時雨れる心の在りか #1

雲一つない空の <青>
背の高い銀杏の <黄>
繊細に茂るもみじの <紅>


コントラストと彩度を上げ
どれだけシャープをかけたって

現実世界の風景のあざやかさには
どんな仮想世界の風景も敵うことはない

姿は見えないのに
確実な存在感を主張する
キンモクセイの芳香


ーーー秋


この季節になると思い出す
「時雨」


晩秋から初冬にかけて
突然何かを思い出したかのように
降り出す雨

止んだと思ったら
また零れ落ちる涙

不安定な心模様は
まるで彼のようだった


「シグレ」


彼がどういう思いで
もう一人の自分に
付けた名前だったのか

今になって
気になりだしているの


***


尖った耳に黒ずんだ小さな鼻
クリっとした大きな目
母性本能をくすぐるような
幼児体型の小さな種族

それが彼の姿<アバター>だった

小さな体から強大な魔力を解き放って
敵に致命傷を与える「黒魔導士」

>> 俺はつえぇぇぇぇえっ!


そういって小さな手から放たれる炎の呪文で
愉しそうに敵を焼き尽くす

見た目からのギャップが大きすぎて
彼の存在感に圧倒された記憶しかない


そんな彼から

>> リアルで付き合いだした

とサークルに報告があり
彼女を紹介された


森の妖精であるエルフをモチーフとした
スラっと背が高く細長い手足
透き通るような銀白色の長い髪を持ち
神秘的な切れ長の美しい瞳

仮想世界の中でも一番美しいと言われる種族
それが彼女の姿<アバター>だった


彼女はサークル内では普段から物静かで
いつも淡々とレベルを上げていた

でもひとたびチャットがはじまると
がらっと印象が変わった

敵やエリア情報、アイテム相場、装備のパラメーターまで
彼女に聞けば必ず的確な答えが返ってくる
その聡明さは、けして誰に対しても崩すことのない敬語使いと相まって
サークル内では 一層際立っていた

そんな才色兼備な彼女と
小さな体に大きな存在感を放つ彼が
現実でお付き合いをするなんて

リアルの想像が全くつかない
ちぐはぐなカップルに
サークルの仲間達からは
たくさんのお祝いの言葉が贈られる


あたたかい世界なの


けれども


リアルにまでつながった
ふたりの紅い糸が
永遠に続いたのか

あざやかな色を失い
はらりと枯れ落ちるように
ほどけてしまったのか


今も 明らかにはならない



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恋し続けるために顔晴ることの一つがnote。誰しも恋が出来なくなることなんてないのだから。恋しようとしなくなることがわたしにとっての最大の恐怖。いつも 支えていただき、ありがとうございます♪