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ロンドン・ジャズ・フェスティバル 2018 +エズラ・コレクティヴ Live at KOKO LONDON

2018年11月16日〜25日に開催されたロンドン・ジャズ・フェスティバルを取材した記事が2019年3月14日発売の「Jazz Life誌」4月号に掲載されています。世界最大級規模のジャズフェスティバルを外側と内側から取材した内容です。この記事の主旨はいまロンドンで何が起きているか、どのような背景によってロンドン・ジャズ・シーンが活性化してきたか現地でのフェス視察と主催者・関係者インタビューを通して探るものです。こちらでは文字数制限と編集方針により漏れた文章を加筆・再編集して掲載します。

ロンドンはジャズが盛んということを知っていますか?

今年で26回を迎えるロンドン・ジャズ・フェスティバルは、10日間で350プログラムがおこなわれる世界でも最大規模のジャズフェスティバルである。

国内ミュージシャンに多くのチャンスを与える一方、国外のミュージシャンのコラボも目玉になっている。今年は、ザラ・マクファーレン、アンソニー・ストロング、リサ・スタンスフィールドなどの英国シンガー勢が、リー・デラリア(アメリカ)、マリーザ(モザンビーク)、ライラ・ビアリ(カナダ)、ディヴァ・マホール(NY)、アラン・ハリス(NY)等の海外アーティストと共に、42人編成のオーケストラを従えての壮大なこけら落としから幕を上げた。巨匠アーチー・シェップのアート・ソングス&スピリチュアルは、アミナ・クラウディン・メイヤーズとハミッド・ドレイクをバンドメンバーに、カリーン・アンダーソンがUKシンガー達のスペシャルグループを組むというプログラムで、この2つが今回のフェスでの英国と海外メジャーアーティストの交流の象徴と言えそうだ。その他にもボビー・マクファーリンがクリーヴランド・ワトキス、ナタリー・ウィリアムス、エマ・スミスなどのUKシンガーたちで編成した12人編成のクワイアなど、様々な形での国内外ミュージシャンの交流が行われた。

ロンドン・ジャズ・フェスティバルはもともとカムデンタウンの音楽イベント「カムデン・ジャズ・ウィーク」から始まり、1992年にロンドンのコンサートホールとジャズクラブなど街全体の既存の施設を利用して行われる都市型フェスとして始まった。ホールコンサートでは、多民族共存のコラボレーションと国内外アーティストの交流が目立つ。フェスを主催するSERIOUSの目利きで組まれたプログラムには、アブドゥル・イブラヒム+エカヤ+キーヨン・ハロルドや、ビル・ローレンス+WDRビッグバンド+ボブ・ミンツァーなどがあった。

11月末は、他の国々ではあまりフェスがおこなわれていないタイミングでもあり、よくこれだけ集まったなと思うほど、国外の有名アーティストが毎晩出演する。今年は日本公演を終えたリチャード・ボナ、シャイ・マエストロがその足でロンドン入りしている。

多彩かつ多様なプログラム構成を誇る同フェスは、海外の若手にも目を向けている。バービカンセンターの無料ステージでは数日に渡りイタリアの新鋭アーティストと、ノルウェーでいま最も熱いアーティストを紹介するプログラムが組まれていた。最近発足したばかりの日英ジャズミュージシャンの交流を目的とした非営利組織 Yokohama Calling は、今年、井上銘をフェスに招へい。井上はジェイソン・リベロ(key)を含む英国ミュージシャンたちと共に、ロニー・スコット・ジャズクラブでのマイク・スターン公演オープニングアクト、単独ギグ、ワークショップをおこなった。その他にもシンガポールから南アフリカまで様々なミュージシャンが出演していた。

アシッド・ジャズの雄ジェイムス・テイラー(org)・カルテットはオーケストラとの新作「サウンドトラック・フロム・エレクトリック・ブラック」の初演。「まだやってたの!?」と正直私も思った(失礼)。しかし自分にはこれがとても良かった。隣に座っていたボランティアの英国人音楽ライターの方は、「これは昔の音楽でそれを懐かしむ人が喜んでいる印象だな」と私より年上なのに客観的意見を述べていて、反論はできなかった。

オマール・ソーサ&ジリアン・カニサーレス、アルフレッド・ロドリゲス、アルトゥーロ・オファリルのキューバ人アーティスト三本立てでは才媛ジリアンにスタンディング・オベーションがやまなかった。

