見出し画像

【声劇台本】059「憂鬱シュークリーム」

「憂鬱シュークリーム」
■人物
小春ちゃん(17)高校2年生。
研君(17)高校2年生。

■本編
小春「この世界から消えちゃいたいなあ」

研のMO「プチシュークリームを食べながら、小春はそうつぶやいた。小春は高校を休み出して半年になる引きこもりだ。病院に通うのと、週1で俺と外のカフェで話すのだけが彼女の存在理由らしい」

小春「憂鬱なんだよ」
研「憂鬱ねえ……」
小春「死にたいってより、消えたい、ってほうが正しいんだよね、この感覚は」
研「どう違うんだ?」
小春「消えたいっていうのは、存在を隠したいっていうか、世間から忘れ去られたいっていうか。存在そのものを消滅させたいって言う願望的な?」
研「よくわからん……」
小春「研君、つめたくない? 人生相談しているのに……」
研「いまの人生相談だったのか? そういう重たい話はカウンセラーとしろよ」
小春「カウンセラーこそ、上辺だけの話しかしないし。大事話は研君の方がわかってくれるから」
研「俺は小春みたいに小難しいこと考えられないから、ただ聞くぐらいしかできないのわかってるだろ?」
小春「ああ、入れ替われたりたいなあ……」
研「え? 入れ替わりたい?」
小春「なまけものとか、海月とか、プランクトンでもいいの。あ、研君でもいいや! なんかね、なんも考えてない、無味な存在と入れ替わりたいの! そうしたら私の憂鬱も和らぐかなーって」
研「俺は、少しは頭使って考えてるぞ!」
小春「え? どこが? 身だしなみは適当だし、私のこともちゃんと考えてくれないし! 脳天気じゃん」
研「考えてるよ! 俺たちはそれこそいつ消えるかわからない存在だし、わからないからこそ、今を大事に生きなきゃ、って!」
小春「ふーん。研君にしては哲学的発言だ!」
研「だから消えたいとか言うなよ」
小春「なるほどね。でもね。私は消えたいの!」
研「全く、贅沢な話だな」
小春「贅沢かな?」
研「そうだよ。小春は小春をいきられるのは一度きりなんだから。もっと消えたくなくなる工夫ができると思うけどな」
小春「消えない工夫か……」
研「それに、小春が消えたら、俺は、さみしい!」

研のMO「そう言って、俺は小春のプチシュークリームを一つとって食べた。そして、俺たちがいつか世界から消えてしまう日のことを想像した。甘さが広がる頭の中で何んだかわけのわからない感情がフワっと爆発した」
     (おしまい)

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。