純愛ラブロマンスのみに非ず? 月組「今夜、ロマンス劇場で」はマンガ的ハートフル・ラブコメ

月城かなとと海乃美月の月組新トップコンビといえば、
「往年の大スターのような、クラシカルな品と美しさ」
が持ち味だ。

となれば古き良き昭和が舞台の「今夜、ロマンス劇場で」もこのコンビにぴったりで、大劇場お披露目の演目に選ばれたのもうなずける。
 ただ、小柳菜穂子センセが潤色した月組版はそれだけでなく、ハッピーとハートフルを詰め込んだ芝居になった。綾瀬はるかと坂口健太郎の原作映画に強かったラブロマンス色がやや薄まり、コミカルで笑って泣ける舞台になっていた印象だ。
 モノクロ映画から「総天然色」のカラー映画になるも、テレビの台頭で娯楽の王様の地位を追われる、そんな映画産業の盛衰を背景に「色」がこのラブストーリーの小道具になるが、まずプロローグで「お転婆姫と三獣士」の世界の舞踏会が始まる。
 この演出は映画版冒頭にも同様のシーンがあるんだけど、
れいこちゃん(月城)の新公初主演作品「Shall we ダンス?」も舞踏会から芝居が始まるんですよ。こちらの本公演演出を担当したのも小柳センセ。もしかしたら意識してたのかもしれないし、さりげない心遣いだとしたら粋な演出だ。
 1964年、牧野健司(月城かなと)は映画会社・京映の撮影所で働く助監督。古いモノクロ映画の「お転婆姫」シリーズのヒロインの美雪(海乃美月)に恋焦がれております(お洒落に蝶ネクタイまでつけちゃって当時こんな小奇麗な助監督が本当にいるかと突っ込んでしまうが)。
 軍服も格好いいスーツやタキシードも着ないけど、れいこちゃんの健司は美しい。そして全身から「いい人」オーラが漂う。けど、1人映画館にこもって何十年の前の映画のヒロインに恋焦がれているところは何だかマンガやラノベっぽい。そしてその願い通り、落雷のハプニングで願い通りスクリーンの中から飛び出してくる海ちゃんの美雪姫!

 オタクな青年と現実世界に飛び出したバーチャルヒロインー舞台は昭和だけど、現代的なボーイ・ミーツ・ガールものとしても成立しうるのがこの月組版「ロマ劇」だ。ちょっと古いけど「ああっ女神さまっ」や「ちょびっツ」、また健司の下宿のシーンになる度に「めぞん一刻」も連想する。(てか月組でめぞん一刻は今すぐできると思うのだ…主演2人は申し分なくちなっちゃんは四谷さんでも三鷹さんでもできるし犬さえ何とかすればw)

 んで美雪姫、高飛車で非常識な振る舞いで健司を翻弄し、現実世界で一通り騒動を起こすところまでこの手のラブストーリーのお約束。しかも健司は京映の社長令嬢の成瀬塔子(彩みちる)という容姿端麗なお嬢様に片想いされているのに全く気付かない!この主人公の鈍感ぶりと恋のライバルの塔子、お調子者の友人の山中伸太郎くん(風間柚乃)の存在もラブコメ感を強めている。
「Shall we ダンス?」でもそうだったが、小柳センセはこのような、平凡な男性の日常に突然やってきたドラマをハートフルに描くのが巧みだ。
 美雪を演じる海ちゃんは、健司が憧れるスター性とヒロインとしてのみずみずしさを両立。モノクロ映画から総天然色の現実世界に飛び出し、文字通り天然の色彩に表情をキラキラさせる序盤から、「人の温もりに触れると消えてしまう」という秘密と健司への想いで悩む後半への人格の変化で、お転婆なだけでない意志を持った女性へと成長する。
 三獣士の狸吉(蓮つかさ)・虎衛門(英かおと)・鳩三郎(柊木絢斗)に映画の中に戻ってきてと懇願されたりする場面を宝塚版で加えたことで、美雪の内面も原作映画より深く掘り下げられている。
 ありちゃん(暁千星)は美雪に結婚を迫る大蛇丸。原作映画に登場する大蛇がモチーフのキャラだけど、ありちゃんは蛇らしくねちっこくかつコミカルに演じて笑いを提供。この役をいやらしくなく、かつコミカルにできるのって意外と難しいと思う。

