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10年ズレた世界線を選べたら #1

>> 一緒に居てもらえる世界線、俺にありますか?

当然に「Pretender」が脳内再生される

はじめから引き切れない線のままならば
この言葉に惑わされるべきじゃなかった

無責任に「好き」だと言えない不器用さに
永遠も約束もなかったけれど

あなたの気遣いだけは
あふれるほどに感じられていたから

もしかすると

真っ直ぐに向き合ってみたら
線は繋がるのかもしれない

そう思ってしまったの


***


フワッとかすかな風に
頬を触れられた気がして
目が覚めてしまった

どれほど疲れ果てて
深い眠りの地にいたとしても

わずかな音や気配で
あっという間に現実に戻ることができる

もう10年以上も前なのに
母親のクセとはいつまで
残り続けるものかしら

真っ暗な部屋に目が慣れるまで
動かせるのはまぶただけ

足が床につく音
パッタパッタ
スリッパが摺って歩いていく

足の小指の先さえも動かすのを我慢して
次第に高鳴っていく鼓動を必死に抑える

カラカラカラ
ゆっくり戸が開くと
黄金色の光が部屋に差し込んだ

見えてきたのは
眠りに落ちる直前までいた
非日常の世界のまま


家具や設備は黒を基調とし
ビビッドピンクのスタイリッシュなデザインの壁紙
窓際には6つものクッションが敷き詰められたソファーがある

壁面ライト、サイドライト、ブックライトにこれでもかという数の照明を
ベッド元のボタンで操作し、好みに調光できる

寝るときは全ての光を暗闇の世界へ追いやって
あなたはおやすみするのよね

部屋の引き戸を開けると
広い洗面兼脱衣所と出入り口が繋がる
余裕のある空間デザインは
ユニバーサルルームを意識したつくりなのでしょう

またカラカラと音がすると
部屋を照らす光は吸い込まれるように
消えていった


セミダブルベッドを二つ
隙間なくくっつけたから
お互いに掛け布団を奪い合うことなく
すっかり寝てしまえたらしい

そうじゃなくても
あなたはほんとうに姿勢良く眠る

夜更けにふと目が覚めて隣を見ても
いつもわたし側の腕を伸ばしたまま
真っ直ぐ仰向けで静かな寝息を立てている

「俺、寝返り打てないんだよね」

あなたはいつも言葉のままに行動する

眠りに落ちた時の姿のままに朝を迎えるように
はじめに出会った時のままに終わりを迎えるの



あなたとは「契約」だった

わたしのとめどない好奇心で
始まってしまった普通じゃない関係

過去も未来も考えないで
「今」さえ楽しめることができれば
最高のパートナーになるはずだった

効率的かつ合理的な男女の関係は
お互いの不足分のみを補給し合って
余計な干渉をし合わない

続けていくための条件は

「恋愛感情を抱かないこと」



「10年ズレた世界線を選べたら」

~to be continued


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