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性自認至上主義と闘う世界の女性たち

男性の性的権利 対 女性の性に基づいた権利

Men‘s sexual rights versus women’s sex-based rights


Sheila Jeffreys 


これは、2021年5月15日、*WDI(Women’s Declaration International )で、シーラ・ジェフリーズさんによって行われたスピーチ原稿です。3回に分けて投稿します。*WDIはSEXに基づく女性の権利を守ることを目的とする国際女性組織
第1回 *性的権利*男性のセックスの権利*性革命*変態性欲の解放

第2回 *ペドフィリア*変態の増加*ブレスプレイと首絞め*おむつフェ
     チ*トランスベスタイトの権利運動
第3回 *女性の生物学的性を基礎にした権利運動に与える脅威*反撃


第1回


 本日、世界的に広がる男性の性的権利(sexual rights)運動について話したいと思います。これは女性や子どもたちの権利と真っ向から対立する運動です。これに加えて、フェミニストがどのようにこの運動と対応すべきかについて話したいと思います。いわゆる60~70年代の性革命によって、男性の性的自由の運動が一挙に解き放たれました。それは女性や少女たちに男性の性的ニーズを満たすことを求めるものでした。この運動からポルノグラフィをはじめ、あらゆる形態の性売買が容認され合法化され、現代の性産業へと成長していったのです。かつて「変態」と呼んでいたものがまた解放され、特にペドフィリア(小児性愛)、サドマソヒズム、トランスベスティズム(女装性倒錯者)が男性の性的自由の重要な要素だとみなされました。この行為の実践者は「エロティック」とか「性的マイノリティ」とか呼び変えられました。男性たちは自分の権利のためのキャンペーンを始めました。この運動は、女性や子どもが暴力や強制から自由になる権利、プライバシーと尊厳を守り、体の一体性をもつ権利を真っ向から否定するものです。私がこれからお話するは、目や耳をふさぎたくなるような、不安を掻き立てられるような内容です。しかし、なぜ私たちがそれを知る必要があるのか、なぜ私たちが
それと闘う必要があるのか説明したいと思います。


性的権利(sexual rights)
 男性の性的権利は、国連文書に明記されたどんな権利でもない。国際協約でもない。国連文書にある性的権利とは、一般的には女性の権利のことである。性的権利が権利として言及されるとき、ふつうは健康にかかわるリプロダクティブライツの一部だと理解されている。女性の体の一体性を守る権利、レイプや性暴力、望まない出産、児童婚から保護される権利を指すものだ。女性の性的権利、リプロダクティブライツとは男性の暴力的な性文化を生き抜くためものである。男性の性的権利という別のカテゴリーなど全く承認されていない。なぜなら、男性は独立した集団として権利を擁護すべき法的存在ではないからだ。
 しかし、男性の性的権利は男性支配の基盤となっているので、それをわざわざ明示する必要はない。性科学を扱うセクソロジスト、セックスセラピスト、各国政府がその権利の存在を肯定している。おかげで男性は性売買やポルノのために女性を利用できるのである。男性支配のもとでは、性とは何かという理解は、すべて、男性の性的権利に基づいている。

