音から風景を感じることができるーー「サウンドスケープ」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「音から風景が感じられるー「サウンドスケープ」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2019.6/28 TBSラジオ『Session-22』OA

 Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は音から風景を感じる「サウンドスケープ」ついて紹介したいと思います。

◾サウンドスケープとは何か

 蝉の音を聞くと夏の暑さを思い出したり、幼少期に聞いていた音楽を聞いた瞬間、その頃の感覚を感じることはないでしょうか。このように、音は風景や感覚を想起させることがあります。
 「サウンドスケープ(Soundscape)」とは、「サウンド」と、「眺め/景」 を意味する接尾語「スケープ(scape)」をあわせた言葉であり、耳で捉えた風景といった意味になります。サウンドスケープは、カナダの現代音楽作曲家・音楽教育家である、レイモンド・マリー・シェーファー(1933〜)が、1960年代末に当時の現代アートや環境問題に影響を受けて提唱したものです。サウンドスケープという概念は、その後世界に普及しました。

 音の研究の多くは、音を要素に分解し、その「音響的性質」に着目してきました(当ラボの他の記事でも、そうした音の性質を紹介しています)。しかしサウンドスケープは、特定の音の機能ではなく、騒音や音楽などすべてを含めた風景として、つまり音をひとつの「環境」として捉える点に特徴があります。
 日本でもサウンドスケープは「音の風景」や「音環境」などと呼ばれ、主に「音響学」、「環境・建築学」、および「文化・学術」という3つの領域から研究が進んでいます。また1993年には「日本サウンドスケープ協会」も設立されています。

 音響学的な研究としては、サウンドスケープにおける残響音や周波数が与えるイメージなどが研究されています。また環境・建築領域では、観光地でどのような環境音を取り入れることで心地よさをもたらすか、といった研究もあります。いずれにせよ、音を私たちの生活環境の一部と捉えることで、快適さなどを追求するものです。

◾日本独自のサウンドスケープとは何か

 文化・芸術の側面「日本」を連想するサウンドスケープについての研究もあります。少々古いデータではありますが、1996年に福岡市に在住する外国人に対して、本国では聞くことのない日本に特徴的な音について聞き取り調査をしました。その結果は、日本人の多くが連想するものとは異なりました。一般的に日本の音といえば「お寺の鐘の音」だったり、「ししおどし」「風鈴」といった古典的な音を連想するかもしれません。

 ですが、日本に暮らす外国人が感じた音は、「盲人用の信号の音」や「暴走族の音」、石焼き芋やラーメン屋台などの「物を売る商人の声」といった、日常的に接する音の指摘が多かったのです(ちなみに石焼き芋の売り声を、仏教の祈りの音と感じた外国人もいました。独特の声の響きをそのように感じたのだと思われます)。こうしたサウンドスケープは、日本で生活していると気づきにくいものですが、日本在住の外国人にとっては、こうした音が「日本の音」と認識されていることがわかります。

 また、公共空間のアナウンスが多いのも、日本の音の特徴であり、親切である一方、うるさいと感じる人もいました。信号やアナウンスの音が多いことが、日本の文化とどのような関係があるのかについて、サウンドスケープの観点からも考察されているのです。

◾サウンドエデュケーション

 サウンドスケープは音に関する概念ですが、それは必ずしも音だけに限定されない、幅広いものです。サウンドスケープから派生したものとして、自分の身の回りの環境に注意を向ける「聴く力」向上のための教育活動である「サウンドエデュケーション」があります。いくつもの課題を通して聴く力を向上させるサウンドエデュケーションには、一日の最初にきいた音や、一番大きかった音、きれいな音について書かせるものがあります。他にも、高齢者に自分が生まれる前に聞いた音について聞く、といったものもあり、音を通して自分のまわりの環境に想いを馳せ、自分の生活をより豊かなものにするための意識を育むのです。


 サウンドスケープ研究はこのように、音を中心として私たちの意識を高めることにつながります。音と私たちの関係については、まだまだ多くの研究がなされているのです。


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