親父の話

あまり人には言っていなかったけれど
ちょうど一年前の正月に親父が亡くなった。

我が家はだいぶ前に両親が良くない理由で離婚していて、俺も親父とは疎遠になっていたから亡くなって感慨深いとか悲しいとかそういった感情はあまり湧かなかった。なので粛々と葬儀やその他進めたわけなのだが一年経って少しでもいいから何かしら残しておかないと親父のことを完全に忘れてしまいそうで、それはそれで少し忍びないなと思ったわけです。

親父はお世辞にもいい父親とは呼べなかった。
フリーの放送作家/脚本家を生業としていた彼は調子が良かった時は教育テレビの某有名ドラマのシナリオを担当したり、それなりに稼いでいて羽振りも良かったらしい。のだがその分家庭を顧みることはほとんどなく、母親との仲もおぼん・こぼんくらい険悪で家族全員での楽しい思い出は皆無。
生活の質も良くなく、部屋はいつも目が霞むくらいタバコの煙で充満していて仕事がない時は寝ているか酒を飲んでいるかパチンコをしているというイメージだった。
通常のこういう類の文章であればこの後「でも」という枕詞の後にプラスのエピソードがくるものだが今必死に思いを巡らせてみても何も浮かばない。だから書き始めてみたのはいいもののあんまり書くことがない。

晩年は持病があるにも拘らず薬を飲むのをいくら説得しても拒否し続けた。緩やかな自殺をしているようだなと思った。

でも最近思うことがある。(でもって言っちゃったよ)
俺がコピーライターという文字を扱う仕事で細々とだけど10年くらい食えているのは間違いなく親父の血が関係しているんだろうなって。

親父が唯一遺してくれたであろうこのギフト。
俺は少しだけ、いやかなり、いや、ものすごく気に入っている。
ありがとう親父。

これは息子である俺だけが堂々と言えることだと思うのでもう一度書くけど
親父はいい父親ではなかった。
最近そんな親父にどんどん似てきてる気がする。
すごい嫌なんだけど、なんか悪い気はしないんだよな。

親父は何冊か書籍を残していて中には面白い物もあるらしい。
ただそれを読んでしまうとなんとなく親父のことを
好きになってしまいそうで読めていない。
きっとこれからも読むことはないんだろうなって思う。

シモカワ


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