男性のセックスの権利(sex rights)
 男性の性的権利について公式の承認はないが、一般的に受け入れられていて、自明のことなので、ことさら語る必要がない。男性には性的快感のために女性や子どもを使う権利があり、性的満足を与えるまさにモノとして女性たちを扱う権利がある。このことは各国政府や法制度の有り方を見れば、明らかだ。国や法は、伝統的に、性産業の女性や少女を利用する男性の権利を守り、それを奨励してきた。確かに、変化の兆しはある。今、いくつかの国で、性売買は女性の人権侵害であることを受け入れ、性産業の基盤を掘り崩していくために、買春男性を罰する法律が制定されている。しかし、大多数の国々では、ストリップクラブ、売春宿、エスコート(売春女性)派遣会社、街頭買春、オンライン買春、ウェブカメラ買春、ポルノと繁栄している。これらは国家によって守られ、あるいは黙認されている。この実態は、フェミニスト政治学者のキャロル・ペイトマンの言う「セックスの権利」を男たちは持っている、という思想によって正当化される。男性を性的に満足させるために、男性国家、言い換えると、ピンプ(pimp=買春を仲介する)国家は性売買に寛容か、もしくはそれを合法化しているといえる。性売買の中にいる女性は、街頭やホテルで虐待され、虐待者の家に売られ、ストリップクラブや売春宿で寝泊まりし、閉じ込められて過ごすのだ。
   ピンプ国家はポルノの流通を制限するのは不可能だ、と言う。でも、ほんとうはそうするのは望ましくないと思っているのだ。ロンドンのクロイデンに住む15歳の少年が、通学途中の6人の女子生徒たちを、異なる機会に襲い、目下、裁判にかけられている。この少年のような性的なテロリストに過激なポルノ情報を提供しているのが、ポルノ産業だ。この少年は少女たちをナイフで刺したうえ、性的に暴行している。もしこの事例が、国家の懸念するテロリズムの類ならば、すなわち、男性を傷つけるかもしれないテロリズムならば、この少年を犯罪に駆り立てた過激な情報の追跡が行われだろう。しかし、追跡調査はまったく行われていない。イギリスでは現在、Everyone is Welcome (誰でも歓迎)というサイト通して、少女や女性教員が学校現場でセクハラや性虐待の危機にさらされていることが暴露され、大きな関心となっている。にもかかわらず、ピンプ国家は、オンライン上の他の過激なテロリストについては排除しようとするが、ポルノの禁止は求めない。国家は男性のセックスの権利を制限しないと、男性市民と協定を結んでいるようだ。
ピンプ国家が男性のセックスの権利のために働いているということは、国家には男性の権利行使から女性を守ることにほとんど関心をもっていないということだ。男性はセックスの権利を行使し、公的な場で、多様な方法で女性たちを虐待し、傷つけ、殺害している。男性のセックスの権利はセクハラやレイプの形で現れる。これらは女性にとって性的に不安な環境を作る。職場、自宅、街頭、交通機関、生活環境の様々な場所で、女性たちは細心の注意を払って過ごさなければならない。女性たちは常に性的なプレッシャーに晒されているが、それは「自然」なことだ、ただ、男性はこんなもので、女性はそれを受け入れなければならない、と考えられている。現在、イギリスではフェミニストたちは、起訴につながるレイプの被害届け出があまりにも少ないので、レイプは実質的に非犯罪化している、と主張している。2020年3月、通報されたレイプ被害が起訴された割合は1.4%である。
   男性セクシャリティがむき出しにされると、女性や少女にとっては絶え間ない苦しみがひきおこされる。家からどの道で行くべきか、学校や職場でどうふるまうのか、あれこれ悩み、性暴力や搾取を避けなければならない。このことを示す最もよい例が韓国の盗撮用カメラがもたらしている危機である。韓国では、最新のテクノロジーを身につけた少年を含む男性たちが、盗撮用カメラや携帯を使って女性を執拗に追いかける。道行く女性や、トイレの壁の穴越しに、女性の服装を隠し撮りする。その画像をネットに流す。状況が相当深刻なので、これに対処する専門会社を設立し、会議場のような敷地を徹底的に捜索するのに費用をかけている。それでも犯罪者たちはあきらめることなくまた取り付ける。彼らの言い分は、自分たちの知らない女性たちの写真を盗み撮りすることで、性的興奮が得られるといわけだ。その結果、女性は監視され続け、それを避けるためにいつも緊張を強いられる。トイレを使用することは危険な行為だ。盗撮カメラ問題は、テクノロジーのあらゆる進歩が、女性の性的侵害や自由の破壊を促進するために、どの程度まで利用されるのか示してくれている。

