もし長澤まさみと宅飲みをすることになったら

誰でも人生で一度は考えるはずだ。
”長澤まさみと宅飲みをすることになったらどうしよう”と。
その際、我々はどう振る舞えばいいのだろうか?
来るべきその日に備え、対策を考える必要がある。下記アジェンダである。

【設定】
長澤まさみはどのような存在であるべきか?

【シミュレーション①:20時半】
長澤まさみはどのような流れで宅飲みに現れるのか?
【シミュレーション②:21時】
長澤まさみをどのように迎えるべきか?
【シミュレーション③:21時15分】
長澤まさみにどのような酒とつまみを提供するべきか?
【シミュレーション④:21時半〜22時半】
長澤まさみとどのような会話をすべきか?
【シミュレーション⑤:22時半〜23時半】
 長澤まさみとどのようなゲームをすべきか?
【シミュレーション⑥:23時半〜24時】
長澤まさみとの宅飲みはどのように終わるべきか?
【シミュレーション⑦:翌10時】
長澤まさみとは何だったのか?


【設定】
長澤まさみはどのような存在であるべきか?


 対策を練るにあたり前提条件を考える必要がある。長澤まさみと宅飲みをする対象である人間(以下、俺と記す)の関係はどうあるべきか?
 当然であるが「長澤まさみと俺があらかじめ友人である」というケースは論外である。これでは長澤まさみと宅飲みをする新鮮味に欠けるし、長澤まさみのプライベートなパーソナリティをある程度知っていることになってしまうから対策を講じる醍醐味がない。また「長澤まさみと友人とまでは言えないが知り合い/顔見知りである」というケースも上記と同様の理由で不可である。初めて会うという前提で話を進めたい。そこで本稿では仮に長澤まさみは友人の友人であるということにしたい。具体的には「俺の友人女性の中学時代の同級生が長澤まさみ」というシチュエーションとする。便宜上この友人女性の名前を「愛美」とする。(「愛美」は長澤まさみの出生年である1987年の女性の名前ランキング第2位から引用しておりネーミングに他意はない)また、長澤まさみと俺と愛美の三人で宅飲みというのは不自然なのでモブキャラとして男性と女性を一人ずつ加えようと思う。
 そしてもう一つ大切なのが「長澤まさみは急遽遅れて宅飲みに参加することになった」という条件である。前もって参加が決まっていればそれなりの武装をして臨むことになるのだが、そうなると本稿の意図と少しずれてしまう。長澤まさみとトラブルはいつでも急にやって来るのだ。

さて、今宵の宅飲みについて情報を整理しよう。

【開催場所】
愛美の家
(長澤まさみは愛美の友人なので妥当である)

【開催日】
土曜日
(長澤まさみ以外の四人は完全週休二日制、土日休みとする)

【愛美の家の所在地】
小田急沿線の駅から徒歩8分の閑静な住宅街。コンビニまで徒歩3分。
【愛美の家の間取り】
一般的な1k
【参加メンバー】
長澤まさみ(※遅れて参加)
愛美

モブ男性
モブ女性

 詳細は割愛するが愛美の家の所在地や間取りは俺がよく宅飲みをする友人の家をモデルとしている。また参加人数も経験則に基づき、この程度の人数が滞りなく全員と話題が共有でき居心地よく過ごせる最適解であると考える。

 また、宅飲み開始の時刻は19時とする、気心のしれた俺、愛美、モブ男性、モブ女性の四人は酒を飲みながらもう何度したかわからないくだらない話に花を咲かせている。そうこうしているうちに時刻は20時半。愛美のスマートフォンが鳴り響くところから語は始まる。ここからである。想像力を働かせて欲しい。

【シミュレーション①:20時半】
長澤まさみはどのような流れで宅飲みに現れるのか?