日本でも人気のアルフレッド・ロドリゲスは5月にブルーノート東京に来日公演が決定している。

元バッドプラスのイーサン・アイヴァーソンはキングスパレスでのスペシャルレジデンシーで英国音楽への情熱を探求、ヘンリー・パーセル、ウィリアム・バードなど幅広いレンジから受けた刺激を新しい音楽にクリエイトしていた。シカゴ出身のマカヤ・マクレイヴンと、ロンドンのアフリカン系ジャズの期待の新人サックス奏者ヌビア・ガルシアのダブルヘッドライナーはシカゴとロンドンの注目の新人を掛け合わせるスリリングな内容が関心を集めていた。

その他にもスタンリー・クラーク&ヘッドハンターズ、ユン・スン・ナ、マイラ・メルフォード、デイヴ・ダグラス、ジェイミー・ブランチなど多彩な顔ぶれが見られ、メロディ・ガルドー、マデリン・ペルー、マイラ・アンドラーデ等の歌姫たちもフェスに華を添えた。

アシッドジャズやUKジャズファンクの流れがありつつも、ロック、パンク、エレクトロニカ等の巨大さからロンドンのジャズ・シティとしてのイメージは相対的に低い。しかしこの10日間あちこちのホールやクラブはソールドアウトになる。観客が曲をよく知っていたり、前衛的なグルーヴにも熱狂するなど全体としてジャズへのリスペクトをとても感じた。また移民が自分たちのルーツと重ね合わせてルーツミュージックとミックスされたジャズを楽しんでいるのも肌で感じ取れた。アビシャイ・コーエン、シャイ・マエストロ、マーク・ジュリアナの再結成トリオや、元ポーティスヘッドのポリー・ギボンズがジャズスタンダードとオリジナルで臨むステージなど見逃した公演もたくさんあった。オプチン氏は「ロンドンはNYに負けない規模の多彩なジャズの街。もちろん音楽全体を好きなのだけれど。ロンドンの人々はジャズがとても好きなのよ」と話してくれた。NYとヨーロッパのハブとなるロンドンでのジャズシーンは、私見ではむしろ東京のシーンやファンの在り方に近いという印象を受けた。

しかし、ロンドン・ジャズの大きな特長は移民・マイノリティの存在感。フェミ・コレオソ、シャバカ・ハッチングスなど体制に反発する若いミュージシャンが後述するトゥモローズ・ウォリアーズのサポートで頭角を現してきたというのがロンドン・ジャズ・シーンの現状を象徴している。カーボベルデ出身パリ在住のマイラ・アンドラーデが、移民ばかり詰めかけた会場で、ライヴも大詰めになったところで曲紹介と共に「この曲を移民に捧げます」と言うと、大きく歓声が上がった。ミックスカルチャーの力強さと、会場にいるオーディエンスの人たち、移民やその子孫たちひとりひとりの人生と思いが、音楽でひとつになって高揚しているようで、この渦巻く大きなエネルギーはニューヨークよりも強いと肌で感じた。

育成プログラムが生みだした次世代ミュージシャン達

フェスをオーガナイズするのは、ロンドンのプロモーター「SERIOUS」。今回、ブッキング・ディレクターの一人ペリン・オプチン氏に話を聞くことができた(下写真がSERIOUSオフィスの入っている建物)。6人の精鋭ディレクターを中心にロンドン外のパートナーシップ団体の力も借りることで年間で600〜800のイベントを制作しているという。

SERIOUSには“タレント・ディベロップメント・スキーム”という無料の育成プログラムがある。応募のあった若者から選抜された数十人は一週間の集中プログラムのなかで、ミュージシャンとしての稼ぎ方、リーダーのやり方、レコーディングに必要な実務などの講義を受ける。(以下割愛します)

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ここからがいいところなのに、ご紹介できなくてすみません。この後、記事はSERIOUSの音楽シーンへの様々な貢献と、ロンドンのミュージシャン育成支援団体トゥモローズ・ウォリアーズ代表ギャリー・クロスビー氏(下写真) のインタビューと続くのですが、Jazz Life誌に掲載している記事を転載するのは憚られるので誌面でご確認ください。Jazz Life誌には私が撮ったリチャード・ボナ、アントニオ・サンチェス、ジェフ・ワッツ・トリオ feat. カート・ローゼンウィンケルの写真も掲載されています。写真はすべてSERIOUS経由で取材として撮影許可を頂いた上で撮影しています。

