボランティア主体の選挙戦であったため、松浦陣営は大変活気があったので警戒心を持ったと、対立陣営から言われたこともあります。

選挙から時間が経ったので、多くを語れるようになりましたが、実際のところは、最低限のマンパワーが数日前になんとか揃ったというのが実情でした。コアメンバーによる議論においても、常に数日後の人員確保のことを議論しており、そういう意味では、本来行うべきであった「選挙に勝つ」ための戦略や戦術の議論は、投票日に近づくほど、あまり出来ていませんでした。選挙という面で見るならば、この点が改善されれば(もう少し早くマンパワー不足が解消されていたら)さらに善戦できたのではいないか、と個人的には悔しい点です。

マンパワー不足の原因は、立候補から投票日までの時間の短さ(要は準備不足)が最も大きいと思いますが、その他にも選挙特有の伸びしろは沢山ありました。それらの点は本稿の目的外なので割愛しますが、ホラクラシーには当然マンパワー不足を緩和する仕組みはありませんので、マンパワー不足はホラクラシー以前の大きな障害でした。導入編で説明したように、マンパワー不足を前提としホラクラシーが機能しない点も分かった上で、それでも少ないマンパワーの中で、誰一人疲弊せず、気持ち良く活動することを目的として導入したという経緯です。

慢性的なマンパワー不足は、ホラクラシーをスタートアップ企業等で用いている場合と共通の悩みと思いますが、いくら組織の目的通りにロールが設計されていても、肝心の人間がそのロールにアサインされないと、そのロールの目的は達成されません。ホラクラシーでは、その点の回避をリードリンクが担っていますが、限界があることも事実です。

しかしながら、「本来は誰かがやったほうがいい重要な役割」が常にチームの中で可視化・共有化されているということは様々なメリットを生み出しました。

まずは、マンパワー不足やそれに伴う「できていないこと」に対して、各メンバーが漠然と不安を覚えたり焦ったりすることが無く、不要な衝突が起きませんでした。また、一部の人間が責任を感じたり、ボランティア組織でありがちな、コミット度の高いメンバーが、関心や得意分野・専門性のない役割をキャパ以上に無理して担うことを避ける効果を生みました。

また、こちらもボランティア組織でありがちですが、実際には十分なスキルや経験・専門性があるにも関わらず、メンバーの自己評価が低いため、謙遜して役割を担うことを躊躇しているケースがあります。この点も、長期に渡って「本来は誰かがやったほうがいい重要な役割」を誰も出来ずにいることが可視化されていることで、「誰もやらないよりは誰かがやったほうがいい」という合言葉が生まれ、そのような役割に参画する敷居が下がったという効果がありました。

このように、選挙に当選するという短期戦の成果だけを目指すなら、ホラクラシーは有効ではない(むしろマイナスになる要素もある)ともいえます。多少、一部のメンバーが燃え尽きてでも必要な役割を力業でこなすほうが短期的な成果は上がることもあります(もちろん、今回の選挙戦でも部分部分そのような無理をコアメンバーの間では一部行っていました)。しかし、繰り返しになりますが、導入編で説明した理由からホラクラシーを導入しました。

投票日までの最後の一週間は、2.3日前になんとか最低限のマンパワーを確保できました。仕組みを整え、1時間単位で活動に部分参加できるようにしたこともあり、最終的には100名を超える沢山のメンバーに選挙活動を経験してもらうことが出できました。そのことによって、前述した他陣営から発言のように、松浦陣営からは勢いを感じたという声に繋がったのだと思います。また、その活動は、活動家でも政党関係者でもない子育て世代を中心とした「普通の市民」がほとんどで、多くの人がはじめて選挙に関わる中で、普段からの社会家の関心と選挙・政治というものが決して多い距離のものではないということ、政治は本来は身近なものである、という気づきを得たという声が多くあったことは、松浦が立候補した成果の一つだったと思います。

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■伸びしろが残ったこと 2: 週1のタクティカルMTG以外では、Tension(じゅんかん)が挙がることは稀だった

予想通りではありましたが、ファシリテータがレフリー・ガイド役として参加できているタクティカルMTG以外の状況、例えば、MTGとMTGの間でのslack等を用いたオンライン・非同期型の実務遂行時において、メンバーからTension(じゅんかん)が挙がることは稀でした。

情報や役割に関するチーム内での透明化、目的と役割の繋がりの明確化、ロールの自律性、人と役割の分離による脱属人化・脱役職、Tensionといったホラクラシーの理念や良さ(メリット)への理解は、(それですら大変なことですが)メンバーの関心や知識のベースがあったこともあり、それらは比較的短期間で頭で理解ができたように思います。一方で、実践できることの間には大きなギャップがあります。

ホラクラシーの真価は、日常の業務においても、ロールtoロールの自発的なやりとりやTension(じゅんかん)の表明が行われることの中に多く含まれます。しかし、その状況にまで、コアメンバーの実践レベルを短期間で持っていくのは難しいと予測していました。


したがって、ホラクラシーの哲学にやや反しますが、ロールの設計段階で、ロールtoロールのやりとりやTension(じゅんかん)が挙がりそうな部分は、あらかじめ手順を整えたり、「メンバー間コミュニケーション」ロールが、ロールtoロールのやりとりやTension(じゅんかん)を拾いにいくようなことをやっていました。そして何より、MTGのみで出来ればよく、MTGとMTGの間では、Tension(じゅんかん)の表明が行われなくとも良いという形に割り切りを行い、その代わりタクティカルMTGの頻度は最低週1回は維持(投票日直前は回数が増えた)し、内容も丁寧に行いました。

それでも、投票日の直前には、ロールtoロールの自発的なやりとりが、いくつか起りはじめており、このまま活動が継続されれば、ホラクラシーの学びは定着していったと感じています。

いずれにしましても、効果編で説明したとおり、以下のような効果を生み出すことが出来ました。従って、導入の目的は達成できたと考えています。選挙としての結果は残念でしたが、関わってくれた多くのメンバーにとって次に繋がるものになったと思います。

1. 急速なチームの規模拡大に対応できる文化的な基盤づくりができた
2. 物事を決める際の回り道が少なかった
3. あとから参加する人がキャッチアップしやすかった
4. 候補者が自らのパフォーマンスに専念できるようになった
5. もえつき症候群や、一部の人に負担が集中することが比較的少なかった



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