 20時半、愛美のスマホが鳴る。下記のような会話が想定されるだろう。

「結構久しぶりじゃん、電話珍しいね。え、今?私の家で友達と飲んでるよ。うんうん。お、マジか。ちょっと待ってて」

 スマホから耳を離し、俺達の方を向く愛美

「ねぇ、今からもう一人友達呼んでもいい?」

 愛美が尋ねる。俺達は当然受け入れる。ここの家主は愛美なのだから決定権は彼女にある。電話を切った愛美に俺は尋ねる。

「え、誰が来るの?」

 すると愛美はあっけらかんと答える
「中学の時の友達で女優やってる子。長澤まさみって知ってるよね?」

 愛美にとって長澤まさみはタレントである以前に中学の友人である。定期的に連絡もとっているのだろう。よって緊張や気負いは一切なくこの程度の反応が予想される。彼女にとって長澤まさみは大勢いる友人の中の一人なのだ。また愛美は芸能関係に疎く、周囲もその程度のリテラシーであると思っているため「長澤まさみって知ってるよね?」などという拍子抜けの発言に繋がるということにしておこう。

「長澤まさみって知ってるよね?」

 愛美の発言によって俺達の空気は一変するだろう。
「え、あの長澤まさみ?」などと聞き返しても長澤まさみにあのもこのもないのである。愛美曰く「撮影が早く終わり、現場が愛美の家の近くだと思い出して電話をかけた。ご時世もあり外で飲むのは憚れるので家に遊びに行かせてほしいと思っていた。愛美の友達がいるのも全然大丈夫。会ってみたい」とのことらしい。
 ここで「え〜!」「嘘でしょ!」「ヤバイヤバイ!」などという反応は無粋である。無論、内心穏やかではいられないだろうが、そこを堪える必要がある。何故ならば(以下本稿を進めるにあたり最も重要なことを記す)

長澤まさみは愛美の友人として宅飲みに参加する一人の女性であり、業務上の「長澤まさみ」ではないからだ。

 想像してみてほしい。自分が参加した飲み会で変に持ち上げられたり、腫れ物を触るような扱いを受けたら居心地が悪いのではないだろうか?ましてこれは緩い宅飲みなのだ。なるべく弛緩した空気を醸成し、長澤まさみは勿論、参加者全員がリラックスした時間を過ごす義務がある。
 愛美の話によると長澤まさみは21時に到着するらしい。猶予は30分。この時間をどう過ごすべきなのだろうか?

【シミュレーション②:21時】
長澤まさみをどのように迎えるべきか?


 この時間を使ってすべきこと。それは「長澤まさみってやっぱり綺麗なのかなぁ」だとか「長澤まさみってデビューした時より最近の方がずっといいよね」等の長澤まさみについて議論することではない。大切なのはこの30分で気持ちを落ち着かせ、平常心で長澤まさみを迎える準備をすることだ。長澤まさみがドアを開けた瞬間「あ、なんかこの人たち緊張してるな」と感じてしまったら失敗なのである。深呼吸をしたり、窓を開けて夜風に当たり頭を冷やすのもいいだろう。経験がある方はわかるだろうが、遅れて宅飲みに参加すると先に集合していた人たちがゲームタイトルの垣根を越えた人気キャラクターが大集合している格闘テレビゲームで大盛り上がりしており、自分が登場したことに家主以外誰も気がついていないというケースがある。大げさではあるが理想はそれに近い。あくまでも自然体。それを意識してほしい。

 そうこうしているうち時刻は21時、愛美の部屋のチャイムが鳴り、その時はやってくる。朝早い現場だったに違いない。明るさの中にちょっとした疲れが見え隠れする声で「お疲れ様ーお邪魔しまーす」のような言葉を発しながら長澤まさみは靴を脱ぐのだろう。そしてキッチン脇の短い廊下を歩き、俺達が待つリビングに入ってくる。いよいよご対面である。
 この時に大切なのは第一声の挨拶、そして我々の座り位置である。
「え、マジで本物じゃん!」言うまでもなくこのような発言は論外だ。長澤まさみはハードな仕事を終え友人宅の宅飲みに参加した一人の女性なのである。好奇の目を向けるなど失礼極まりない。ここは自然に「お疲れ様です」「こんばんは」「外寒かったですか?」等自然な会話が好ましい。そうすることで長澤まさみも「愛美の友達っぽい素朴な人たちなんだな」と感じることができ、警戒心も薄れるだろう。

