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【ニンジャ・ダイブ・イントゥ・ザ・ブラックホール】

「ドーモ、プロボット=サン。ユリシーズです」

「ドーモ、ユリシーズ=サン。プロボットです」

 その二人のニンジャは、虚無の暗黒の只中でアイサツを交わした。

 宇宙空間。どこまでも広がる闇。点在する光。無限の可能性と共に、無限の冷たさに包まれたこの場で、漂うばかりであった二人のニンジャは天文学的な確率でコネクトしたのだ。

 もはや懐かしい母星、地球。彼ら二人は、あの星の全てを支配下に置くはずだった巨大ニンジャ組織、アマクダリ・セクトのニンジャであった。

 過去形だ。組織の目論見は失敗に終わり、今や瓦解して跡形もない。そうでなくとも、地球に帰れる見込みなどないこの二人にとっては、同じことだっただろうが。

「そうか……。月は砕けたか」

「……間違いない。彼方ではあったが、月が爆発するのを俺は確かに見た」

「ならば、アマクダリも共に砕けたのだろうな。俺はしくじりはしなかったが、結局は無意味に終わったか。仕方あるまい。稚気じみた夢であったことだ。どの道、ケジメもセプクも出来ぬ」

 プロボットは皮肉めいたユリシーズの口調に瞬間的な怒りを覚えたが、すぐに沈静化した。返す言葉などなかったからだ。

 ユリシーズは、月までの軌道上にあるスペースデブリと多国籍軍事衛星を排除するという片道切符の任務に向かい、それを遂行したのだから。

 対して己は、アマクダリの頂点たるアガメムノンを月まで送り届けるという任務を果たすどころか、死神にしてやられて碌に戦うことすらも出来ず、こうしてブザマにスペースデブリめいて漂っている有様だ。

 もはや、あれからどれほどの時間が経ったかもわからぬ。未だこうして生きている以上、然程の時間ではないだろうが、もはやそれも長くはもたない。ニンジャスレイヤーのカラテで受けた傷が、スシの一つもない環境が、宇宙服の中のプロボットを蝕んでいく。

 ニンジャといえど、宇宙空間を死ぬまで漂流し続ければ死ぬ。ユリシーズが今まで命を繋いでいられたのは、彼と論理接続したハニワじみたオービターの残骸に搭載された生命維持機構が、かろうじて動いているからに過ぎない。

 それとて、永遠のものではない。あのロケット『将来性』と共に宇宙へ飛び、オービターの中で覚えた全てを手に入れたような感覚も、黒い立方体を目撃した時の薄ら寒さも、記憶の彼方だ。

 ただひたすらに、死を待って光と闇の狭間を漂い続ける漂流物。それが今のユリシーズとプロボットなのだった。

 アマクダリ時代のことについて、月が破砕した後の地球について、他にすることもなく語り合っていた二人は、やがて話す体力も尽き始めた。

 いよいよ、最期の時が近い。プロボットは、静かに目を閉じようとした。

「……おい見ろ、プロボット=サン。どうやら最期に退屈しない体験が出来そうだぞ」

「何……?」

 ユリシーズの呼びかけに、プロボットは薄く目を開けて自分たちが漂い行く先を見た。そこに、闇の中でなお暗い、無限の闇があった。

「ブラックホール……。なるほど、退屈はしなさそうだ」

「一つ、飛び込んでみないかね。貴公も、今更否やはなかろう?」

「無論だ」

 プロボットは短く即答した。デブリのまま死ぬよりは、余程いい。

 『ブラックホールに飛び込んでもニンジャなら大丈夫。そういうパワがある』。かのアインシュタインは2019年にそんな言葉を残したという。案外、あの向こうには新たな世界が待っているかもしれない。

 そんな無根拠な考えすらも湧いてきた。それだけ、宇宙空間での時間はニンジャの精神をも蝕む過酷さだったのだ。

「「イヤーッ!」」

 二人のニンジャは、ブッダの導きめいて近くに飛来した小隕石を蹴り、真っ直ぐにブラックホールに飛び込んでいった。

 光と共に穴の中に吸い込まれ01011感覚0010011全てが11001011010110111

―――――

 アルゴスの破壊によって生じたIRCコトダマ空間の急激な乱れは、本来存在しないはずのSteam次元を生み出してしまった。そして過去に滅びたはずの何者かが、この次元を支配し、本編次元にまで影響を与えようとしているのだ。「このままではまずい」世界の運命を危惧した私、ザ・ヴァーティゴは、このカタストロフィを未然に防ぐため動き出した。「彼らをこの次元へと呼び寄せなければ……!」010101111101……

「「「ザッケンナコラー!」」」「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」

 宇宙服姿のままのプロボットが、迫り来るクローンヤクザたちにスリケンを連続投擲! 額に突き刺さり即死!

