プロローグ 〜古い小屋の中で

私たちは、曇った小窓がひとつしかない暗い物置の中にいた。マリオネットは私より新入りだったが、ずっとうつむいていた。彼は病人で、両腕の手首から先がなかった。隣に座っている私に微かに聞こえるようなうつろな声で、昔話をするのが常だった。
よく聞いてみれば、それは物語のようなひとつながりの話ではなくて、ひとつがひとつもっと短い小話で、まるで紙芝居を聞かせるような口調だった。
実際には行った記憶のない街のあちらこちらの風景の話、暗い部屋での夫婦のやりとり、彼が大男と一緒にしたつまらない踊り、その時に怪我をしてしまった話……
それは途切れ途切れで、まるで描きかけの絵のように、色鮮やかなに覚えているところとほとんど覚えていないようなところが混ざっているようだった。その時の彼は幻影を語っていたのだ。今となってそう思う。

それと、彼は人間をひどく恐れていたようだ。時折、下の部屋に住んでいる爺さんが階段がきしめかせる音を立てると、マリオネットは長い足を折りたたみ私の後ろに隠れた。爺さんが物置に入って探し物をする時などは、その硬くて軽い木の肌を震わせて小さくカタカタと音を立てるものだから、爺さんはネズミでも隠れているのではないかと思って、私たちのいる木棚の上まで覗き込み、マリオネットをつまみ上げたのだ!
しかし彼は手足をうなだれて動かなかったので、爺さんは怪訝そうに元の棚の上に戻しておいた。マリオネットはとうに気絶していたのだ。
爺さんが下の部屋に戻ってしばらくすると、彼は意識を戻した。彼は腰から上だけを持ち上げて、私の肩に両腕をかけた。虚ろな眼差しのまま、またぶつぶつと言葉を発していた。

私は長い時を生きてきて、多くのものを見た。人間の言葉を話すものも、こっそり動き出すものも、語らずとも賢いものもたくさん見てきた。しかし、こんなにもやつれたものはかつていなかった。マリオネットほど。
彼はほとんど病人だった。

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