観戦者の善意がもたらすもの

試合前のファンサービスで、スタンドにボールを投げてプレゼントするシーンは、よくスポーツ観戦する人にとっては、お馴染みの光景だ。

実は、数年前に、私の中では、ずっと忘れられないほど不愉快な光景を観てしまったことがある。

当時J1に所属していた大宮アルディージャのホームゲームに観戦に行った時のことだった。私が座るメインスタンド側では、当時から主力選手として活躍していた金澤慎選手が、試合前に、ファンサービスとして、オレンジ色のミニボールをスタンドに投げていた。

その金澤選手が、スタンドでボールを欲しがる少年に気づき、その少年をめがけてボールを投げたところ、隣でペア観戦していた男女の男性が、少年の手に収まりかけたと同時に、少年の後方から手を出した。

一つのボールに大小2つの手。このあと、驚くことに、その大人の男は握力に任せて、少年からボールを奪い取った。

金澤選手が、その子に「ごめん!」と言って謝っていたのが唯一の救いだが、観戦を楽しもうとしていた私は、怒りすら感じるほどの出来事だったため、出鼻をくじかれた想いだった。そして、その後、どんな劇的な試合展開でも興ざめしてしまったことを覚えている。

選手が客席に投げたプレゼントを、子供を押しのけて大人が奪い取るような光景は、観ている誰にとっても、決して気持ちの良いものではない。

もしも、あの時、大人が、近くの子に手渡すシーンが見られたら、心が和んだはずじゃないか。

エンターテイメント空間は、非日常的でワクワクするもの。

だからこそ、運営側はもちろん、観戦する人たち皆の善意が、さらに周囲に善意を与えて行くような、そんな空間になってほしいと願う。

観戦する人たちみんなの善意が、価値ある空間を作り、スポーツ観戦体験をさらに価値あるものにするのだ。

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瀬川 泰祐

ライター。東洋経済オンラインやITメディアビジネスオンライン、OCEANS、キングギアなどで執筆中。スポーツ・アスリート交流会も主催する。最近の取材テーマは「Beyond Sports」。スポーツと社会の接点からスポーツの価値を探っている。