見出し画像

俺のCHANEL, ロゴはC(5/10)

念願の宅配便第一号が届いた。正確には「あなたの家に、今まさに届けにきている」という電話が入ったのだ。

予告されていた日には全く音沙汰がなかったが、宅配されそうな気配(ってなんだ?)もなかった今日、配達員は当たり前のように現れた。

管理人さんに事情を話しているから彼に預けてもらえないかと聞いてみると「いいよ!そうしよう!」という返答があった。フレキシブルとも言うしテキトーとも言う、フランスのこういう側面には助けられる事もある。とても感じの良い人が担当でラッキーだなと思った。

読みかけの脚本に再び視線を向けて数分後、今度は管理人さんの携帯電話からの着信だった。
「荷物の受け取り、有難うございます!」と先にお礼を言ったら、神妙な面持ち(であろう声色)で配達員にかわるから話してみて、と言う。

税関での課税額がとんでもない金額になっている。全部で368ユーロなんだけど、この仕事を長くやっていて、こんな金額を要求された荷物を見たことがないよ。何かの間違いじゃないかと疑っている。でも僕の立場では、あなたから集金できないなら荷物を持ち帰るしか選択肢がない。持ち帰っても良いけどそうする?その場合、取りに来いって言われてしまう可能性もあるけど。今って帰って来れる?という内容だった。

「夕方の5時半だったら帰れると思うけど、どう?」「オッケー!じゃあ最後もう一回あなたの家にくるよ」

iPhoneを盗み聞きしていたかのように、電話を切って数分したらメールが届いた。
税関でかかった金額はオンラインで支払うように、という知らせだった。この知らせには「21ユーロと18ユーロがそれぞれに課されています」と書いてあり、先ほどの大金とは打って変わって我々に馴染みのある価格帯だ。やはり先ほどの配達員さんは何か勘違いをしたのだろう、とメールの指示に従って支払いを済ませ、配達員にもその旨メッセージを残した。

約束通りに帰宅すると、管理人、配達員が二人でなにやら話している。私が到着するや否や「あなたの支払ったものはまた別で、やっぱり金額は間違ってなかったみたいなんだ」「こんな課税金額、めちゃくちゃだな!」「これは異常だと僕も思う!海外で高い買い物をした人ですら、課税額は20ユーロくらいのもんだよ」「フランスの郵便はほんと最悪だから、君が気の毒だよ。こんなシステムで申し訳ない気持ちだ」

次々と理解ある言葉を投げかけられるものだから、私も調子付いてしまう。

「荷物開けたら全部CHANELの新品バッグにすり替わってるんじゃない?この課税額だったらそんくらいのバリューでしょ?開けて見てみる?」
とか

「一番高い課税額を要求されている3つ目の段ボールなんて主に私の手書きの楽譜が入ってるんだけど、手書きの譜面なんて値段つかないよ。そんな高額課税するほどの価値あるなら私モーツァルトくらい天才ってことになるね?じゃあ逆にVISA5年くらいくれよって感じ!」
とか

気がついたら管理人も配達員も「そうだ!そうだ!可哀想すぎる!こんなのおかしい!税関に電話しようぜ!」みたくなってヒートアップし、結局まずは配達員の組織の大元であるChronoposte(国際郵便)本部へ三人で電話をすることになった。

スピーカー設定にしているのにそれぞれが茶々(ぼやき、及び文句)を入れるものだから、電話口の担当者に「待って、よく聞こえない」と何度も言われる始末。
結果的にChronoposteとしては税関の指示には従うしかなく、異議申し立てをする場合は本人が直接アポを取って、税関窓口にて談判するしかないとのことだった。

ここで引き下がる私ではないわよ!と息巻いたが、同時にこの重い段ボールをまた倉庫へ持ち帰る配達員の作業の無駄や、次はお前が取りに来いと言われるリスクを考えて、仕方なく全額分を支払って本日はお開きとなった。

最後はハイタッチ寸前の団結力で「まあ、美味しいものでも食べて良い夜を過ごしてよ!」なんて言いながら大きく肩で腕をヒラヒラとさせて、さよならの挨拶をした。

そもそもが、最初から不在伝票扱いで自分で取りに来いシステムだったところを、配達員が伝票と物量から察して、良かれと思って自宅まで持ってきてくれていた超幸運パターンだった。

加えて、少々お節介ではあるが、言い方を変えればとても面倒見の良い管理人さんの熱心な連携プレーにも助けられ、最後にはすっかり愉快な気分になった。

怒りは発散することができれば大抵のことは面白くなってくる。面白いってところまで行けたら、あとは全てが人生の彩りとなり、私たちを退屈から解放してくれるのだ。

改めて部屋に戻ってみると、段ボールを開けた痕跡もなく、インボイスを確認した形跡も皆無。ではどうやってこれらが課税対象の商品だと見做したのか。
理由が絞り出せるのならぜひ聞いてみたいところだが、私が失ったものは、毟り取られた368ユーロ、そう、お金だけなのだ。

お金も残念ながら人生における大切なアイテムだが、でも失うものが命や愛情や友情や仕事ではなく、ただのお金なのだから、それは違う形で取り返せば良い。

もしかしたら段ボールからCHANELの新作バッグが何個も出てくるかもしんない....!と淡い期待を抱き、高鳴る心拍数でビートを刻みながら開封した段ボールだったが、CHANELどころかCHANELの偽物すら入っておらず、私が確かに入れた大量の広島東洋カープ関連のバッグがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。

ロゴはXではなく、全てCだった。

むしろ、フランスの税関担当者はモノの価値をよく分かってるのかもしれない。

クライアント(私)にとってCHANEL(的ハイブランド)のバッグよりもカープ坊やポシェット(ゲームセンターでとれる非売品のやつ)の方が価値があるってこと。

それから、人が手書きした譜面が、CHANEL(的ハイブランド)のバッグよりも価値があるってこと。

なんだ..... やるじゃん!

俺のCHANELたち
厳選したつもりが、服がまだまだ多い.....
少し破れていたが、開封された痕跡は全くない



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?