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ギヤ・カンチェリ

 10月2日、ソ連・グルジアの作曲家ギヤ・カンチェリが、トビリシで死去した。享年84。旧ソ連圏ではなにより、数多くの映画に楽曲を提供したことで知られる、ソ連映画史のビッグネームだ。

 ギヤ・カンチェリが楽曲を提供した映画の中で最も名高いのは、1977年の「ミミノー」、そして日本公開もされコアなファンの多い「不思議惑星キンザ・ザ」(1986)であろう。いずれも、ソ連映画界きってのヒットメーカー、ゲオルギー・ダネリア監督作品である。

不思議惑星キンザ・ザ

ギヤ・カンチェリ作曲、キンザ・ザのメインテーマ。この不思議な物悲しさと脱力感が多くの人を魅了し続けている。
そして、惑星プリュクで大好評を得たこの奇天烈ミュージック。デュエットしたい曲ランキングの上位常連(於キンザ・ザ星雲、筆者調べ)。なぜカラオケで実装されないのか不思議である。

 ここで一点、注意したいのは、日本では「不思議惑星キンザ・ザ」を「カルト映画」と呼称する事が多いが、これは同作の旧ソ連圏における位置付けを正確に表したものではない。「カルト映画」、ないし「カルトムービー」という語を調べれば、その意味は、

「一部の愛好家からは、熱狂的な支持を受ける映画」(デジタル大辞泉)
「広く大衆受けすることはないが,特定の人々が熱狂的に支持するマニアックな映画」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

とある。ロシア語でも「культовый фильм」という語はあり、文字通り英訳すれば「сult film」だが(cult=культ)、ロシア語での用法は、「高く評価された映画、広く認知された映画、或いはエポックメイキングな映画」に近い。カルト的、とは用法が異なるので、注意が必要である。「不思議惑星キンザ・ザ」は1987年の公開後、1年間で1570万人以上の観客動員を記録しており、動員数では同年の総合14位、国産映画では第4位。大ヒットには程遠いが、知名度はトップクラスだ。

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「映画鑑賞者の友」(Спутник кинозрителя)87年5月号の特集記事より。記念撮影的な一枚だろうか?

ミミノー

 「ミミノー」(国内公開は1978年)の主人公は、グルジアの奥地、山岳地帯でヘリコプターパイロットを務める男、通称・ミミノー。朴訥で正直で直情的な彼はとある切欠で大型旅客機の長距離航路に就きたいと思いつめ、遠くモスクワに向かう。そこで偶然出会ったアルメニア人のトラック運転手・ルベンとの珍道中。慣れぬ大都会に苦労し、追い求める夢と、抑えがたい望郷の想いが交錯する、抒情的なコメディである。本作は大ヒットとなり、主演のワフタング・キカビッゼは本作で一躍全国区の知名度を得た。

(0:22から)メインテーマの「チット・グヴリット」(グルジア語で小鳥の意で、歌を人生の友とする内容、らしい)も、ギヤ・カンチェリの作曲。歌手でもあるキカビッゼがグルジア語で歌う。キカビッゼはロシア語の曲も多く歌い、強いグルジア訛りと相まって独特の魅力を放った。

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主演のキカビッゼ(右)と、ルベン役のフルンジク・ムクルトチャン。

 名優フルンジク・ムクルトチャンもまた、数々の出演作がありながら、最も彼を有名にしたのは「ミミノー」に他ならない。余談だが、彼の名字はキリル文字表記だとМкртчянとなり、子音が5つ連続するという、露語では滅多にお目にかかれない文字列となる。

 ゲオルギー・ダネリアも、今年の4月に世を去った。2019年は2人のグルジア人の巨匠たちとの別れの年になった。

 ギヤ・カンチェリの映画音楽は、ソ連の傑作映画に欠かせないペーソスと優しいユーモアをたたえたメロディーとなって、折に触れて、ロシア人の脳裏によぎるのである。

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ロシアやソ連の文化とか生活とかについて、あれこれ。筆者はソ連生まれロシア在住のぐーたら翻訳家。ツイッターhttps://twitter.com/isiken78 ではロシアもソ連も関係なく、基本的にロクなことを書かない。

なにソ連?おいしいの?

主にソ連、時々ロシアの生活とかデザインとか博物館とか、そんな話題をお届けしたりしなかったり。
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