映画文化へのオマージュに溢れた撮影所

 日本映画黄金期が舞台なので、ミュージカルナンバーなどで当時の活気も表現している。撮影所の場面が始まる時にはミラーボールが回り、若手娘役を配役した京映の新進女優ユニット「セブンカラーズ」はいかにも当時にありそうなグループ。それぞれにモデルとなる当時の女優さんがいるはず。超硬質な美形娘役がいる!と思ったら多分蘭世恵翔くん(岸藍子役)。うん、パンチの強い美人役でこれからもいけそうだ。

 さて大スターとして活気の中心にいるのが京映の看板作品「ハンサムガイ」シリーズの主役・俊藤龍之介(鳳月杏)。ちなっちゃんらしいケレン味や、スタイルの良さが見せるスター性が実に俊藤。洋風衣装に悪霊退散のお札がついていたり、映画なのになぜ連獅子の衣装を着ている?といった疑問も「スターだから」で納得させてしまうオーラ。二番手としては意外にも出番は少ない印象だったけど、ありちゃんの大蛇丸とともに観客を笑わせてくれるのに不可欠なキャラクターだ。
 そしてちなつ俊藤の相手役として組んでいる、白雪さち花姐さん演じる女優の萩京子。彼女の存在感も舞台の空気をさらに濃いものにしていたし、京映社長の成瀬正平(千海華蘭)のカリカチュアされた豪胆なプロデューサー像も「業界モノ」の典型で、みちるちゃんの塔子や部下の清水大輔(夢奈瑠音)との小芝居もアクセントになっている。
 恋人に触れることができないこの作品に濃厚なラブシーンは無い。けどその分、ラストのカラフルな衣装に彩られた舞踏会は、生前の健司の夢――映画監督になることと、美雪と本当の人間同士のカップルとして結ばれること、が仮託されているかのよう。映画好きなら「タイタニック」のラストシーンも思い出されるだろう。

やっぱ月組にはジャズが似合う FULL SWING!


 ショー「FULL SWING!」はミキティ(三木氏)登板の久々のジャズショー。
 えー、ミキティは以前、「カノン」「クライマックス」「ファンシーガイ」と個人的大駄作3連発をやらかしてからちょっと身構えてしまう作家になっていたが、それらよりはマシだった。
 やっぱ月組にはジャズが似合う。かつてのミキティのショー「ジャズマニア」のイメージが強い。そのジャズマニアの曲の主題歌で、ロケット前にありちゃんセンターで踊るシーンがあったのは星組に旅立つ彼女へのはなむけか。もともと最近のショーにありがちなプロローグ→場面が2つ(一つがトップ中心、もう一つが2番手中心)→中詰め→またひと場面→総踊り→フィナーレみたいな展開をあまり使わず、良くも悪くも中詰めも盛り上がりに欠けるのがミキティだが、こういうのもたまにはあり。研8のおだちんですら既に研10過ぎのスターの風格なので今の月組らしいショーだ。
 面白いのは大階段セットからのフィナーレで演者や場面が切り替わっても全く音が途切れなかったこと。れいこちゃんと娘役の群舞から始まり、3組のデュエットまで音楽が切れる瞬間が無くて、なかなか斬新な構成だった。

 欲を言えば(三木ショーらしいといえばらしいが)れいこちゃんが軸になる場面にハードボイルドな演出が多く、相手役の海ちゃんもフラッパー風のスレンダーな衣装をまとうことが多かったのがやや一本調子に映ってしまったのが惜しい。確かに2人とも似合うのだが、新トップコンビらしいフレッシュさをアピールできる場面も欲しかった。

 月組は次が一本もののグレート・ギャツビーだけど、その前に舞浜でRain on Neptuneがあります。谷貴矢氏初のショーでもあるので、こちらもじっくり楽しんでみたい。


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?