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闇を祓う医療 【漢方医放浪記】

 少年が診察室に入った瞬間、彼の病の根が深いところに在ると分かりました。これは漢方医としての修練を積む中で身につく望診と呼ばれる技術です。

 その2週間ほど前に、友人の小児科医から電話がありました。

「惺仁君。ひとり診て欲しい子がいるんだけど、紹介してもいいかな。」

 私は二つ返事で承諾しました。患者がいて、診て欲しいというならば、断る理由はありません。

「ありがと。中学生の男の子で、片頭痛なの。治療、全部やってるんだけど良くならなくて。あとは漢方しかないかなって。」

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 診ますと、たしかに診断病名は片頭痛に相違ありません。必要な検査は全て実施済みで、あらゆる薬物療法が行われてきたことも分かりました。

 それでも毎朝、頭痛で目が覚めて這うような生活をする少年は、表情にも諦念の色がありました。

 脈は深く沈み遅弦大、腹を按ずれば飛び上がる程の胸脇苦満と臍傍圧痛があって頭尾側に貫く正中芯と共に、多彩な所見がみられました。

 寒疝かんせんとみて良いでしょう。

 西洋医学では未だ認識されていない病態ですから、当然治療法も存在しません。これは漢方医学の領分です。

「治ると思います。ただ、病の根が深い。これから始める初期治療の反応をみてから、治療にかかる期間の見通しをお話させてください。」

 暗く沈んだ親子の顔に、疑念と希望の混ざるのを感じました。藁にも縋る思いで此処に来たのでしょう。私は図示しながら簡単な病態の説明を行い、処方箋を作りました。


 2週間後の再診日。

 効いてる感じがする、と少年は言いました。頭痛は毎日あるけれど、発作治療薬が効くようになったといいます。今までよりだいぶ良いと喜びます。初期治療の反応は悪くない印象です。

 弁証論治の基本に則って当帰四逆加呉茱萸生姜湯の変法から開始して、段階的に薬を切り替えていく必要がありました。2〜4週間毎に診察して処方を調整していきました。


「自分の身体が変わったのが、わかりました。」

 少年はそう言いました。その日、身体の感覚が普段と違うことに気付き、一日中まったく頭痛のない時間を過ごせたそうです。それは何年振りのことだったろうと、付き添いの母親は涙を浮かべます。

 治療開始から半年過ぎた頃でした。

 最終調整として、内服時間の指定を加えます。治療効果を安定させて朝から夕方の間に最高のパフォーマンスを出すのが狙いです。

 体調不良による不登校状態だった彼には、高校に進学するという夢がありました。朝から昼まで頭痛で動けなければ、試験を受けることも叶いません。そんな運命は変えてみせようと私は決意しました。


 受験の前日から当日にかけて、彼は頭痛のない良好な体調で最良のパフォーマンスを発揮できたそうです。そのあと疲れて大変だったけど、と少年は笑顔を見せてくれました。

 彼は高校受験に合格し、進学の夢を叶えました。



 病みは闇だと、私の鍼灸の師は云いました。光が見えなければ、それは絶望です。絶望を死に至る病と表現したキルケゴールは精神を中心命題に掲げましたが、心身は一元的なものですから身体の病に付随する絶望も亦た致死的な闇なのかもしれません。

 医者は常に誰かの人生に関わります。

 言葉ひとつが相手の人生を左右する仕事です。

 治療ひとつが命を救ったり殺したりします。

 私は今日も誰かを治療します。明日も誰かを診るでしょう。日が昇らなければ明かりを燈せばいい。貴方が一人ではないと気付いたら、それが始まりの合図です。ひとつ手放すと、ふたつ手に入ります。余分ができてから誰かに手渡せば良いのです。



 拙文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、貴方の夢が叶いますように。



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