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山田 哲人(23歳・ヤクルト)二塁手

(史上初の快挙)

 昨年 山田 哲人 は、3割・30本・30盗塁 という、いわゆる「トリプルスリー」と呼ばれる偉業を達成した。これは山田哲人を含めても過去10名しか達成していない記録であり、同時に盗塁王を獲得した選手は過去に彼以外存在しない。また過去この記録を二度達成した選手はおらず、昨年を上回るペースで成績を積み上げている今年の山田には、史上初の2度目のトリプルスリー実現が期待される。

(高校時代の山田哲人)

 履正社高校時代の山田哲人は、吉川大幾(PL学園-中日1位-現巨人)内野手とともに、高校球界屈指の内野手として注目されていた。この年の秋には、ドラフト会議で外れのハズレ1位ながらも、ヤクルトに1位指名されることに。私自身も高校生でありながら、大学・社会人含めてもNO.1の内野手だと評価していた。それはスカウトの評価も同様で、この年に指名された内野手の中で、唯一の1位指名となった。

(山田哲人の特筆すべき才能)

 高校時代の彼の寸評に記載した、山田哲人の特筆すべき才能を私はこう記している。

 「この選手の素晴らしいのは、打席での集中力とボールを見極める動体視力の高さにあります。けして凄みがある選手ではないのですが、勝負どころでは集中力が発揮されて、非常に勝負強さがあります。そして甲子園でも2回戦の聖光学園の歳内宏明(2年生)右腕のフォークボールを、第一打席から完全に見切っていたのには驚きました。けしてボールゾーンに切れ込むフォークボールに手を出さなかったのです。この点が、打者としても非凡なポテンシャルを秘めていることを、強く印象づけられた瞬間でした。」

 そして寸評の中に私は、彼を高く評価したもう1つの理由が記載していた。

 「私が彼を評価するもう一つの理由が、プレーへの意識の高さにあります。(上記の動画を見て頂ければわかると思いますが)前の打者の対戦にもしっかり注意を傾け、次の打席を想定できております。ただそれほど素振りに関しては、チェックポイントを決めて振っているようには思えません。あくまでも試合に入り込むために、軽く身体を動かしているといった感じです。 しかしながら明らかに打席に入る時には、ラインを踏まないように入ることからも、彼の繊細さが伺われます。こういったところからも、守備的負担の大きな二遊間を担う資質が感じられます。また打席に入る時にも、足場をしっかり馴らしてから入ります。この辺は、打者としてのこだわりを強く感じさせ、高校生ながら野球で飯を食って行こうと意識が感じられます。」

 そうアマ時代の彼からは、動体視力に優れた眼の良さ、打席での集中力、それに野球に取り組む意識の高さを読み取ることができた。しかしそこからは、将来球界屈指の強打者に育つような突出した打力までは掴むことができなかった。

(山田哲人に描いていた未来像)

 当時山田哲人を高く評価していた私は、こういう選手こそ高校からプロ入りするべき選手なのだと強く実感したのを覚えている。将来プロでもレギュラーに育ってゆく選手だという、確信めいたものは当時からあった。

 しかし私が思い描いていた彼の未来像は、2番打者などのつなぎ役。あるいは、6,7番あたりでも、自分の仕事をしっかりこなすチームプレーに徹した好打者という位置づけ。まさかトリプルスリーを実現するとか、ホームラン王や盗塁王を獲得するような、中心打者として活躍する姿は、全く想定していなかった。

(山田哲人の何が変わったのか?)