「ハアーッ! ハアーッ! おのれ……何がどうなっている!? おいユリシーズ=サン、いないのか!? 」

 緑色のバイオ返り血に塗れたヘルメットを拭い、薄暗い建物の中を駆け抜ける! クローンヤクザ第二陣殺到!

「「「スッゾコラー!」」」「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」

「ドーモ、モーターヤブで」「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「ピガーッ!」

 スリケン連続投擲と近接カラテで次々とクローンヤクザを蹴散らし、頭上から降ってきたモーターヤブを情け容赦なくカラテ破壊してなおも駆ける!

 続けて巨大なバイオズワイガニの群れが接近!  さらにドスヤクザがバイオズワイガニの隙間を縫って襲い来る!

 「「「ウオオオオーッ!」」」「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」「イイイヤアアアアアーッ!」

 プロボットはカラテを集中させ、途中で奪い取ったロング・ヤクザ・ドスを高速で振り回す! 宇宙空間で振るうべく鍛えられたプロボットのカラテは、ブラックホールのもたらす強烈な重力の影響を受けて、以前より更に冴え渡っていた!

「「「「「アバーッ!」」」」」

 カラテ衝撃波が刃となって、バイオズワイガニとドスヤクザを切り刻む! ポイント倍点!

 「何だというのだ!? 何故こんなことに……ブラックホールの中は、こんなふざけた世界だったのか!?」

 ニューロンを必死にせき立てて、記憶を呼び起こす。ユリシーズと共にブラックホールに飛び込み、そして……ピンク色のニンジャ! それに拉致されたのだ!

 「スシ! スシだ!」

 眼前の箱をカラテで破壊! 転がり出たスシをヘルメットを外して素早く連続咀嚼! ヘルメット再装着!

 衝立を蹴破り、ドアをくぐり抜け、やがて屋上に辿り着く。そこへ、屋上に巨大な影を落とす鬼瓦ツェッペリンが出現! 砲塔が大量の弾をばら撒く!

「ニンジャを舐めるな! イイイヤアアアアアーッ!」

 しかしプロボットは弾が宇宙服を掠めるほどギリギリの距離で回避し、情け容赦なくスリケンを叩き込む! 砲塔破壊! ヒレ破壊! 尾部破壊! 頭部破壊! 胴体破壊! 墜落爆発四散!

 赤い光がネオサイタマの夜景を照らし出す。そうネオサイタマだ。ブラックホールの中にネオサイタマなのだ!

「訳がわからぬ……グワ0101101ーッ001101!010」

突如発生した磁気嵐に呑まれ、プロボットは消えた。ふと気づくと、馬に乗っていた。

 馬はどこまでも広い荒野を疾走していく。そう、荒野だ。文明から離れた無法地帯、噂に聞くキョート・ワイルダネス!

 「ハハーッ!」「ヒャハハーッ!」「ギャーッ!」「ゲーッ!」

 バイクに乗ったならず者たちが、バイオハゲタカの群れが、次々と馬上のプロボットに襲い掛かる!

「……ふ、ハハッ……」

 ふいに笑いがこみ上げてきた。確かにふざけている。めちゃくちゃだ。だが、あの虚無の暗黒に比べれば何ほどのことがあろう。

 今、己は生きているのだ。スシを食える。万札を集められる。カラテを振るって思う様殺せる。こんなに興奮することがあるか!

「イヤーッ!」

 プロボットのカラテシャウトが響き渡る。戦いはまだ始まったばかりだ!

 宇宙を漂い疲憊したニンジャすらも興奮する真のゲーム!  サイバーパンクニンジャ都市「ネオサイタマ」を舞台に繰り広げられる無慈悲な見下ろし型アクションSTG! 「AREA4643」! ゲーム販売プラットフォーム、STEAMにて大好評発売中!

