「音が色で見えるーー「共感覚」について考える 」

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「音が色で見える〜「共感覚」について考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2019.6/21 TBSラジオ『Session-22』OA

 Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は声を聴覚以外で感じる「共感覚」ついて紹介したいと思います。

◾共感覚とは何か

 音を聴くと、通常その情報は聴覚を通して認識されます。このように私たちは視覚や嗅覚など、五感を通して様々な情報を得ているのですが、ひとつの感覚器官から得られる情報はひとつだけではない場合もあるのです。

 共感覚とは、ある感覚刺激が別の感覚からも感じられるという、特殊な知覚現象を指します。有名なのは「色聴(しきちょう)」と呼ばれるもので、音を耳から感じるだけでなく、色としても見えるというものです。他にも、文字を色として認識する「色字(しきじ)」や、痛みを色で認識するものなど、多数の種類があります。

 共感覚を持つ人は、例えばハ長調の音を「白色」と認識したり、ニ長調はオレンジ、あるいは数字の2は黒で5は緑、といったように、2つの感覚を使って物事を認識しています。また音を色でも認識することから、物事を記憶するのに有効に働いたり、逆に色が気になってしまって日常生活に支障をきたすケースもあります。

◾共感覚をつくることは可能か

 共感覚という知覚現象は、現状では一部の人だけが有する感覚です。ですが、音を聴くと色を感じる現象に法則性があるとすれば、あるいはそのような装置をつくりだすことができればどうでしょうか。共感覚を持っていない多くの人にも、例えば音から色を感じることができるようになるかもしれません。それはまた、私たちを取り巻く音について、私たちがより深く理解することを可能にしたり、また音をより身近かつ生活の向上に役立てることができるかもしれません。

 実際共感覚とは異なるものの、音と色の関係の法則性を見出そうという研究も進んでいます。例えばある音を聞いて、それが暖色系なのか寒色系なのかという、2つのイメージを連想させる特定の音を追求する研究があります。それによれば、音が緩やかに減退し、倍音という要素を多く含むものは暖色を感じさせる一方、同じく音が緩やかに減退するものの、倍音がほとんど発生せず、基本となる音の音圧のレベルが高い場合は寒色系を連想させる、といったことがわかりました。

 倍音は専門用語ですが、簡単に説明すれば、基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音、というものです。上記の説明はやや専門的なものですが、音の様々な要素が複雑に組み合わさって、音のイメージが構成されていることがわかります。そのため、音とイメージについては、さらなる研究が必要とされているのです。

 また今年の6月、富士通は体に身につけるだけで、音を感じられる「Ontenna(オンテナ)」という小型のデバイスを7月に発売すると発表しました。これは、髪の毛やえり元などに装着することで、音を256段階の振動と光のはやさに変換し、音を感じられるようになるものです。このデバイスは主に耳が不自由な方に向けて開発されており、車の接近や玄関のチャイム音などを感じられるようになるものです。技術を通して音を別の感覚で認識するという意味においては、共感覚と共通した要素があると考えられます。

 いずれにせよ、共感覚を似たものをつくりだすことは、現状ではまだまだ困難です。また共感覚の持ち主が、その能力のために苦労があることは先程指摘した通りです。しかし、共感覚の持ち主が持つ有意義な要素を、大多数の共感覚を持たない人々が共有できるようにすることは、福祉の面からみても有用であると思われます。音の可能性は、まだまだ多く秘められているのです。

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