 それではプロ入り後の山田哲人に、一体何が起こったのだろうか? 高校時代のフォームと比べ、3つの変化が生じていることがわかる。

1,始動が劇的に早くなっている。

 履正社時代の彼のフォームは、始動がリリース前後というプロを想定するのには、あまりに遅いタイミングで動き出していた。しかし今は、投手が重心が下がり始める時には足を大きく引き上げて打ちにゆく早めの始動に変わっている。それだけボールを呼びこむまでの動作に余裕が生まれ、いろいろな球に対応できる幅が生まれている。

2,動作が大きくなった。

 始動が遅すぎた高校時代は、どうしてもそれでも振り遅れないように、無駄な動作を極力を減らして対応しようとしていた。それでも飛ぶぐらいの筋力や資質があれば良かったのだが、当時はけして筋力的にも、それを可能にするほどのものがなかった。よりプロの球を強く遠くに打ち返すためには、できるだけ早めに動き出し大きな動作でバットを振る必要があったのだ。始動を早めたことで、大きなスイングを実現することができた。

3,引っ張りに特化した打撃に

 高校時代の山田は、広角に打ち返す中距離打者というイメージが強かった。そのためセンターからライト方向への打球も少なくなかった。しかしプロ入り後の山田の打撃を見ると、だんだんセンターからレフト方向への打球が増えていっている。自分が長打を打てる打球は、引っ張れる球なのだということ。そのボールの見極めの取捨選択が、プロに入り後年々磨かれてきている。

(天性の長距離打者ではないからこそ)

 もし清原和博のように、右方向に打った打球が軽々スタンドインするような打者だったならば、山田は今の引っ張り中心の打撃にシフトしようとはしなかっただろう。そこには、自分が長打を放つことができるのは引っ張ってこそだということを、プロ入り後自覚したからだと考えられる。右方向に状況に応じて打ち返す単打よりも、打てる球を引っ張って長打を放つことの方が、山田にとっては求められるものに応えられるという自信を、年々深めていったに違いない。山田はなんでも打てるようになって結果を残そうとしたのではなく、自分の打てる球を逃さない、そこにエネルギーを集約させることで人並みはずれた成績を残すことができたのだと私は考える。

(逆転の発想力)

 多くのプロ野球選手は、筋力の成長や技術の向上により、よりアマ時代よりも無駄な動作を削ることで成績を残そうと考える。しかし山田の場合は、むしろ高校時代よりも大きなアクションをとることで、今まで打てなかった球を打てる時間的余裕と、ボールを飛ばすスイングを同時に得ることができたのだ。

 また普通の打者は、打てない球やコースがあったら、それをなんとか打てるように努力するのに多くの時間を費やす。しかし山田の場合は、そこを割りきって打てない球は捨てる、あるいはカットして逃げる。そして打てる球が来るまで待つという、全く逆の発想で結果を残すことに成功している。

 この2つのプロ野球界の常識を覆す発想により、彼は前人未到の領域へと踏み出そうとしているのだ。

(そこに至った理由)

 彼が得意な球に特化した打撃が実現できたのは、ボールを見極められる天性の眼の良さ、そして打撃への高い集中力にある。その非凡な資質は、高校時代から片鱗を魅せていた。

 そして高校生離れした野球への意識の高さは、深く物事を探求することで打てる球を逃さないという、全く逆転の発想に繋がってゆくことになる。野球界の常識を覆すことができたのは、自分なりに真摯に野球に深く向き合ってきたからこそではないのだろうか。

(これからの山田哲人は)

 この記事を書いている7月10日現在、山田の成績は、86試合 29本 19盗塁 打率.353厘 という、昨年以上のペースで数字を積み上げている。史上初となる2度目のトリプルスリー実現は、いよいよ現実味を帯びてきた。

 今後山田がメジャーに進出するとするならば、イチローのように今とは全然違う打撃フォームで、メジャーの世界に順応してゆく可能性がある。その世界で、自分が求められている結果を残すにはどうしたら良いのか? それを嗅ぎ分ける嗅覚こそ、この男の最大の優れた資質なのではないのだろうか。

 高校時代からは、想像できないプレーヤーへと変貌を遂げた 山田 哲人 。次のステージでも、我々の想像を覆す新たな姿を魅せてくれるに違いない。

2016年 7月11日更新

参考資料: 山田 哲人(履正社)内野手寸評へ

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