野村 祐輔(27歳・広島)投手

 7月22日現在、ハーラートップとなる11勝をあげ、チーム首位の牽引役として活躍する 野村 祐輔 。一昨年は7勝8敗、昨年は5勝8敗と伸び悩んでいたなか、今年は何が変わったのか考えてみたい。

(アマチュア時代)

 広陵高校時代には、3年春に甲子園でベスト8。そして3年夏には、強豪を次々と撃破しながら決勝へ進出。厳しい判定にも泣かされ、決勝で悔しい一発を食らい優勝を果たせなかった。明治大学進学後は、1年春からリーグ戦で活躍。4年秋までにコンスタントに勝ち星を積み上げ、リーグ戦通算30勝に到達した。そしてドラフト会議では、広島カープから1位で指名される。

(当時の評価)

 明大の下級生の頃から、洗練されたマウンド捌きが光っていた。しかしボールにキレこそあれ球威がなく、何か物足りなさを感じていた下級生時代。しかし最終学年になり球威が増し、プロで通用するだけのボールを身につけてきた。こういった自分の問題点を把握し、それに向かって改善して行けるセンスと努力できる才能を持っていた。そのため1年目からローテーション入りして、7,8勝~10勝ぐらいはできる投手だと評価。15勝するような凄い投球ではなかったものの、毎年コンスタントに活躍して行ける選手だと。そしてこの年のドラフト候補の中でも、最も失敗するリスクの低い計算できる選手というのが、私の当時の印象だった。

(大事な条件)

 しかしながら彼がプロで長く活躍するのには、1つ大事な条件があることをプロ入り前にあげていた。その条件とは、彼がエースという立場ではなく、周りに頼れるエースがいること。彼はあくまでも大黒柱ではなく、ローテーションの一角として脇を固める存在であることが重要だと書いた。

 当時の彼はあまりに完璧主義者であり、自分で自分の首を締めて汲々となってしまう欠点があった。そのため好投していても、結局報われずに負けてしまうことも多く接戦にも弱かった。それゆえにプレッシャーや負担があまりかからない、エースがしっかりいるチームに入ることが重要だと考えた。彼が本物の投手になるまでには、そういった条件化で力を養う必要があったのだ。そして 前田健太 という大エースがいたカープに入ったからこそ、プロ入り5年目にして才能が開花できたのではないのだろうか。彼が1年目からエースの立場になっていたら、すでに潰れていたかもしれない。そして彼が飛躍したのは、この前田が抜けた年だったというのも偶然ではなかったはずだ。

(伸び悩んだ要因)

 野村の場合、圧倒的なボールの力や絶対的な変化球を持っていない。そのため非常に神経を使って一球一球投げないと、なかなか抑えることができない。それゆえ多彩な球種を駆使して、コントロールと投球術に気を遣わなければならない。このような投球を続けて行くと、どんどん投球が重苦しくなって自分で自分の首を締めるようなピッチングになってゆく。こういう投手は途中までは素晴らしい投球をしていても、肝心の勝負どころで力を発揮できずに手痛い一発を食らうケースが少なくない。そういったピッチングに改善が見られない限り、勝ち星が伸びてはゆかない。

(今シーズン何が変わったのか?)

 1つは、重心の沈み込みを浅くして体重移動を重視したことがあげられる。もう少し具体的に言うのならば、低めへのコントロールを重視するよりも、ボールの勢いを優先したと言った方がわかりやすいだろうか。この辺は、ここ2年イニングを遥かに上回る被安打を打たれていたのが、今年はイニングを下回っており数字にも顕著にあらわれている。

 通常足の甲でしっかり地面を捉えるぐらいに重心を沈み込ませるのが理想なのだが、野村はあえてその押し付けは浅くして、重心を高くして前に体重が移ることを重視したのだろう。それにより、ボールの勢い・威力が増したと考えられる。また腕は身体から離れてブンと振られており、むしろ強引にすら見える時がある。限られた能力の中でボールの威力を増すためには、かなり負担のかかるフォームになっている。

 もう1つは、内角を厳しく突けるようになったこと。その理由がわからなくて調べていたのだが、どうもそれまで三塁側のプレートを踏んで投げていたのを、一塁側を踏んで投げるようになったとのこと。それにより右打者内角を投げるのに対角線の角度ができて、投げやすくなったのだという。実際距離にしてプレート一個分の違いだが、それ以上に投手にとっては心理的に内角へ投げる恐怖心が薄れたことが大きかったはず。これにより打者にとってはボールが見やすくなっているはずだが、それをあえて承知の上で自分が投げやすくなることを優先した勇気を讃えたい。

(得た精神的余裕)

 威力を増したストレートに、プレートの位置を変えることで投球の幅が広がった。これにより精神的な余裕が生まれ、それまで汲々として投げていたピッチングに変化が現れた。そういった重苦しい投球からの脱却こそが、5年目の飛躍に繋がったと考える。野球界において重視される低めへのコントロールを捨てたり、ボールの見やすくなることを覚悟しても、自分の力を発揮できる動作を優先した。それが結果となって現れ確かな自信につながった、それこそが飛躍の最大の要因ではないのだろうか。

(これからの 野村 祐輔 は)

 今年はこのまま行くと、15勝どころか17,8勝ぐらいまで数字を伸ばしても不思議ではない。恐らく彼にとって、野球人生で最高の年になるものだと確信している。

 では一皮むけた来年以降は、15勝前後毎年勝ち続けカープの不動のエースへとなってゆくのか? と言われると私には疑問が残る。彼はエースという立場よりも、脇を固める一人という位置づけの方が合っている。プレッシャーから解放された立場こそ、彼が活躍できる条件なのだと。そのため 前田健太 のような、チームの不動のエースとなりメジャーに飛び出してゆく、そういった未来像はどうしても描けない。むしろ長く着実にチームに貢献してゆく、それこそが 野村祐輔 の居場所なのではないのだろうか。

                   2,016年7月22日更新 蔵建て男

参考資料: 野村 祐輔(明治大学)投手寸評へ

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