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全人代の見どころ

今回は少し毛色を変えて、中国政治のことを触れたいと思います。いつもなら、中国政治のことについて解説するのは当noteの趣旨とは少し異なるので控えているのですが、やはり今週は触れざるを得ないでしょう。なぜなら今週は中国にとって一年一度の重要な政治イベントがあるからです。そう。全人代と全国政協会議の開催です。そこで、今回は全人代と全国政協会議の(私が知りうる範囲の)基礎知識と、今年の全人代会議、全国政協会議の見どころを少しお話したいと思います。

まず触れておきたいのは、全人代と全国政協の違いについてです。

全人代は日本の国会に当たるもので、中国の最高権力機関、立法機関として位置づけられます。一般的に中国には三権分立は存在せず(というか否定されています)、あらゆる行政司法検察の上に立つ最高権力機関になっています。そして国家主席・副主席、および国務院、最高人民法院、最高人民検察院の各構成員は全人代によって選出されることになっています。全人代の最高責任者は全国人民代表大会常務委員会委員長で、現在は趙楽際さんが委員長になっていますね。

対して、全国政協は全国政治協商会議と呼ばれるいわゆる「政治組織」(あくまでも政治組織)です。全人代のような権力は持ち合わせておらず、あくまで「国に助言する機関」として位置づけられています。まぁ早い話が国に「アドバイスする」だけで、国政に参加する権限はないということですね。日本の参議院よりも弱い権限と言えます。

ただ彼らはこれを、「参政議政」(政治に参与し、国の重要問題について討議すること)という言葉で表現しています。

そしてこれらの両機関の代表(全人代)と委員(全国政協)が一堂に会して国政について討議する会議が全人代会議、全国政協会議なのです。

今年は、全人代は第14期全人代第2回会議、全国政協は第14期全国政協第2回会議となっています。

開催期間ですが、これは年によって結構異なっています。江沢民政権、胡錦濤政権時代では全人代会議の開催期間は大体2週間ぐらい、全国政協の会期も同じぐらいで、全人代会議の閉幕日より2日はやく閉幕するのが普通でした。

ただ近年では「議題のスリム化」が進んだのか、全人代会議・全国政協会議は1週間前後に短縮されています。

今年の開幕日なのですが、3月3日時点で第14期全国政協第2回会議は4日開幕となっています。第14期全人代第2回会議の開幕日について、ここ20年以上はずっと3月5日が開幕日となっていますので、今年の全人代会議の開幕日も3月5日で間違いないはずです(公式でも5日と発表されました=4日朝現在)。今年も例年通りにいくならば全人代会議は5日開幕、11日閉幕の予定、全国政協会議は4日開幕、10日閉幕になるでしょう。

全人代会議期間中の予定ですが、例年決まった日程となっています。

通常通りに行くならば、開幕の5日の昼頃に李強総理の活動報告、2日後ぐらいの7日に王毅外交部長の記者会見、8日に趙楽際全人代常務委委員長の活動報告、張軍最高人民法院院長、応勇最高人民検察院検察長の活動報告、11日に全人代会議の閉幕会議が行われ、そのあと李強総理の記者会見となるでしょう。

われわれチャイナウォッチャーが注目しているのはやはり、5日に開催される李強総理の活動報告、7日(予定)に開催される王毅外交部長の記者会見、そして11日の全人代閉幕会議後に開催される李強総理の記者会見でしょう。

5日に李強総理は総理就任後初めて、単独で全人代会議にて活動報告を発表します。「習近平さんの子飼い」と言われている李強さんですから、これまでの習近平さんの発言から大きく逸脱したことは言わないでしょうし、活動報告を行う時間も、昨年の李克強前総理(故人)が行った1時間ちょっとに収まると予想されています。

ただそれでも見るべき最大の注目点があります。それは今年の国内総生産(GDP)の目標を発表するのか、発表するなら何%に設定するのかでしょう。

コロナ直後の2020年の全人代で李克強さんはGDPの目標を発表しないという異例の活動報告を行いました。その年以外は毎年何らかの形でその年のGDPの目標を発表しています。今年は特に経済が厳しいことが予測されますから、どうするか。

7日の外相記者会見ではやはり、不可解な形で姿を消した秦剛前外交部長の去就に質問が集中することが予測されます。ただ、このような記者会見については国内メディア記者と国外メディア記者で、質問者についてある一定の調整をかけてくる他、中国政府に友好的な質問しか飛んでこない可能性もありますから、肩透かしになる可能性も十分ありますね。

気概ある記者がちゃんとそのあたり突っ込んで質問してくることを期待しています。

このほかにも昨年紛糾した福島原発の処理水問題についても何らかのスタンスを示す可能性があります。ただ答えるにしても、王毅部長はかなり厳しい態度で臨む可能性の方が高いでしょう。

最後は閉幕会議直後に行われる李強総理の記者会見です。仮に活動報告でGDPの目標を示さなかったならば、記者からはそのあたりの質問が飛ぶでしょうし、示したとしても「達成可能なのかどうか」といった質問は大いに予想されます。

一般的に内政に関する質問が多く出るとされる総理の記者会見ですが、私自身は、日本人にとっての注目点は福島の処理水問題かなと思っています。外相記者会見でも出て、総理の記者会見でも出たならば、中国政府はこの処理水問題について相当懸念しているとも言えますし、逆にどちらも質問がなかったならば、中国政府はこの件について日本とは穏便に済ませようと考えているともいえるのではないでしょうか。

どちらにせよ、今週は中国では重要な政治日程が目白押しです。皆さんも注目してみるのはいかがでしょうか。

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