そして続く問題は座り位置だ。図をご覧いただきたい。

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 図1は長澤まさみが現れる前、4人で飲んでいた際の配置を仮に置いたものだ。(宅飲みのスタイルに関しては日本人特有のローテーブルに飲食物を置き、地べたに直に座る方式を採用している)この形を基本形とし、長澤まさみはどこに座ってもらうべきか?
 恐らくベーシックに考えれば図2の「案その1」に落ち着くと思う。客人を奥に座らせるのは自然な流れだし、初対面の男性陣とは遠ざけ愛美の横を確保する。何の問題もないように思えるが、俺はあえて図3の「案その2」を押したい。理由を述べる。

1)長澤まさみの緊張を緩和
 長澤まさみに「この人たちやっぱり私を特別扱いするんだ」というマインドになってほしくない。たかが座り位置で、と思われるかもしれないがこの時点ではまだ出会って数分、数秒という世界だ。少しでも懸念材料は減らしておきたい。

2)廊下へのドアが近く、様々な事態に対応しやすい
 長澤まさみは言うまでもなく多忙である。宅飲み中に仕事関係や知人から電話がかかってくることも予想される。その際にドア近くをキープしておけばスムーズに廊下に出て会話することが可能だ。狭い宅飲みにおいてはフットワークが肝心で、その点を考慮する必要がある。また宅飲みの際、往々にしてあることだが、冷蔵庫に一番近く新しい酒を作る係を務めるべき者(今回のケースでは俺)が泥酔してしまい酒の供給が滞ることが起こり得る。その点この位置ならば例え俺が酩酊状態になっても長澤まさみは自分で好きなドリンクを好きなタイミングでスムーズに確保することができる。

 以上の理由から俺は「案その2」を推薦する。決して個人的に長澤まさみの隣に座りたいからという理由ではないことを強調しておきたい。
 
 さて、挨拶を済ませ、座り位置が決まりオープニングセレモニーは終わった。時刻は21時15分。いよいよ宅飲みの始まりである。

【シミュレーション③:21時15分】
長澤まさみにどのような酒とつまみを提供すべきか?


 インターネットの情報によると長澤まさみはかなりの酒豪らしく、中でも日本酒が好きらしい。また、食べ物の好き嫌いに関しても言及しているサイトはいくつもあり、なかなか興味深くはあるが本稿においては関係がない。長澤まさみだからという理由で特別な酒とつまみを用意する必要は全くないからである。
 想像してみてほしい。急遽遅れてあなたの自宅で開かれる宅飲みに参加することになった友人がいたとする。その際あなたは「そういえばあの子、無糖で味がついていないストロング系のチューハイ好きだったな。今家にないからコンビニに買いに行かなきゃ。ストローも忘れないようにしないと」と考えるだろうか?いや、中にはそういう殊勝な人もいるのかもしれないが一般的なケースとは言えないだろう。遅れて参加する方も家に向かう道すがら家主に電話をかけ「私、無糖で味がついていないストロング系のチューハイ飲みたいから買ってきておいて。ストローも忘れないで」などとは言わないはずだ。マリーアントワネットか。宅飲みで遅れる人間が電話で言っていい言葉はひとつだけ「遅れてごめん、何か買っていくものある?」である。

 よって長澤まさみを待っている間に「長澤まさみ 好きな酒」などとググり、焦って日本酒を買いに行くということはしなくてよい。堂々と構えていればいいのである。ただひとつ懸念点があり、それは缶の飲み物が切れていた場合だ。
 主観になってしまい恐縮だが一般的な宅飲みはまず缶ビール缶チューハイ等の一本完結型の酒で始まり、徐々に割り物等に移行するのが自然であるように思える。今回のケースは長澤まさみ登場以前の宅飲み開始から約2時間が経過しており、恐らく缶物はもうなくなっていると予想される。家に到着していきなり甲類焼酎の烏龍茶割りで乾杯というのは長澤まさみでなくとも忍びない。つまり、ここでの正解は「長澤まさみに合わせた特別な酒(日本酒等)を購入する必要はないが、長澤まさみが到着する前に缶系の飲み物を徒歩三分のコンビニで購入しておく」ということになる。注意しなければならないのが最初の電話の際、愛美は長澤まさみに対して「ビール切れたからあんた来る前に今から買いに行くよ。何がいい?」などと聞いてはいけないということである。こうなった場合、長澤まさみが「それなら私ついでに買っていくよ」と言い出す可能性がある。長澤まさみは仕事で疲れているし、コンビニで何かトラブルに巻き込まれるかもしれない。黙って買い出しに行っておき、長澤まさみにはまっすぐ愛美家に来てもらう流れが理想である。

