使命感を持つ強さ

「昨日、新しい抗がん剤治療に入ること、再び入院するため少しの間チームから離れることを、チームスタッフやチームメイトに伝えてきました」

挨拶を済ませると、彼は真っ先にこういった。

僕はいきなり強烈なパンチを食らったような衝撃を覚え、一瞬、耳を疑った。

もちろん、彼がガンという大病と戦いながら、国内最高峰のフットサルリーグで、フットサル選手を続けているということは知っていた。

だが、取材申請にも快く応じてくれたし、黒く日に焼けた姿は、アスリートそのものだったし、表情も明るかった。だから、まさか、再び抗がん剤治療に入る重要な時期だったとは、思ってもいなかった。

改めて思い返して見ると、新しい抗がん剤の治療に入るということは、病状に変化があり、治療が必要になったからだったのだろう。そんな大切な時期に、取材に応じてくれたことには、感謝の念しか浮かばない。

迷いの末に

僕が久光重貴という人間に興味をもったのは、最近よく交流させてもらっている元フットサル日本代表キャプテンの北原亘氏からの紹介がきっかけだった。

北原氏からは、

「彼のような人間がもっともっと、評価されるべき」

と熱心に勧められた。

北原氏からは、ピッチを降りた後に嘔吐する久光重貴をみて、そこまでしてピッチに立ちつづけようとする姿に強さを覚えたという。

先述の通り、僕は久光重貴という存在も、その崇高な活動もなんとなくは知っていたが、命と向き合っている人間に対して、単なる興味本位で取材を申し込む事など出来ないという心理が働いてか、取材する機会はそれまで一度もなかった。

北原氏に紹介された日の夜、久光重貴という人物を調べていくと、ガンの状況や、試合出場の状況、チーム帯同状況、彼の想いなどがかなりはっきりと見えてきた。いま生きていること自体が奇跡的なほど、彼の病は強敵だということもわかり、彼への興味は、次第に大きな迷いに変わっていった。

「ガンになった経験もない僕が、軽々しく彼の人生を書いていいのだろうか」

こう思った。

久光の前に取材したアスリートの話

実は、久光重貴の取材の直前に、取材して記事にさせてもらった人間がいる。ヴァンフォーレ甲府などで活躍した宇留野純という元Jリーガーだ。

実は彼も若い頃、ガンを患っていたが、摘出手術を受け、克服しながらJリーガーになるという夢を叶えたすごい男だ。

奇しくも、2人連続でガンと闘うアスリートを取材させてもらうことになったのも、偶然ではなく、僕の使命なんだろうと思いはじめ、結局、久光重貴の取材させて頂くことを決意した。

取材中、彼らと対面し話をしながら触れさせてもらった感情がたくさんある。中でも、強靭なメンタリティの裏に垣間見えた「弱さ」は、とにかく、印象的だった。

考えてみれば当たり前のことだが、そんな当たり前のことを、本当の意味で感じられたのは、とても大きな経験だった。

2人とも、それを「恐怖」「怖い」といった言葉で表現していたが、彼らの本音を直接聞くと、改めて人間の命の尊さを感じざるを得ない。

僕は、その後、彼らの記事の反響の大きさに、病と戦いながらアスリートであり続けるその姿自体に大きな価値があることを、一段と思い知らされた。

「僕が、アスリートであり続けることができれば、今後、同じような病状の人が、競技を続けるという選択肢を持つことができるようになる」

こう口にしていた久光のチカラ強い目が今でも思い浮かぶ。彼は自分がアスリートとして生き続けることの意味を理解している。それが自分に課された使命だということがわかっているのだ。

取材の後、しばらくは薬の副作用で辛い状況だったようだが、SNSを見る限り、久光は現在、チーム活動にも帯同している様子がうかがえる。

また、現在は、サポーター有志による支援活動や、以前所属していた東京ヴェルディによる支援など、久光選手への支援の輪は広がりを見せている。

https://twitter.com/SBFC_HISA/status/1057972015401857024/photo/1

https://www.verdy.co.jp/news/1581

今の状況を乗り越えて、近い将来、彼が再び、グリーンのユニフォームを着て、Fリーグのピッチに立つことが楽しみで仕方ない。

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瀬川 泰祐

美しきアスリートたちの人生模様

東洋経済オンラインやOCEANS、AlpenGroupMagazine、キングギア などの媒体に寄稿しているスポーツライター、瀬川泰祐が取材活動や、日々の執筆活動の中で感じたアスリートたちの人生
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