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「音」を文章で書いてみる(3/13)

新千歳空港に向かう列車は、防寒のためか窓が分厚くて、景色も膜を張っていた。そういえば昨日のエスコンフィールドの音響は、不思議な音域の雲みたいだった。
少し立ち昇ったと思ったら均等に粉砕する。とても綺麗に整っている音の粒子が実際の色彩を持って絵画みたく目の前に現れるから、美術館にいるみたいだった。
更にそれがお椀型に膨らんで、パッと散っていく。

面白さの反面、応援が極めて難しい球場だと思う。
独特な時差を持って消えていく応援のラッパや太鼓から点を探って捉えるのは至難の業。言葉も捉えにくい。

探すことが好きな私にとっては新鮮な遊びのようで、ピッチャーとバッターを凝視して応援しながらも、如何に点をつなげるか、BPMを保って応援バットが叩けるかを楽しみながら観戦していた。
狐につままれたように雲隠れする音は、北海道中の湿度を全部集めてきたみたいにモワッとする。
日本ハムファイターズのマスコットでもある狐からインスパイアされたアイデアだろうか。

そんなことを思い出しながら列車に揺られ、活気にあふれた新千歳空港で友人のお誕生日プレゼントを買ってから飛行機に乗り込んだ。機内では、毎日睡魔に脱落していて読み終えてなかった脚本を最後まで読みきり、急いで帰宅してからVISAに向けての最終面接、それから吉田恵輔監督の新作映画(5/17公開)の取材と、必死にスケジュールにしがみついていた。

いくつかプリントアウトし忘れていた書類を相談員の方からご指摘頂き、取材終わりで再びコンビニのネットプリントを利用しに。もう何度目か分からないセブンイレブン。界隈の印刷コーナーでは他の追随を許さぬ成績を残しているのではなかろうか。パリへの渡航はオリンピック印刷部門の選手としてではないので、勘違いのないように。

重過ぎてデータが出せないものは、近所のハンコ屋さんになかなかの金額をお支払いして印刷して頂いた。
作業を終えても終えても終わらない。遠くを見ると気持ちが萎えるので、ひとつひとつ目の前の作業をこなす事だけを考える。AIに芸術なんかやらせようとしないで、こういうヒューマンエラーが起こりやすい作業こそをやらせて欲しいよ。そう思う私もまた、世の職業を一面的にしか見られない愚か者か。

そんなわけで、節約しながら丁寧に準備を始めたものの、デッドラインに向けて徐々に背も腹には代えられない状況になり、ある程度は時間もお金で買いながらここまで辿り着いた。この数年で最もしんどかったかも知れない。一度渡航したら意地でもその国に残りたいと思う人の気持ちが少しわかる。(あら、これ前も書いたっけ?)

あとは警視庁本部に無犯罪証明書を取りに行き、確定申告を終え、いざフランス大使館だ。

この莫大な作業だけで一日が終わりそうなのに、本業の方でもそれなりの作業が発生している。今走っている案件に加えて新しいご依頼に対応しなければならず、「お返事が遅れてしまい、大変申し訳ございません」を連発。呑気な時はとことん呑気に過ごしているのに!

一昔前の会社員だった頃の私なら、この仕事の回せなさに自分を激しく糾弾および鼓舞しただろうが、今や、ある程度「ちゃんと謝って少し猶予をもらう」という大人っぽさに甘んじられるようになった。

仮に、最終的には熱弁や熱意もコンパクトにまとめられたり、一瞬の宣伝のために散ったとしても、とにかく手を抜けないのである。色んな事情で全部を書けないのが取材の宿命だが、聞き手の人に伝えるか伝えないかは、そこからあとの作品の運命がささやかに変わってくると信じている。
手を抜きたきゃ、いくらでも手を抜ける。だって、音楽はもう作ったし、その音楽が良かったら宣伝なんて関係ないっちゃ関係ない。でも、大人っぽさを行使するだけでも相当な勇気と時間を要した私なのだから、これ以上の妥協は不可能なのである。

芸術も仕事も爆発じゃ!

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