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【声劇台本】064「フライング・クッキー」

「フライング・クッキー」

■人物
鈴ちゃん(16)高校1年生。
衛藤くん(16)高校1年生。

■本編
鈴のMO「秘かな恋心に火を灯す2月。クッキーを焼いた。手作りだ。本命の彼に渡す前に、私は幼馴染みの衛藤を呼び出した」

衛藤「鈴。俺に頼みって何?」
鈴「あのさ、衛藤。毒味係やってくれない?」
衛藤「毒味係って?」
鈴「クッキーの味見!」
衛藤「何? 作ったの?」
鈴「まあ……。2月だし」
衛藤「不器用なお前がお菓子作りねえ」
鈴「だから。味見して」
衛藤「無理!」
鈴「なんで?」
衛藤「どうせ激マズだろ? 俺死にたくない」
鈴「感想は食べてからにしてよ! 一生懸命作ったんだから!」
衛藤「誰にやるんだ?」
鈴「食べたら、教えてやってもいい!」
衛藤「食べるなら、先に教えてもらわないとな。どうする?」
鈴「……サッカー部の矢部くん!」
衛藤「矢部? ああ……ああいうのがいいのか。鈴は昔から顔だけで選ぶもんなあ」
鈴「……私の憧れにケチ付けないでくれる?」
衛藤「矢部は競争率高いぞ」
鈴「いいの。ただ、食べて欲しいだけだし」
衛藤「目標低めかよ、うける」
鈴「バカにする前に、約束! 味見してよ!」
衛藤「仕方ねえな……」

鈴のMO「衛藤はそう言って、私の焼いたクッキーを食べた。無言だった」

鈴「ちょっと、なんか感想言ってよ!」
衛藤「うーん……」
鈴「ねえ!」
衛藤「これは……普通、かな」
鈴「普通? よかった!」
衛藤「いや、よくないだろ」
鈴「なんで?」
衛藤「これじゃあ、矢部の記憶にお前は残らない。どうせなら、うまいか、クソ不味くないでないと勝ち目はないぞ?」
鈴「いいの。私って、存在感薄いし、普通でいいの。普通が一番。食べてもらえればそれでいいんだから」
衛藤「あ。そう。なら十分じゅやね?」
鈴「衛藤。ありがとな! 勇気出せそう!」

衛藤のMO「鈴は元気よく去って行った。俺は所詮、鈴にとって都合のいいだけの毒味係でしかない。でも、俺の記憶には、アイツのクッキーの味が確かに残っていた」
              (おしまい)

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。