 つまみに関しても酒と同様だ。これは数ヶ月前から入念に準備された誰かの誕生日会や「長澤まさみを囲む会」ではなく突発的に開催された宅飲みなのである。微妙なニュアンスの違いだが「ホームパーティー」と称すれば、カルディ辺りでまぁまぁいい値段のするワインやら異国の珍味やらを持参しなければならない気持ちにもなるが、平和で牧歌的な宅飲みにおいてはむしろあり合わせのものこそご馳走といえよう。そして幾ら長澤まさみがスポットライトを浴び続ける輝かしい人生を歩んでいるからといってこのニュアンスは理解していると考えるのが妥当だ。すなわち焦って豪華なつまみ等を用意した場合、やはり長澤まさみに「ただの宅飲みなのに私が来るとわかったから無理して高いつまみ買ってきたんだ」と思わせてしまい心の距離を作る原因に繋がる。これは避けなければならない。
 以上のことを考慮するとこの日、愛美の家のローテーブルに並び、冷蔵庫で待機する飲食物は以下のようなラインナップが予想される。

・缶ビール 数本
・缶チューハイ 数本
・甲類焼酎(1.8リットル紙パック)
・前の宅飲みで開封して余っていたウイスキー
・いつ開封したか不明な埃をかぶった梅酒のパック
・チータラ
・ポテトチップス
・カルパス(個装タイプ)
・30%引きだった野菜スティック
・氷
・炭酸水/烏龍茶/ジャスミン茶

 多少恣意的ではあるが恐らくこのような形に落ち着くであろう。何の変哲もないメンバーだ。だがそれがいい。繰り返しになるが「いつもの宅飲みに、友達の友達が急に参加することになった。その友達がたまたま俳優業に従事している人だった」という空気を作ることが大切である。
 長澤まさみが一杯目の缶ビールに口を付けカルパスに手を伸ばした頃、時計の針は21時半を指そうとしている。俺達は長澤まさみと何を話すのが正解なのだろうか。

【シミュレーション④:21時〜22時半】
長澤まさみとどのような会話をすべきか?


 「政治と宗教と野球の話は喧嘩の種になるから飲み屋でしてはいけない」と言われるが宅飲みの場合はどうか。個人的に宅飲みは比較的距離の近しい者同士がする行為であり、その場の空気を壊さず、相手が嫌がらないことであれば、ある程度内容は自由でいいと思っている。

ただ長澤まさみがいる場合、事情は多少異なる。

 まず絶対にしてはいけない事、それは質問攻めである。長澤まさみに限らず全員に対してそうではないかと思われるかもしれないが、ある特定のグループに新しいメンバーが参加して何かを一緒にする場合、その人物が馴染みやすいように色々とヒアリングをし、人となりを知ろうとする行為は許容の範囲であろう。しかし長澤まさみの場合、我々は一方的に長澤まさみを知っている。ありきたりな質問、例えば「長澤まさみさんはお仕事なにされてるんですか?」などと聞けばバカにされていると思われても仕方がない。初対面時の儀式である基本的なヒアリングは飛ばし、いい塩梅の話題を選ぶ必要がある。「今日はどこでお仕事だったんですか?」この辺りが妥当である。こう聞かれたら長澤まさみは恐らくこのような返しをするだろう。

「今日は○○で撮影でした」

 この時、間違っても「ドラマですか?CM?」などと畳み掛けてはいけない。守秘義務に踏み込む倫理観の欠如もあるがそれ以前にこれは上記した質問攻めを誘発してしまう。それは即ち長澤まさみを宅飲みの中心に据えることだ。避けなければならない。この場において彼女は単独主演ではない、あくまでも主役の一人なのだ。故にこう返された場合には

