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船に乗る、海鳥を見る、もっと遠くへ

2021年9月、フランス領ポリネシアの島々を訪れる機会に恵まれました。

今回の旅の目的は、海鳥の調査に参加することです。マルケサス諸島Nuku Hiva島を出発し、18日間かけて南北400km、東西300kmほどの範囲をヨットに乗って周り、そこに生息する海鳥を調べるというものです。私以外の参加者は、アメリカやイギリス、カナダ出身の鳥類学者や熱心なバードウォッチャーで、猛者ぞろい。

一方の私はというと、海なし県に生まれ、幼少期からバードウォッチングに親しんできたものの、海鳥を見始めたのは、夫と出会ってからで、歴はまだ5年くらいのひよっこです。しかも、普段海鳥を見る時は夫と一緒に出かけることが多いのに、今回は私一人…。調査の役に立つことができるだろうか…、船酔いは大丈夫だろうか…乗船前はそんなたくさんの不安がもやもやと心にたちこめていました。

ヨットに乗船すると、参加者とのあいさつもそこそこに、早速外洋に出て調査開始です。

始まってしまえば、心にあったもやもやなどどこへやら。船は大揺れ、次々と現れる大量の海鳥、圧倒的な景色。もう、やれることをやるだけ。大量の海鳥をどんどん双眼鏡で見て、識別して、目ぼしい種類がいたら猛者たちにも見てもらえるように叫ぶ。毎日毎日、日の出から日の入りまで、がむしゃらに海鳥を見ていました。

最初の5日間ほどは、船酔いがひどく、日が落ちると電池が切れたように横になることしかできませんでした。

船室で死んだように過ごしていると、船室の窓から、猛者たちが夕食を食べながら、その日に見た海鳥について、ああでもない、こうでもない、と熱い議論を交わしているのが聞こえる。

議論に混ざりたい…、しかし気持ち悪くて動けない…、情けなくてちょっと泣きそうになりました。

6日目、ようやく港に停泊して過ごす夜が来ました。揺れずに夕食を美味しく食べられる。それだけでなんと幸せなことか。

海水まみれの服もようやく洗えた。

そして、やっと

猛者たちの議論に加わることができました。
その日見た海鳥について、今まで見た海鳥について、日本の海鳥の状況について…、たくさん話をしました。

楽しい。同時に、楽しいと思っている自分に、正直びっくりしました。
なぜなら、私は意見を言ったり議論したりと言うのは大の苦手だったから。
夫と出会ってからは、常に夫の後ろに隠れるようにしていたし、できれば誰とも話したいとは思っていなかったのです。

今回の旅で、自分の知識や意見を相手に伝える大切さや、面白さを知ることができたように思います。
そして、自分の意見を受け入れ、時に軌道修正してくれる猛者たちとの出会いは、大袈裟に言えば、自分の今後の人生を少し変えてくれたように思います。

新型コロナウイルスが流行し、世界は大きく様変わりしてしまいました。海外へは気軽に行けなくなってしまい、今回の渡航も非常に悩み、実際に行けるかどうかもかなり怪しいものでした。
それでも私は、今回渡航することができて、世界各地から集まった同じ志を持つ猛者達に直接会うことができて、本当によかったと思います。

エンジンはかかった、あとはがむしゃらに走って走って、行けるところまで行くだけです。

暗色型のヘラルドミズナギドリの野外での撮影に世界で初めて成功した舞台、Ua Pou島の沖。
調査が終わったとたんに、驚くほど穏やかな天候になった。

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