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ロックの冒険(18)

僕の名前は「ロック」。イソヒヨドリだよ。
森を目指してハシボソガラスのクロウと旅をすることにしたのさ。

ロックはどうやったらナーシーに気に入られるか、そればっかり考えるようになった。
時々ロックは川で羽を濡らしてきては、丁寧に羽繕いをして自慢の青い翼をピカピカにした。
イソヒヨドリの鳴き声はそれはそれで美しいけど、キビタキの透き通るような鳴き声にはかなわない。
ロックはナーシーの前で歌を披露しようと、一生懸命練習した。
それを見ていたクロウは呆れるばかりだった。
「これが恋の病ってやつかな・・」

秋は深まっていき、外はだいぶ涼しくなってきた。
練習した歌をナーシーに聞かせようと、ロックは青い翼をピカピカにしてナーシーのところへ行った。
♫青い翼広げながら 僕は君を連れて宇宙まで飛んでいきたい。
ナーシーは優しい女性だった。
「ロック、素晴らしいわ。素敵な歌ね。あなたのその青い羽もとっても綺麗よ。」
そう言葉をかけられたロックは有頂天になった。「僕はナーシーのために何をしてあげられるのだろう?」
ロックはナーシーの毛繕いの手伝いをしようかと言ってみた。ナーシーは「お気持ちだけでありがたいわ。だけど自分でできるから大丈夫よ。」
またある日ロックはナーシーのためにエサになる虫を捕まえてきた。
「まぁロック、ありがとう。だけど無理なさらなくて大丈夫なのよ。普通のままのあなたの方がずっと素敵だわ。」

そういう日々が何日か続き、いつものように羽をピカピカにしてロックはナーシーのところへ行った。
ナーシーはその可愛らしい瞳をロックに向けてこう言った。
「ねぇロック、私たちキビタキは渡り鳥なのよ。もうそろそろ南の故郷に帰らなきゃいけないの。」
ロックより大人のナーシーがその時どんな風に思っていたのかは分からない。しかしずっとうつむいている姿からは悲しさがにじみ出ていた。
「だから私はあなたとお別れしないといけない。」
「嫌だよナーシー、もう少しここにいることはできないの?」
「ロック、残念だけどもう行かないといけない。」
「ナーシー、、」ロックは言葉に詰まった。
「僕たちはもう一度会えるかな?きっと会えるよね」」
ナーシーはため息をつきながらこう言った。
「きっと会えるわよ。そして今度会う時は、きつとあなたも立派な青年になってるはずよ。だから、サ・ヨ・ナ・ラ」

ロックを見つめるナーシーの瞳は涙で曇っていた。
ロックはじっと悲しみをこらえていた。
そしてナーシーは南に向かって飛び立って行った。ナーシーがロックの方を振り向くことはなかった。

(次回に続く)

#小説 #冒険小説 #野鳥

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