画像8

アルフレッド・ミーレクのロシアン・アコーディオン博物館

奏でては耳を楽しませ、飾っては目を楽しませ。楽器は良いものですね。

ロシアの楽器といえば、何を想像されますか?
やはり、バラライカでしょう。テルミンを連想された方は、ちょっとマニアック過ぎます。

もう1つ、ロシアの文化や感性に深く根付いている楽器は、アコーディオン。日本語では、手風琴(てふうきん)という、響きも字面も優雅な呼び方があります。軽快なミニアコーディオンから、大型で重厚な«バヤン»まで。コミカルな演奏から荘厳なクラシック演奏まで。ロシアのアコーディオンは実に幅広く活躍します。

今回ご紹介する博物館は、「アルフレッド・ミーレクの、ロシア・アコーディオン博物館」。

駅を降りて、探すこと40分。歩き回った挙句、博物館を発見した場所は、駅から徒歩3分の場所でした。
筆者の数々のレポートの影には、方向音痴のこんな苦労があることに思いを馳せて頂ければ幸いです。

芸術学者、アルフレッド・ミーレク博士(1922~2009)。音楽と楽器の研究者であった彼は1961年、別荘の一角で、収集したアコーディオンのコレクションを公開し始めます。これが、博物館の始まり。

(上)開館当時、博物館があった別荘。
(下)1963年、館内のミーレク氏。

時を経て2000年、モスクワ市の協力を得て、現在の建物に博物館がオープン。ミーレク博士は55年をかけて収集した貴重なコレクションを寄贈します。世界にも稀な、アコーディオン専門の博物館なのです。

古今の様々なアコーディオンは、造りも意匠も千差万別。

ミーレク博士の説によると、1780年にペテルブルグのチェコ人オルガン技師・キルシュニクが開発したのが、ロシアにおけるアコーディオンの原型。これは、博士が再現したレプリカ。

20世紀初頭の、アコーディオン職人の仕事場を再現。

製作途中。

19世紀末から20世紀初め頃のアコーディオン職人たち。上段右端のじいさんが、何とも言えず良い佇まいです。

職人が自作の楽器に押した刻印。職人が亡くなると、共に棺に入れるか壊すことが多かったので、現存する品は大変貴重です。

製作に用いられた工具。工程の複雑さがうかがえます。

1862年製、作者はサラトフのボリーソフ。地味ながら緻密なデザインが目を引きます。

19世紀のロシアのアコーディオンは、製造された地域によって、独自色が強いのが特徴。その地域ゆかりの装飾が施されたのは勿論、構造や音色にも違いがあり、これらは「地域ガルモニカ」と呼ばれます。(ガルモニカは、露語でアコーディオンの意)

特にトゥーラは、当時から現在に至るまで、アコーディオンやバヤン(後述)の製造が盛んな街として有名です。

19世紀末からは、ドイツ・フランス・オーストリアなどの技術も取り入れた、より複雑で汎用性の高いアコーディオンが台頭するようになり、「地域ガルモニカ」は衰退します。

19世紀末~20世紀初頭、アコーディオンを製作した«キセリョフ兄弟»工房の看板。

キセリョフ兄弟工房の様子。

キセリョフ工房の作品。1910年。

アコーディオンは1900年のパリ万博にも出品されました。ケースも出品当時のもの。

3点とも1900~1903年の作品。

変わり種はこちらの«チェレパシュカ»コレクション。チェレパシュカとは子亀という意味で、ロシア独特の、ミニアコーディオンを指します。

靴?いいえ、アコーディオンです。1935年製、作者はA.ジャリャレッジーノフ。その左の作品は1900年製、右は1906年製。

博物館では、定期的にアコーディオンの演奏会が催されます。ミニアコーディオンも演奏されますが、現在ではもう生産されていないため、使用するのは本物のアンティーク。

このパネルの人物は、ピョートル・エメリヤノフ(1900年頃)。元は靴職人でしたが、独学でアコーディオンを学び、ミニアコーディオン演奏の大家となります。パリ、ロンドン、ベルリン、ブリュッセル、イスタンブールで海外公演も。
手許のアコーディオンを見て頂くと、その小ささが分かります。

こんな小さいアコーディオンが登場する一方で、1907年、ロシアで独自の進化を遂げた«バヤン»が誕生します。

バヤンは大型で、独特なボタン式。幅広い音域が特徴です。写真はソ連時代後期の作品。

パイプオルガンと見紛う、いや、聴き紛う重厚な音色と幅広い音域は、繊細さと迫力を併せ持つダイナミックな魅力。

バヤン奏者・アレクサンドル・ドミトリエフの演奏による、バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」。ぜひお聴きあれ。 

宝石の装飾が施されている、珍しいバヤン。1930年。

チェレパシュカからバヤンまで、大小様々なアコーディオンの音色は、ロシア人にとって癒しの音色。

第二次大戦中、ソ連兵が戦場に持参したアコーディオン。
1930年代に生産されたこのタイプのアコーディオンは、前線で最も多く見られた楽器だったとか。演奏ができる兵は重宝されたと云います。

19世紀イギリス発祥のコンサーティーナ。いずれもロシアで製作されたもの。六角形が可愛らしい。

1940年代末頃のバヤン。しっかりソ連国章入り。

1968年、サラトフ製のアコーディオン。鈴が2個付いている、変わったタイプ。落ち着いた色の調和が素敵です。

アレクセイ・ヴェネツィアーノフ、「アコーディオンを持つ少女」(1840年)が飾られていました。さすがに複製です。

アコーディオンに限らず、楽器を意匠やデザインという視点から見るのも、楽しいものですね。

いつもロシア人の身近にあった楽器、アコーディオンの魅力を堪能できる、充実の展示です。

博物館情報:  http://www.museum.ru/M2759

https://scriabinmuseum.ru/pages/mireka

TEL:251-67-30
所在地:Moscow, The 2nd Tverskaya Yamskaya, 18(2階)
アクセス:地下鉄Mayakovskaya駅から徒歩3分
開館時間:
水 10:00-18:00
木   10:00-21:00
金土日 10:00-17:00
休館日:月曜日、火曜日、および月の最終金曜日
入場料:一般50ルーブル、子供20ルーブル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?