今後はnote投稿を目的としたオリジナル記事も投稿していきたいと思います。

写真: 隣の女性はヴィオラ奏者ジュリアさん。トゥモローズ・ウォリアーズは、クラシック奏者でジャズをやりたい生徒とジャズミュージシャンを目指す生徒を組み合わせての指導、プロジェクト、イベントなどもやっているそうです。

エズラ・コレクティヴ Live at KOKO LONDON

ロンドン・ジャズ・フェスティバル同時期にエズラ・コレクティヴのロンドンでのライヴがあって、実はこちらが個人的にはメインだった。興味深いことにこの公演はロンドン・ジャズ・フェスティバルの会期まっただ中なのに、フェスには組み込まれていなかった。

メンバーはフェミ・コレオソ(ds)、TJ・コレオソ(b)、ジョー・アーモン・ジョーンズ(key)、ディラン・ジョーンズ(tp)、ジェームス・モリソン(sax)。上述のトゥモローズ・ウォリアーズ出身者たち。フェミはジョルジャ・スミスのドラマーとして昨年のサマーソニックに来日している。

KOKO LONDONは1500人収容のコンサートホールで、今回のチケットはしばらく前からソールドアウトしていた。ライヴはこれまでのEPからの曲中心で2時間弱。エズラには良い意味でコントロールの効いていない豪快さとパワー、グルーヴがあり、それはドラマーのフェミのプレイスタイルに拠るところが大きい。エズラはまずフェミとTJの兄弟に目が行くバンドで、そこにジョー・アーモン・ジョーンズのキーボードが現代ロンドンらしい洗練を、ディラン・ジョーンズとジェームス・モリソンの2管がジャズの現在を表現する。当日の映像が公開されているので、添付しておいた。私はブッキングの交渉をしていたため、今回の公演は観なければならないと思って臨んだのだが、観て良かった。野外公演やフェスティバル向きのバンドなので、今後日本でもフェス中心に大きく注目を浴びるようになるだろう。

終演は12時近かったと記憶している。カムデンタウンに宿泊していたので、歩いて帰ることができた。

エズラ・コレクティヴの録音は、日本では現在、EPをコンパイルした独自企画盤が発売されている。

4月26日に自身のレーベルより初のフルアルバム"You Can’t Steal My Joy"をリリースする。

ジャイルズ・ピーターソンに大きく採り上げられたことから、彼のレーベルからリリースするのかと思っていたが、自身のレーベルを立ち上げてのリリースとなった。アルファ・ミストも同様で、ロンドンの突っ張ったミュージシャンは独立独歩の意志が強い。これはトゥモローズ・ウォリアーズ代表のギャリー・クロスビー氏も述べていたことで、「今の若いミュージシャンはセルフ・マネージメントできる頭の良い子たちが多い。一昔前のミュージシャンはメジャーレーベルと契約してデビューしたものの、契約を切られるとどうしていいかわからなくなって、そのうち名前を聞かなくなってしまう者が多かった。今の子たちは音楽制作からグッズ販売まで自分たちでやろうとしている」デジタル配信をBELIEVEのような大手に委託してワールドワイドで管理し、フィジカルではCDよりもアナログやグッズに傾注するのが特長だ。日本ではまた状況が少し違うので、もし日本で大きくプロモーションして展開していくなら日本向けのアプローチをしていく必要は感じる。

ロンドン・ジャズ・シーンその他の情報

コメット・イズ・カミング The Comet is coming "Trust in the Lifeforce of the Deep Mystery" 3/15発売。サンズ・オブ・ケメットのシャバカ・ハッチングス、シンセサイザーのダナログ、ドラムのベータマックスによって2013年に結成されたトリオ。

アルファ・ミスト 新作"Structuralism"を4/26にリリース。新作より1曲配信中。

カマール・ウィリアムス 来日公演

ジョー・アーモン・ジョーンズ 来日公演

おまけ カムデンタウン写真集

ついでに、私が滞在していたカムデンタウンの写真を掲載します。

イギリスといえば紅茶と思いますが、コーヒーを好きな人は多いです。私はコーヒーを探してあちこち彷徨いました。カムデンタウンで最も美味しいカフェはここです↓

ぜひ、試してください!


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