「○○いいところですよね。角のカレー屋さんすごく美味しいですよ。
ご主人が日本語通じないですけど」

 といったように長澤まさみの話を受けつつ自分からも情報を出し、一方通行な芸能記者の質問とは違うという事を見せつけることが大切である。

「へーそうなんですね。今度行ってみますね」
「チキンカレーがオススメですよ。ラッシーもつきます」
「わたし、ラッシー飲むと名犬ラッシーを思い出すんですよね」

 という具合にスムーズに会話を軌道に乗せることができれば成功である。この際、言うまでもないが愛美やモブ男性、モブ女性も置いていってはいけない。全員に何カレーが好きか聞くべきだ。よく会話はキャッチボールに例えられることがあるが会話は野球ではなくサッカーだ。小まめにパスを回すことが大切である。そして長澤まさみをワントップにしてはいけない。長澤まさみ、愛美、モブ男性、モブ女性そして俺の五人がフォーワードであり、また同時に司令塔もこなすフォーメーションを形成する必要がある。会話とはトータルフットボールなのだ。
 さて、懸念点について記してきたものの、ある程度場が温まってきたら少し踏み込んだ話もしてみたいと思うのが人情でもある。その際、プライベートには言及しないものの“長澤まさみという人間へ関心を持っている”ということが伝わると好ましい。一例として「好きな長澤まさみの出演作品」という話題辺りは非常にいいバランスに思える。これでは長澤まさみが宅飲みの中心になってしまうという避けるべき事態になってしまうように思えるかもしれないが、この後、モブ男が飼育しているウサギについて等話題を移せば問題はない。

さて、長澤まさみにはどの作品が好きと伝えるべきなのだろうか?

 無論、各々が本当に好きな長澤まさみ作品を上げればいいのだが、ここでも少し注意したい。例えば『コンフィデンスマン』シリーズが好きと伝えた場合「この人、最近ので思いついた作品を言っているだけだな」と思われる恐れがあるし『世界の中心で、愛をさけぶ』を上げた場合「最近の私のこと知らないんだ」と疑念を持たれる可能性がある。もしこのように著しく初期もしくは最近の作品を取りあげる場合には「セカチューが一番好きなんですけど、マザーすごかったです。衝撃を受けました」のように話すのがベターだろう。
 ちなみに俺は『モテキ』の長澤まさみが圧倒的に好きなので「俺も下北のヴィレヴァン前で待ち合わせしたかったです」のような事を伝えようと思っている。この部分は各自イメージトレーニングをしてから本番の日を迎えることを推奨したい。

 恐らく、この頃になると酒もそれなりに進み、当初の緊張はだいぶほぐれてきているはずだ(対応を間違えていなければ)時刻は22時半になろうとしている。このまま会話を続けるのも勿論有力だが次項ではもう一つの選択肢について言及したい。

【シミュレーション⑤:22時半〜23時半
長澤まさみとどのようなゲームをすべきか?


 俺は宅飲み時に大人数でやるテレビゲームが好きではない。せっかく皆で集まっているのになぜ全員の視線をテレビに奪われなくてはいけないのか。テレビゲームを宅飲みの主役にしてはいけない。主役は宅飲みの参加者でなくてはならないのだ。そもそも一例だが桃のマークがついた帽子を被った少年の仕切りで全国を電車で旅しつつ金儲けを画策する国民的人気ゲームがあるがあれの何が楽しいのか。いくらゲーム上で金を稼いでも現実の資金は1円も増えないのである。
 故に宅飲みでゲームをする場合、参加者全員が主体的に参加できるコンテンツであることを絶対条件に、以下シンプルでわかりやすく、かつ勝敗の決定に実力ではなく運の要素が強く出るゲームが望ましいと考えられる。それは長澤まさみが参加している場合も勿論同様である。それ以前に根本的な話として長澤まさみと宅飲みをしているのにわざわざゲームをするか?という意見もあると思う。これに関してはその通りで、前項のような流れで話が弾んでいればゲームなどする必要は全くない。ただ、本稿はあらゆる可能性を考慮するというスタンスを取っているのであくまでも選択肢のひとつとして考えてもらえればと思う。
 話を戻そう。便宜上愛美の部屋には古今東西ありとあらゆるゲームが揃っているものとする。

長澤まさみとはどのようなゲームをすべきなのだろうか?

