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凡人水族園~筆記帳~第一回

 「四十にして惑わず」人生の指針を示す素晴らしい言葉だと思う。実際四十を迎えてしまったビジュアル系バンドマンの今の心境は「どないなんねん。どないすんねん。」四十にして選択を突きつけられる惑いまくりの日々を過ごしている。

 先日、二十数年振りに高校の恩師と再会した。友人を介し連絡を取ってもらい先生の地元の居酒屋で逢うことになった。緑頭ピアスに一瞬ギョッとしたような表情を浮かべた先生。「タク。元気しとったんか。」先生の低い声「タク」という呼び名に一瞬にして学生時代にタイムスリップする。

 入学後、初のテストで学年トップ10に入るもみるみる内に成績が下がり、二年、三年は赤点を築き、ほぼ留年ギリギリで、なんとか卒業という形にしていただいた。それを象徴するかのような卒業アルバムの三年間思い出写真は一年の合宿時センターで白い歯を見せていた僕が卒業を前にした集合写真では下手端で俯いている。人生の不幸を全て背負ったような表情にはダサさしか感じないが、振り返れば当時は当時でよくわからない事に、それなりに本気で悩んでいたんだなと思う。頑張れ白水青年。悩むのは性分で四十になっても悩んでいる。

 欠席、遅刻、早退を繰り返し、学校に来たかと思えば一日中寝ている。そんな僕の生活態度に担任へのバッシングも相当なものだったそうだ。先生が「タク」と僕の名前を覚えてくれていたのも不名誉の賜物だったようである。

 「変わり者のタクが二十年もバンド続けとんのか。四十代はとにかく攻めろ。五十になったら絶対守りに入ってまう。それまでは攻め続けろ。」先生は四十を迎える僕にこんな強い言葉贈ってくれた。

 それにしても先生の僕に対する変わり者という認識。魑魅魍魎が跳梁跋扈するビジュアル系バンドマンの世界で二十年間過ごしてきた僕は、つくづく普通の人間だ。凡人だ。逆に凡人を売り物にしてやろう。エッセイのタイトルにしてやろう。と思い続けてきたが、ここまでズレが生じるものなのかと驚いている。

 ここから十年戦い続ける意志表明、一般社会への退路を断ち切るために前髪をパッツンに揃えてやった。

 ゾクゾクするぜ。初老のパッツン。

 今回はこの辺で。しいくでした。バイバイ。


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