※「AREA4643」にプロボットは登場していません。

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 ”お前はニンジャソウル憑依者となった。 お前の牢獄であった灰色のメガロシティは、 いまや、お前のための狩場となったのだ。” ---重金属酸性雨降りしきる電脳犯罪都市、ネオサイタマへようこそ。君はある日突然ニンジャソウル憑依者となり、ソウカイ・シンジケートと呼ばれる組織に所属することとなったニンジャだ。君は生き残りをかけて、数々のミッションに挑まねばならない。

「まあ、確かに突然ではあるな……」

 ユリシーズは誰に言うでもなく呟いた。オービターの残骸を改造したサイバネ装備に、スペースメンポを装着した無骨な姿。その装束の胸には、クロスカタナのエンブレムが刻まれていた。

 ブラックホールに飛び込んだユリシーズは、気がつくと何故かネオサイタマに立っていた。さしものユリシーズも状況が掴めず、彷徨い歩くうちにニンジャに見咎められた。

 そのニンジャは、かつて滅びた伝説の組織ソウカイ・シンジケート、通称ソウカイヤのスカウト部門のニンジャだと名乗った。ソウカイヤといえば、己が籍を置いたアマクダリ・セクトの前身となった組織。当然、その名は知っていた。

 にわかには信じがたかったが、やがてユリシーズは事実を受け入れた。ブラックホールに飛び込んだのだから、こんなこともあろう。

 逸れたプロボットのことは多少気がかりではあったが、どうにか出来るものでもない。それに、ユリシーズの鋭敏なニンジャ第六感は、プロボットがどこかで生存していると確信させた。

 「しかし、これはこれで悪くない」

 ソウカイ・ニンジャは多忙であった。首領であるラオモト・カンや上位ニンジャたちから次々とミッションが下され、それをこなす。終えれば余暇を過ごし、またミッションが下される。

 そんな日々も、宇宙空間を寄る辺なく漂っていた時に比べれば、とても充実した張りのある生活であった。

 ニンジャに下されるミッションは、無慈悲かつ過酷なものばかり。だがユリシーズは非ニンジャをクズ と見下す典型的ニンジャ性を持ち合わせているため、邪悪な行いを成すのに抵抗はない。

 折に触れてはニンジャ第六感が感知するダイスを転がすような音が引っかかりはしたが、気にしたところで仕方ないものだと、そのうちわかった。

 故に、ユリシーズは今日もミッションに向かう。余暇の間にオンセンで休息を取ったため、体力も精神力も十分だ。次も必ず生き残る。前回のラオモト=サンからの評価も良かった。近いうちに、のし上がる機会も来るだろう。その時に備えて、このミッションを終えたらブラックマーケットに買い物にでも行くとしよう。

 事務所のドアが乱暴に開けられ、リーゼントにカミソリめいたメンポの威圧的なニンジャが入室した。上位ニンジャの一人、ソニックブームだ。今日もダンゴウが始まる。命令を受け、ユリシーズは静かに返事をするのだ。

「ヨロコンデー」

 宇宙を彷徨い続けたニンジャも、日々の生活に刺激を求める貴方も、充実したネオサイタマ生活を送れる、極めてミニマルでゼンめいたTRPG!

 ネオサイタマの闇に生きる邪悪なアウトローニンジャとなってサツバツ非道行為を働き、ニンジャスレイヤーの出現を恐れながら過酷な日々を過ごすさまをシミュレートすることで、逆説的に現実の日々の暮らしに笑顔と潤いをもたらすものです。今日から貴方も、ヤクザでニンジャだ!

 ニンジャスレイヤーTRPG初版ルールブック「エイジ・オブ・ソウカイヤ」! noteにて絶賛発売中!

※ニンジャスレイヤーTRPGは自ら考えたニンジャを動かすものであり、ユリシーズを動かせるわけではありません。

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 ブラックホールに飛び込んでもニンジャなら大丈夫。そういうパワがある。

 ならば、このブラックホールの如きコンテンツ群に飛び込んで存分に楽しめるのなら、すなわち貴方もニンジャなのだ!

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