 ここで「王様ゲーム」などと一秒でも考えた者は可及的速やかに本稿を冒頭から読み直していただきたい。そのような下世話なゲームは説明するまでもなく論外であるが「せっかく長澤まさみがいるから珍しいゲームをやろう」などと考えるのもいただけない。酒が入っている状態でややこしいゲームのルール説明はナンセンスで、占い師が占う前に狼が「人狼は僕です!」と名乗り出るような頓珍漢な事態になりかねない。避けるべきである。
 ではトランプはどうか?王道かつ手軽で一回のゲーム時間も短く最適に思えるかもしれないがこちらもお勧めできない。理由を述べる。

1)あまりにもシンプルすぎる
 前述した事と矛盾するようだがトランプはいい意味でも悪い意味でもあまりにもシンプルで盛り上がりにかける。トランプになった場合長澤まさみが「あれ?なんで私一般の人たちとトランプしてるんだろ?」と我に返ってしまう恐れがあり避けるべきである。

2)ローカルルールが複雑
 トランプになるとなぜか皆ご当地色を出したがる。やれイレブンバックだの8ギリだのスペ3だのジョーカーであがるのはダメなんだよ!階段は3枚からだよ!ゲキシバだよ!都落ちだよ!下克上だよ!等ややこしい。そんな小さな意地の張り合いで貴重な長澤まさみの時間を奪うわけにはいかない。

3)長澤まさみがやりたいトランプゲームにならない可能性がある
 例えばババ抜きをやることになったとしよう。長澤まさみは表面上楽しんでいる風を装ってくれるかもしれないが内心「どうせトランプやるんだったら七並べがよかったな」と思うかもしれない。もしそうだった場合フラストレーションが溜まってしまうことになる。この「どうせトランプやるんだったら」という部分が問題で、トランプはあまりにもゲームの幅が広すぎるので迷いが生じてしまうのがよくない。諸刃の剣のようなコンテンツだ。

 ただトランプの方向性自体は悪くない。そこで俺はウノを押したい。市民権を得ているゲームといっても過言ではないし、万が一ルールがわからなくてもすぐに理解できるシンプルさもある。チュートリアルもしやすい。一回のゲーム時間も短いし、英語の単語を発するのでなんかお洒落でカッコいい。まさに宅飲みにふさわしいゲームといえよう。そしてウノの一番いいところはプレイヤー同士の交流があるところである。希望的観測だがこの時間帯になると長澤まさみもだいぶ打ち解けてくれ「あ、私ウーロンハイおかわりほしいです。ちょっと濃い目がいいな」のような敬語とタメ口が入り混じるマジックアワーのような美しい一瞬が訪れているかもしれない。ウノであればそんな関係値を築くことができた長澤まさみと

「あ、今ウノって言ってないでしょ〜!」
「見逃しちゃいましたけどさっき長澤まさみさんもウノって言ってなかったですよ」

 といった会話ができるのである。どう考えても一生の思い出になる。この盛り上がりはウノだけに許された特別なもので他のゲームではちょっと想像ができない。さらに万が一、ウノを所持していなくてもコンビニで簡単に購入することができるので心配ない。長澤まさみや他の参加者にはしばし歓談をして待っていただき、コンビニまで走ればいい。外に出た際、喫煙者であれば一服するのもいいだろう。緊張から解き放たれるしばしのブレイクタイムである。
 アインシュタインは相対性理論を説明する際「熱いストーブに1分間手を当てると1時間位に感じられるが、素敵な女性と1時間喋っていると1分くらいに感じる。それが相対性だ」と言ったそうだが、まさに夢のような時間はすぐに過ぎてしまう。時刻は23時半過ぎ、この宅飲みはどのようなフィナーレを迎えるべきなのだろうか?

【シミュレーション⑥:23時半〜24時】
長澤まさみとの宅飲みはどのように終わるべきか?

 
 間も無く日付が変わろうとしている。長澤まさみは当然電車になど乗らないだろうし、俺、モブ男性、モブ女性も、いい歳の大人なのでどうとでも帰宅できる。つまりこのまま宅飲みを続行してもいいのだが、この辺りでスパッとお開きにするのが正解だ。なぜならば、ダラダラと深夜にまで及ぶ宅飲みは碌なことにならないからである。泥酔して床に雑魚寝して身体がバキバキになったり、話さない方がいいことを話してしまったり、次の日を潰したりととにかく非効率的だ。それに長澤まさみは日曜休みではなく次の日も仕事かもしれない。そういう気遣いをし、スパッと終わらせるのがスマートな大人である。万が一、長澤まさみが「え〜もっと飲みましょうよ〜」的なことを言い出せば話は別だが恐らくそうはならない。期待してはいけない。楽観は禁物である。
 さらに思い出してほしいのだが、そもそも長澤まさみは愛美に電話をかけ、愛美に会いたかったのであり、俺、モブ男性、モブ女性はイレギュラーな存在だ。もしかしたら愛美にだけ話したいことがあるのかもしれない。それを踏まえて少なくとも愛美以外の三人は中座するべきだ。仮に本稿ではこの案を採用することにする。

