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つぶやきのような診療の話/非結核性抗酸菌症とは何か。

 非結核性抗酸菌症ひけっかくせいこうさんきんしょうという病気があります。
 長い名前ですね。日本でじわじわと増えている肺の病気です。土や水場に生息している菌が肺に住み着いて、慢性的な気管支炎を呈します。影が少しあるだけで何十年も無症状の人もいれば、どんどん悪化して治療を要する人もいます。
 一般的には「治らない」と言われる類の難治性疾患で、最低でも1年以上の抗菌薬治療を要し、それでも完全な治癒は望めないことが多く「付き合っていく」病気と考えられています。

 最近の私の診療の流行りのひとつは肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症、日本で最も多いのは肺MAC症)に対する漢方治療です。
 標準治療は多剤併用抗菌薬ですが、抗菌薬を使用せずに治療可能な場合もあります。また、抗菌薬と漢方を併用することもあります。

 そもそも「非結核性抗酸菌(以下、NTM)」は土や水場を中心に何処にでも存在する弱毒菌であって、日本で生活する限り必ず身体に入ってきます。それが感染するかどうか、発症するかどうかという問題については、免疫力などの個人差が非常に大きいと言われています。

 抗菌薬は菌を殺す薬ですから、肺の中の菌を減らすことはできます。ところがNTMは抗菌薬が効きにくく、また耐性化しやすいことが問題です。さらに、感染と発症の原因を治療しているわけではありません。

 漢方治療が働きかけるのは菌の方よりもむしろ、ヒトの身体の免疫力の方です。体調不良の原因を見極め、体質を改善することで免疫力の改善を図ります。すると自分の免疫力がじわじわと菌を減らしていって、少しずつ快方に向かうという戦略です。

 実際、この数ヶ月でも印象的な患者さんが多数おりますが、一部をご紹介させていただきます。

 ひとりは珍しい菌の種類の肺NTM症で、抗菌薬治療を開始しましたが副作用で継続に支障があったため、いっそ全ての抗菌薬を中止して漢方治療に切り替えました。当初は柴胡剤も併用しましたが、今は補中益気湯のみで相当に改善し、胸部画像も綺麗になってきています。

 ひとりは20年ほど罹患されている肺MAC症の方で、ワクチン接種後の体調不良に重なるようにして胸部画像が悪化して血痰と微熱も続くようになりました。8年前の抗菌薬治療でひどい副作用に悩まされたため、漢方治療の希望です。診ますと、ひどい脾虚があります。炎症もかなり強かったため、帰脾湯と小柴胡湯から治療を始めました。2週間後には改善の兆しがみられましたが、喉のあたりの違和感が強くなってきたと仰るため、診察所見を鑑みて小柴胡湯を中止して半夏厚朴湯に切り替えました。帰脾湯と半夏厚朴湯を継続するうちに咳や痰は劇的に減少して、だるさがとれて、食欲が出てきたようです。すると栄養がとれますから、結果的に体調も改善して免疫力も活性化していきます。今や症状はほとんど消失して、胸部画像も少しずつ改善してきました。


 今の時点で確からしい治療は「標準治療」と言われます。それは実際に現代医学の最善手といえるでしょう。しかしながら、それだけではうまくいかないことが多いのが実情です。

 まだまだ修行中の身の上ですが、これからも自分の道を歩いていきたいと思います。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の健康を。


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