性革命
   女性や少女が今生きているセクシャルレジーム(性制度)は60年代、70年代のいわゆる性革命の結果、作られたものだ。1991年、私の著書、とくに“ANTICLIMAX”(期待外れ)のなかで議論しているが、性革命とは男性の性的自由のためのものだった。男性の性的自由とは、男性が性的に表現するうえで、どんな規制も障害も取り除くことだった。その直接的な結果は、性売買やポルノを正常化し、男性の特殊な性的関心を満たす多くの運動に火をつけたのである。1960年代、法廷で、ポルノのストーリを書くこと、映像化すること、利用することは男性の権利だと主張され、それは正常なものとなっていった。ここから、性産業が成長していったのである。女性を広範囲に、容易に利用する需要が生まれ、新しい、より特殊化した男性のセクシュアリティの形態が発展していくことになった。
しかし、性革命が生み出したもの全てが悪いわけではなかった。ホモセクシャリティ(同性愛)を非犯罪化し、反スティグマ(反差別)のための運動がおこり、法律を変え、1973年に、US精神病学のバイブル、精神疾患と統計マニュアルから、同性愛を精神疾患とする基準を取り除くことができたのである。しかし、残念なことに、レズビアンとゲイの権利運動は、他の性的権利運動、例えば、ペドフィリア(子どもの性的虐待)を非犯罪化する運動のひな型として期待されてしまった。学者たちは、ペドフィリア権利運動はゲイの権利運動と同じものであると書きたてたのである。もちろん両者は全く別ものである。レズビアン、ゲイたちは、望まない他者の体に対して、自分の性的関心を行動に移すのではなく、対等な関係を築くことを求めた。ペドフィリアの自由運動の次にサドマゾヒズムすなわち*BDSMがつづき、そのあと、トランスベスティズムがやってきた。こうした男性の性的権利運動はレズビアン、ゲイ運動に便乗してきたのである。トランスベスティズムは、LGBTの頭文字の考案と特に関係がある。トランスベスティズムとゲイ、レズビアンの権利とは全く相いれないにもかかわらず、LGBTというと、なんらかの繋がりがあるかのように思わせるのだ。もちろん、この混乱は意図的にもたらされたものである。(*嗜虐的嗜好を一まとめにして表現する言葉)
   1990年代までに、性産業は大きな収益をあげ、ポルノ産業はインターネットでパワーアップした。これを背景に、性的自由のロビー活動団体が現れ、明確に、男性の性的権利を拡大していったのである。アメリカやイギリスでは、ロビー団体、すなわちNCSF(National Coalition for Sexual Freedom:性的自由のための全国連合)が1997年に設立され、それとともに、1996年に設立された、Sexual Freedom Coalition (性的自由連合)は男性の性的権利をさらに広げ、女性を性的にもっと障害なく利用できるように活動している。彼らが求めているのは、性売買とポルノの規制を緩和することであり、サドマゾヒズムなどパラフィリア(性的倒錯)を、否定的に考えられている「変態」ではなく、一般にも法的にも幅広く受け入れられていくことだ。この団体は、性産業のロビー活動をし、男性のより大きな「性的自由」のために、性欲のすきま領域を代表する数多くの組織を運営している。