部屋から立ち去る際に長澤まさみとは
どのような会話をすればいいのだろうか?

 「一緒に写真撮ってください!」「連絡先とか…いけます?」のような事が少しでも頭をよぎった者は、このエントリーを全て出力し、トイレの壁に貼り付け、毎日最低3回は音読して身を清めてほしい。

 ただこの考えはあながち間違いとも言えない。最後の挨拶は多少のミーハー感であれば出してもいいと俺は考えている。
 なぜならばもう二度と長澤まさみと宅飲みは疎か、再会する事は期待できないからである。今宵の宅飲みは例えるなら本来であれば決して交わるはずのない二本の道が一瞬だけ重なった奇跡の瞬間だ。明日から長澤まさみは長澤まさみの道を、俺は俺の道を振り返らず再び歩き出す。その際、はなむけの言葉を贈るのはごく自然なことである。故に

「今日は楽しい時間をありがとうございました。これからもずっと応援し続けます。」

の様なシンプルだか心のこもった挨拶がいいだろう。細かいが「頑張ってください。」とは言ってはいけない。恐らく長澤まさみは既にだいぶ頑張っているからである。

 愛美の家のドアが閉まり夜の風が頬に触れる。駅までの道すがらもし開いている飲食店があってもモブ男性、モブ女性と飲み直そうなどとは考えてはいけない。それは最高級のイタリアンを食べた後に、繁華街でよく見かける緑色の看板のどこがミラノ風なのかわからないドリアを300円代で食べられるチェーン店にわざわざ行くようなものだ、という例えを出そうかと思ったが、繁華街でよく見かける緑色の看板のどこがミラノ風なのかわからないドリアを300円代で食べられるチェーン店は味もコスパも素晴らしいチェーン店なのでこの例えはよくなかった。謝罪します。
 モブ男性、モブ女性と別れたら気をつけて帰宅してほしい。恐らく頭がぼんやりしていると思う。クルマや自転車に撥ねられてはいけない。家に帰るまでが長澤まさみとの宅飲みなのだ。帰宅したら熱いシャワーを浴び、白湯を飲んで眠りについてほしい。今日の出来事を反芻しながら…

【シミュレーション⑦:翌10時】
長澤まさみとは何だったのか?


 一晩寝かせたカレーが美味な様に、一晩寝かせた長澤まさみとの宅飲みもまた感慨深いものがある。翌朝、あなたは思うだろう。長い夢でも見ていたのではあるまいか?と。
 しかしまだ少し体に残っている酒と、ウーロンハイを渡す時の長澤まさみの整った指の曲線の記憶が昨夜の出来事は現実だと教えてくれる。
 スマホを見ると愛美から連絡が入っているかもしれない「昨日はありがとねー!まさみも楽しかったって!」と来ているかもしれないし、何も来ていないかもしれない。それは実際に蓋を開けてみないとわからない。シュレーティンガーの長澤まさみなのである。

 本来であれば、宅飲みに参加するすべての人が長澤まさみでなくてはならない。それぞれがそれぞれを長澤まさみだと思い接すれば、すべての宅飲みは優しさと笑顔に包まれるだろう。

長澤まさみとは何だったのか?

 長澤まさみとは俺であり、あなたであり、そしていつか杯を交わすことになるかもしれない誰かなのだ。

 ソファに腰掛けテレビをつける。長澤まさみと旬のイケメン俳優が出てくるCMがちょうど流れる。二人の顔の距離は近く、画になる美男美女である。それを見て、あなたは旬のイケメン俳優に対しきっとこうほくそ笑むに違いない。


「君、長澤まさみにウノって言ってない!って言ったことないでしょ?」


(了)


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