瀬川深 segawashin

小説家/小児科医/研究者。http://segawashin.com/

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最近の記事

宮沢賢治記念館の感想と、宮沢賢治の言葉について

(ご無沙汰しておりましたが、過去に書いた文章の再掲などやりながら、Noteでのアクティビティを上げていこうと思います。宜しくお願いいたします。こちらは9年前にFacebookに書いていたもの。) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  一昨日のこと、せっかく花巻まで足を伸ばしたので宮沢賢治記念館を見てきたんだけど、これが予想以上に得るところ多くて良かった。唯一にして最高の観光資源であろう記念館行きのバスが休日4便なのも地方交通の現状を体感でき

    • 「体調が悪いので休みます」

       安倍晋三首相が辞任することになった。体調に問題があるとの理由だそうで、色々思うところはあるが、前回の政権を覚えている人ならば「またか」との感想を抱かないのはちょっと難しいのではあるまいか。前回は衆院選で大敗し、引責辞任するのかと思いきや一ヶ月も間を置いてから唐突な辞任を表明したという妙な経緯があり、しかしそれはいつのまにか「持病の悪化にて」ということになっていた。なんだか騙されたような気分になるが、今や当人の中でもそのようなことになっているようだ。  ただし今回は、最初か

      • PCRはなにをわれわれにもたらしてくれるのだろうか?

         新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19と略記)は現在なお全世界で猖獗を極めており、一部の国や地域を除いてなお収束する様子を見せていない。残念なことに、本邦でも。その一日も早い終息を祈るのは言うまでもないことだが、本稿ではCOVID-19をめぐるひとつの奇妙な争点について現在思うことを書いておこうと思う。  PCRについてである。  現在、新型コロナウイルスを検出する有力な手段として全世界で行われている手法だが、なぜか本邦では「過剰なPCRをすべきではない」という論が

        • 【小説】戦争のしらせ(後編)

          (前編 https://note.com/segawashin/n/n65fae6d14beb からの続きです)

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        宮沢賢治記念館の感想と、宮沢賢治の言葉について

          【小説】戦争のしらせ(前編)

          翌朝の新聞は予定通りに南(なん)溟(めい)での開戦を告げていた。大統領は途中までを流し読み、顔をしかめた。引用されていた勅令が二度にわたって誤植されていたからである。大統領は即座に秘書官を呼んでこのようなことがないようにと厳命し、なんとなればこれは人の生死に関わることなのだからな、と付け加えた。ただちに対処いたします、秘書官はかしこまったのちに告げた。閣下、本日はお忙しくなるかと存じます。なにしろこのような偉大な一歩の記された日ですから。はたしてそのようになった。まずは電話が

          【小説】戦争のしらせ(前編)

          【小説】五月、隣人と

           11年前、2009年の春に書き、私家版で少部数配布した小品ですが、昨今の事情に鑑みて公開します。執筆の経緯などは最後に記してあります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 五月、隣人と  五月にはあるまじき寒さのためなのだという噂を聞いた。うんざりするほど人が多いからなのだと言う噂を聞いた。いつまで経っても衛生観念が浸透していかないからなのだという噂を聞いた。乾燥のためなのだという噂を聞いた。自宅近くで乗り込んだタクシーの運転手は得々

          【小説】五月、隣人と

          愛知トリエンナーレと「表現の不自由展」に行ってきた

           愛知トリエンナーレ内の展示企画「表現の不自由展」に行ってきた。  当初この企画のことを知ったとき、「これは大変なバッシングに晒されるだろうな」と思ったものだが、事実その通りになった。「早晩中止になるかも知れないから見に行くなら今だ」と思い定め、無理矢理予定を半日空けて名古屋まで出向いたが、その夜、脅迫に晒されてこの展示の中止が決まったことを知って予感は的中した。  なんというか、膝から崩れるような落胆を感じはしたが、驚きはなかったし、奇妙なことに憤る感情もなかった。それは、

          愛知トリエンナーレと「表現の不自由展」に行ってきた

          その表現は誰かに労力をアウトソーシングしていないだろうか?

           幼児向けの乗り物の絵本に20ページ中6ページにわたって自衛隊の車両が掲載されていることが問題視され、当該書籍の増刷が中止されるという事件があった。 https://this.kiji.is/526697181804217441  そもそもの前提として出版社にはこういった書籍を出版する自由があり、消費者には抗議する自由がある。結果として増刷の中止という判断を出版社側が下すのもまた自由……というかこれは経営の裁量の範囲であろうから、実のところ、この件について特に付け加えることは

          その表現は誰かに労力をアウトソーシングしていないだろうか?