大マゼラン雲が天の川銀河に落ちてきているかもしれない話。
最近、授業で聞いた面白い話をひとつ。
私たちの住む天の川銀河のすぐ近くにある銀河のひとつ「大マゼラン雲」に関するお話です。
大マゼラン雲とは
こちらの写真をご覧ください。
これが今日の主役である、大マゼラン雲です。きれいですね。
我々からだいたい 200,000光年(=光の速度でも200,000年かかる距離)先彼方にあります。○○雲という名前なので、星雲かとおもいきや天文学的には銀河に分類される天体です。残念ながら、日本に住む私たちからは見えない南天に輝く天体です。
その質量は銀河系の10分の1程度、直径は銀河系の20分の1程度であるとされ、私たち銀河系の周りを公転運動していると考えられています。こうしたことから、地球とその衛星である月の関係をなぞらえて、衛星銀河と呼ばれています。
ガイア衛星でわかったこと
ガイア衛星は、位置天文学のために打ち上げられた人工衛星です。位置天文学とは、観測から天体の位置を測定する天文学分野のことであり、天体の位置をひとつひとつ丁寧に測定することで天の川銀河の三次元地図を作ることを目標のひとつに掲げています。
少し前、このガイア衛星のデータリリース第三弾が行われて、arxiv (毎日、新しく投稿された論文がまとめられるサイト) がガイアの論文であふれるという事態もあるくらいたくさんの成果をもたらいてくれています。
その一つとして、天の川銀河系を取り巻く 恒星ストリーム の観測があります。
上の図のように、天の川銀河の周りに 飛行機雲のように存在するのが恒星ストリーム です。これは天の川銀河の周りに存在する小さめの銀河(伴銀河)が銀河系の周りを回る際に引き離されたものが足跡のようにしてのこってできたものであると考えられています。
ガイアによって、これまで見つかっていなかった恒星ストリームがたくさん見つかるとともに、そのうちのひとつ orphan stream に不思議な特徴がみつかりました。それが、何者かの重力によって想定されている方向とは別の方向に stream がたなびいているという観測結果です。
こちらのFig.4 上図の矢印で表されているのが、ガイアで測定されたそれぞれの天体の固有運動です。南半球側で特定の方向に大きく引き付け有れているのが分かります。通常は、先ほど述べたようにもとの小さな銀河から引き離されてできたものなので、ストリームに沿った方向に動いているはずなのでこれは不思議です。
この原因として挙げられたのが 今回の主役 大マゼラン雲 です。どうやらこの固有運動を引き起こす方向には大マゼラン雲があり、すなわち、大マゼラン雲の重力によってひきつけられている可能性があります。
仮説として、大マゼラン雲がこの現象の原因であると仮定すると、観測されている固有運動を再現するためにはこれまで想定されていた質量の約10倍($$1.2\times 10^{11} M_{\odot}$$)必要であると計算されました。
大マゼラン雲が10倍重いとどうなるのか?
大マゼラン雲が10倍これまでより重そう。だいたいそれがどんな意味を持つのでしょうか。
はじめのほうで 大マゼラン雲 は 天の川銀河の衛星銀河と考えられていると述べました。しかしながら、質量が10倍重いと 力学摩擦 の影響による減速がより大きくなります。この影響を受けて、衛星銀河のように公転しているシナリオではなく、天の川銀河に落ち込んでいる最中であるというシナリオの可能性が浮上しました。
まだ仮説の段階であり、これからも盛んに議論されていく内容ですが、位置天文学を通して、天の川銀河の恒星ストリームを詳しく観測することで大マゼラン雲の軌道が修正される可能性がある、というのはとても興味深いですよね。
大マゼラン雲の運命はいかに!?
続報があればお伝えします!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
表紙画像:The NASA image of the milky way, LMC and Jupiter.
Image credit: Jheison Huerta
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