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トランスジェンダーアスリートが初めてオリンピックに出場する大会!!


こんにちは。いつもコラムをご覧いただきありがとうございます。S.C.P. Japanの野口です。本日はトランスジェンダーアスリートがオリンピックに出場することについて書いてみたいと思います。

史上初、トランスジェンダーアスリートがオリンピックに出場

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、初めてトランスジェンダーのアスリートが自身の自認する性別で大会に出場する大会になります。

ウエイトリフティングのニュージーランド代表の43歳、ローレル・ハバード選手はトランスジェンダーであることを公表し、2013年に性別適合手術を受けています。

現行のIOCのトランスジェンダー選手は、「IOC Consensus Meeting on Sex Reassignment and Hyperandrogenism」という文章で定められた規定に則り出場資格を得ています。この文章は2015年11月に承認されていますので、リオ大会も対象ですが、実質選手がこの規定に則って出場資格を得たのは東京大会が初めてのことになります。

IOCが定めるトランスジェンダーアスリートの出場規定は以下の通りです。

自身の自認する性別カテゴリーで出場するために、手術の必要はない。
【Female to Maleの選手】
・女性から男性への性別の転換は、何も制限なく出場することができる。
【Male to Femaleの選手】
・男性から女性への性別の転換は、以下の条件を満たす必要がある。
・4年以上、性別の自認が変わっていない。
・大会の12ヶ月以上前からテストステロン値を10nmol/L(ナノモル)以下にする。
・女性のカテゴリーに参加したい期間は10nmol/L以下を保つ。
・テストステロン値は定期的に計測される。

ハバード選手の出場が決まったことで、シスジェンダー(身体の性別と性自認が一致している)女性とトランスジェンダー女性が試合で戦うことについて、不公平なのではないか?という議論が国内でも大きくなっています。

トランスジェンダーアスリートの平等な出場機会をどう思う?

それについて、どのような立ち位置に立つべきか、こちらの本を参考に整理してみました。ちなみに、こちらの参考図書、スポーツとジェンダー・セクシュアリティを勉強されている方にとっては大変中身の濃い本となっていますので、おすすめです。

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Carroll, Helen J. (2016) Joining the Team: The inclusion of transgender students in United States school-based athletics. Hargreaves, J. & Anderson, E. (Eds.). Routledge Handbook of Sport, Gender and Sexuality. Routledge,Oxon, Chapter 39.

Carroll氏はトランスジェンダーの女性が女性カテゴリーに出場することに関して「公平性」を論点に反対する声に対して、反対の声を上げる人々は以下の3つの想定を大前提にしていおり、この大前提こそが問題なのだと指摘しています。

①トランスジェンダー女性は「本物」の女性ではないため、トランスジェンダー女性は公平な競技の機会を求めていない

②男性の身体で生まれることで、トランスジェンダーの女性が疑いようのない競技的なアドバンテージを獲得することができる

③男性がトランスジェンダーと偽って女性カテゴリーに出場する可能性がある

この3つの大前提が、如何に差別的な前提であるかが以下のように整理されています。

ある性別からある性別に変えるということは、沢山の混乱や迷いを経て、悩みぬいた果てに、非常に難しい決断をするということ。性自認は自身のアイデンティティに深い影響を与える。
トランスジェンダー女性はシスジェンダー女性が持つことができない、不公平な競技的アドバンテージを持つという人もいるが、現実は、競技的アドバンテージを持っているか否かの判断は非常に複雑であり、単純に断定できるものではない。
近年、トランスジェンダーユースが、精神的な負荷が多大にかかりトラウマになりやすい、第二次成長期を前に、ホルモンをブロックするような治療を行う事例が海外では増えている。
男性の身体の方が女性の身体よりも競技的なアドバンテージを持っているという考え方は、医学的なエビデンスがなく、固定的な観念である。
男性が女性と偽って競技に参加する可能性があるというポイントについて、これまでのスポーツの歴史の中で、「性別確認検査」はDSDs (Differences Sex Developments) の選手たちを不当に傷つけ、辱めを与え、不公平に排除し続けてきている。

「公平性」を語る前に、「公平性」について語ることができる「平等」な機会はあるのか?

オリンピック・パラリンピックにみられるような「近代スポーツ」は19世紀のヨーロッパで男性を中心に拡大してきました。その歴史の中で女性は参画の拡大を目指し戦ってきました。その戦いは未だ道半ばではありますが、「男性」だけが作ってきたスポーツの構造に、「女性」の存在が可視化されていった歴史でもあります。

このように考えるのであれば、これまで不可視可され、構造的に排除されてきたトランスジェンダーアスリートも含めたうえで、新たな公平なスポーツの仕組みや構造を構築していく必要があるのです。

以上の理由から、女性カテゴリーにトランスジェンダー女性が出場することの不公平性を指摘する議論は、「インクルーシブ(誰も排除しない)」という観点から考えると、論点がずれているように感じます。

そもそもトランスジェンダーアスリートが自分達の公平性を議論する場が与えられていないのにも関わらず、公平性の議論を話す場を獲得しているシスジェンダー女性が、「公平性」を理由にトランスジェンダー女性を拒絶することはできないのです。平たくいうと、スタートラインが違かったり、同じ土俵に上がれていなかったりということです。シスジェンダー女性たちはスポーツの歴史の中で公平性を議論できる環境を戦って獲得してきたのだからこそ、トランスジェンダー女性と比較してシスジェンダー女性は、現状では、特権(privileged)を獲得していることは理解できるはずなのです。

インクルーシブ(誰も排除されない)なスポーツ文化へ

トランスジェンダーアスリートが可視化されたことは、多様性が包摂される、よりインクルーシブなスポーツをスポーツ界全体が目指しているのであれば、歓迎されることです。既存のスポーツ構造の中で排除されてきた人たちの声を反映させ、新しいスポーツ文化を作っていくことはスポーツの「発展」ではないでしょうか。現状の仕組みを大きく変えてしまうことになるかもしれませんが、それはスポーツの進化です。

だからこそ、出来上がってしまったスポーツ界に風穴を開け、新たな風をもたらすトランスジェンダーアスリートの記念すべき初出場大会が、東京であるということはワクワクします。新しい出来事を拒絶し、そのきっかけとなったアスリート個人に対して誹謗中傷をするのではなく、30年後、40年後振り返って、あの時あんな議論ができたから、今があるね。って思えるような対話があらゆるところで起きて欲しいななんて思っています。

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