変態性欲の解放

   性革命は変態やパラフィリアを解放していく足場を提供した。これが起こったきっかけは、1966年に英語で出版され、物議を醸した有名な著書にある。Lars Ullerstam(ラース アラスタム)によるThe Erotic Minorities: A sexual bill of rights (エロティックなマイノリティ:性の権利章典)である。この著書はもとはスウェーデンで出版された。スウェーデンやデンマークなどスカンディナビア諸国が60年代の対抗文化運動の中で、性革命の最前線にあると考えられていた。Ullerstamはセクシャル マイノリティという語とその概念を作ったことで、影響力は大きいといえる。彼は男性の性的利益のための宣言を行い、その権利の要求をした。彼は、いわゆる「古き道徳主義者の残虐性」を、口汚くののしり、この道徳主義者が、セックスショー(性行為や乱交を見せる)、ペドフィリア、ある種の窃視者が性的欲望を満たすことを禁ずる法律を作ったと主張した。窃視者は他人が性行為をしているのをみて性的に興奮する人であり、ポルノやのぞき見趣味をする人も含む。かつて「変態」と呼ばれていたものは、スティグマを取り除く必要がある、この種の男性の性的行動が社会的に認められないことは男性を不幸にするからだ、と彼は説明している。「歴史を通じて、“変態”という言葉はもっとも性的に逸脱した現象を意味している。しかし、一般的に、この有害なレッテルは人間のニーズにあてはまらない。男性たちの幸福に関心のある人ならだれでも、“変態”を正当に評価し、奨励すべきだ。」 問題は、彼の言う「変態」は具体的には男のことであり、傷つけることになるのは、女性であり子どもだということだ。
   20世紀後半、Ullerstamが推進した変態の多くは、医学書や、US精神病学のバイブル、精神疾患と統計マニュアルから出てさっさと歩き始めて、公的な空間へ現れ、社会的に承認するよう要求したのである。女性や子供の権利を著しく傷つけるトランベスティズム、ペドフィリアも、自らの性癖を表現する権利運動を組織した。ゲイル・ルービンは、人類学者で、サドマゾヒズムの賛同者で、クイア理論家であるが、この進展を予言し、称賛した。1984年、“Thinking Sex”(「性を考える」)という大変影響力のあるクイア学の基礎文献となった論文の中で、彼女は次のように主張している。歴史的な瞬間が到来した、性的変態が法律の規制や宗教や医学の偏見から解放されるのだ、と。この性的実践にはフェティシズム、サディズム、マゾヒズム、トランスセクシャリティ、トランスベスティズム、エグジビジョニズム(性器、性行為露出)、ヴォヤリズム(窃視症)、ペドフィリア、が含まれる、と彼女は言う。注目すべきは、彼女がトランスベスティズムという言葉を使っていることだ。これが、今日の、いわゆるトランスジェンダリズムのもとになっている。彼女は、執筆当時、トランスベスタイトを男性の体と女性脳を持っているというよりは、”エロティック マイノリティ“であると理解していた。ルービンによると、1970年代、アメリカで、ゲイ運動と企業家たちが合流して、ホモセクシャルの文化とコミュニティが根付いていった。ここから、ペドフィリア、すなわち彼女の言うところの世代間交流やフェテイシズム、トランスベスティズム、マゾヒズムに関心をもつ人々が広がっていったと考えられる、ということだ。サドマゾヒズムは、すでに、専用のクラブやポルノグラフィや小道具を扱う店が生まれており、男性ゲイ文化の中では、お気に入りの行為として定着していった。
ルービンはこのプロセスを「性の近代化」と呼んでいる。この「性の近代化」によって、ホモセクシャルとプロスティテュート(売春婦、男娼)が組織され、「エロティックな反体制派活動家」や「革命家」が育っていったと、述べている。また、ほかのグループもホモセクシャルの成功を真似るだろうと指摘し、バイセクシャル、サドマゾヒスト、世代間の交流を好む人たち、トランスセクシャル、トランスベスタイトなども、それぞれ皆、自分たちのコミュニティを形成しつつあると、語っている。「世代間の出会い」とは、子どもの性虐待のことだが、ルービン特有の婉曲な言い回しだ。いうまでもなく、性的自由を望んでいるのは子どもではなく、子どもを利用したいと考える男の方だ。「変態性欲」は、「社会的なスペース、小規模ビジネス、政治的資源を獲得しようとし、性的異端を理由とした罰則を免れる方法を追求しようとしている」とルービンは語っている。彼女が予言したことのほとんどが実現されている。
                              (続く)


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