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ふたつの青玉<サファイア>

天から舞い降りてきた
ふたつの青玉せいぎょく

無我夢中で両手を伸ばし
手のひらを大きく広げて

落とさぬように壊さぬように
そうっと手におさめた

まだ輝きを知らない原石を
お預かりいたしました


再び両手を広げてお返しするときには

どうかどうか
まばゆいくらいに
自由に光り輝いてほしいと

願うだけ

そう願うだけ



しんどい身体と心の重さ
激しい運動をした後のような
心地よい疲れにも似た気だるさ

真夜中の病棟
非常灯の明かりの元
長く続いていく薄暗い廊下

困惑した想いで
ゆっくりゆっくり歩いていく

処置室まで来ると振り返り
再び来た道を戻り歩く


病院独特の怖さや
気味悪さを感じないのは
腕に抱く「生」温かいモノのおかげ

それはたしかに
小さな鼓動を懸命に鳴らし

わたしに否が応でも
「生」を感じさせてくる


こんなに小さな人間を
今までに見たことがない

これが本当に
「人」なのかしら

これが本当に
社会に生きる「人」となるのかしら

不安でもなく心配でもなく
困惑でしかない


何十分と往復していると
大部屋から出てきた
白い髪の女性に声を掛けられる

すやすやと目を閉じて眠る
小さな人の顔を見て

「この子は必ず美人になるよ」

と、まるで賢者のお告げのように
微笑みかけてくれた


そのお言葉に
どれだけ救われてきたか

賢者様はわかってくださっているかしら





原石は磨けば磨くほど
圧倒的な輝きを放つ

どれだけの力で
どれだけ研磨すれば
どれだけの光を放つのか

同じ原石でも磨き方次第で
人は色んな輝き方をするの

でも適切な磨き方がわからなくて
思うように光れない人も大勢いる


大切なふたつの青玉を
わたし自身が磨かれてきたまま
一生懸命同じように
強い力でずっと磨き続けた

でもそれじゃダメだったの


わたしは金剛石だった

どれだけ力を入れて磨かれても
どれだけ強く削られても
耐えうるだけの忍耐力が備わっていた

同じ力で磨き続ければ
傷つくのは当然だった

サファイアの硬度は
ダイヤモンドより低いのだから

輝ききれない未熟なダイヤモンドが
輝き方を知らないサファイアの原石を
同じように光らせようだなんて
思ってはいけないことだった

大切なことに気づく前に
ひとつの青玉は
大きく欠けてしまったのだから


わたしもできるのなら
あなたもできる

わたしはこう考えるのだから
あなたもこう考えるでしょう

それが当たり前だと思ってはいけない

当然に見えているその世界も
人には自分が見えている世界が見えてはいない

当然に映っているその色も
人には自分が認識している色は映ってはいない


欠けてしまった部分を
必死に繋ぎ合わせようとした

けれども

あらゆる接着剤を使っても
けっして元通りになることなんてない

わかっている
わかっているの

あきらめきれなくて
磨き続けるその手を
止めることはできなかった





少し早いけれども
わたしはゆっくりと手をひらく

お預かりしていたふたつの青玉を
どうぞお返しさせていただきます

手元から離れるときに
欠けて小さくなった青玉が
淡く光りはじめていることに

ようやく気づけたの



寄り添うふたつのサファイアたち

どうかどうか
自由に光り輝いてほしいと

願うだけ

そう願うだけ




***



ふたりの誕生日おめでとう
September.30th




「ふたつの青玉<サファイア>」


~END

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恋し続けるために顔晴ることの一つがnote。誰しも恋が出来なくなることなんてないのだから。恋しようとしなくなることがわたしにとっての最大の恐怖。いつも 支えていただき、ありがとうございます♪