筒香 嘉智(25歳・DeNA)左翼手

(全日本の4番)

 日本プロ野球界において、中田 翔(日本ハム)と共に全日本の4番打者に最も相応しい男と言われているのが、この 筒香 嘉智 。しかしシーズンの成績では、すべての部門で 山田 哲人(ヤクルト)二塁手に大きく水を開けられている。果たして、山田と筒香では何が違うのだろうか? 

(そもそも何故4番は筒香や中田なのか?)

 明らかに飛ばしそうな見た目や打撃スタイルからして、今までの4番打者像に近いのが、中田や筒香という先入観が我々にはある。しかし単純に成績だけでみれば、今のプロ野球界で4番に相応しい実力を持っているのは、山田哲人であるのは間違いない。しかし山田には、彼らにはない走力で盗塁を仕掛けたり、自らがチャンスメイクを演出する能力もあり、走者を返すとは違う役割を果たすことができる。しかし筒香や中田は、4番もしくは5番といったチャンスで走者を返すという役割以外に期待できることは限られる。だから山田なら1番や3番でも良いけれど、筒香や中田翔には4番か5番あたりをこなしてもらわないと困るという事情があることも否めない。

(高校時代の筒香)

 振り返れば高校時代の筒香嘉智は、全国屈指のスラッガーとしてその名を全国に轟かせていた。すでに30年以上神奈川の高校野球を見てきて、今まで見てきた神奈川の打者の中でも、1番のスラッガーであるとは当時から評価していた。その一方でこの選手には、何処かぼや~としたところがあり、プロ入り後どの時点で眼の色が変わるかで、一流になるまでの道のりは変わってくるだろうとも書き残している。

 そんななか入団3年目には、一軍で108試合・10本塁打を記録し、一軍でも結果を残しはじめる。しかしその翌年には、中村紀洋とのポジション争いに敗れ低迷。この年は一軍で僅か23試合に留まり、ファームでくすぶっていた。もし今年ダメならばトレードに出されるのでは?というぐらい苦境に立たされていた彼を、当時の 中畑 清 監督が「お前と心中する」と信頼し鼓舞することで、5年目にして眼の色が変わり4番打者へと成長した。もし監督が中畑でなければ、この選手はそのまま埋もれたままだったのかもしれない。

(何が変わったのか?)

 入団5年目に眼の色が変わったのは、このままだと終わってしまうという危機感と、自分が中心選手としてやらなければという責任感が芽生えたこと。特に中畑監督は、筒香という男にあえて責任ある4番という役割を課すことで、彼の眠っていた自覚を呼び起こさせた。そうこの男は、期待されれればされるほど、それに応えようと能力を発揮するタイプ。高校時代も多大なプレッシャーの中、ことごとく結果に結びつけてきた。

 高校時代~プロ入り4年目までは、フォームも定まっておらず自分というものがハッキリと持てていなかった。技術的な観点で言えば、始動が遅すぎたので立ち遅れるケースが目立っていた。もう一つは、内角を打つのは上手かったものの、外角の球を捌くのが下手で、ミスショットも少なくなかった。その辺を始動を早めたことで、立ち後れなくなってきたこと。また木製バットでも通用するだけの、外角の球をしっかり叩けるスイングを身につけられたことが大きかった。

(筒香の特殊能力)

筒香には人並み外れた3つの特殊能力がある

1,インパクトの押し込み

 彼の最も優れた資質は、ボールを捉えるときにグッと押し込める強さにある。これこそ彼の打球が、圧倒的な飛距離を誇る大きな原動力になっているに違いない。

2,内太ももの強さ

 ボールと飛距離との相関関係がみられる筋肉は、足の内ももの筋力だと言われている。かの松井秀喜もここの筋力は人並み外れたものがあったが、筒香にもこの内モモの太さがユニフォーム越しからでもハッキリと違うことがわかる。

3,勝負強さ

 横浜高校時代から結果を残し続けてきたように、勝負どころで精神面の強さがあげられる。これはチャンスになると、自分がやらなければとより集中力が高まるタイプ。それが力みには繋がらず、より高いパフォーマンスに結びつけることができるという、特殊な精神構造の持ち主だった。

(筒香の欠点)

 筒香には、大きな欠点がある。それは、一定レベル以上のスピードボールに弱いということ。その一方で、変化球に対応する能力は極めて高い。

 彼がこの先、メジャーリーグを目指しているという話を耳にする。日本よりも平均して速くて強いボールを投げるメジャーの世界でやってゆくのには、今のままだと厳しいと言わざるえない。

(何がいけないのか?)

 筒香の打撃動作を見ていると、慌てて打ちに行って忙しない印象を受ける。そのためボールと一定の距離・間合いがとれないとホームランが打てないのではないかと。変化球だと本塁打できる距離感を掴みやすいのだが、速球だとその距離をうまく図れないことが多い。筒香が速球を打っている映像をみると、レフト方向へ流してスタンドインしているケースが目立つ。変化球だとうまく呼び込めてライト方向に引っ張って空高く打ち上げることができる。これが速球だと、振り遅れてるのか? レフト方向へライナーで突き刺さる打球が多くなるのだ。このボールとの距離感・間合いを、本当に速い球でも図れるようにならないと、メジャーや日本でもトップクラスの投手の球を捉えるのは難しいのではないのだろうか?

(山田哲人との決定的な違い)

 山田は自分がホームランを打てるのは引っ張った時だと自覚できているので、いかにしてボールを引っ張れるかに狙いを絞って自分を高めてきた。

 逆に筒香は、センターでもレフトでもライトでもホームランが打てる圧倒的なパワーと技術を持ち合わせている。山田は自分がホームランを打つことこそチームに1番貢献できると割り切っているのに対し、筒香は難しい球はヒットでもランナーを返せればという状況に応じた打撃を目指している。より山田の方が、ホームランを打つということに強い執着を持っているように感じられる。

 多くのホームラン打者を観てきて思うのは、どんな方向にもホームランするタイプよりも、ここに来たら間違いなくスタンドに叩き込めるというツボを持っている選手の方が本数が伸びるということ。山田の場合は、引っ張ることさえできればというところに特化した打者で、筒香の場合は無理せずにヒットでもランナーを返せればという打撃を目指している。2人の才能や技術の違いという以上に、打撃に関する考え方や目指すべき方向性の違いこそが、成績に現れているのではないのだろうか。

 もう少し言葉を変えて言うならば、山田は長所を伸ばして才能を開花させてきた選手。筒香は、苦手を克服することで成績を引き上げてきたタイプだと言えるのかもしれない。どちらが正しいとは一概にいえないが、ことホームランを打つということに関しては山田の方が結果を残しやすい。実は体格で見劣る山田哲人の方が、より助っ人外人のような割りきった打撃をしているように私には思える。

(筒香はメジャーでも通用するのか?)

 筒香に1番近いタイプはというと、かの 松井 秀喜 ではないかと私は考えている。日本では圧倒的な飛距離・パワーを誇った松井だが、メジャーでは中距離打者であり勝負強さを売りにするタイプだった。

 筒香もメジャーに行けばそれに近い位置づけになり、飛距離よりも技術の高さ・勝負強さを売りにするバッターに。すなわち 3割・20本台・100打点 を残すようなポイントゲッターとして異彩を放つ可能性を秘めている。

 しかしメジャーで通用するためには、先にあげたように速球を捉える技術の向上が不可欠だということ。目に見えて速い球に弱い今の打撃を改善して行けるかが、メジャー成功の鍵を握っている。そして日本では、もう何を投げても抑えられない、そう思わせるぐらいの領域に達した時こそ、彼が世界に羽ばたくときなのではないのだろうか。

                        2016年7月14日更新 

参考資料:筒香嘉智(横浜高校)内野手寸評


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?