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文章のレイヤー構造について(小説の書き方)

 多くの小説はレイヤー構造を成しています。それは意識してそう書かれている物もあれば、意識せずに自然とそうなっている物もあるように感じます。また、私が書く場合にもそれを意識します。

 多くの有名小説作品は多くが層になっています。分かり易い例では、前の記事ですが、トーベ・ヤンソンのムーミン・シリーズの中の1つ「春のしらべ」があります。

 簡単に説明しますと、「春のしらべ」のストーリーは、ストーリーの中でスナフキンが作る歌そのものなのです。スナフキンは歌を作ろうとしてもう少しのところで作れずにいますが、そこである物語が展開します。最後にスナフキンは歌を作り上げるのですが、その歌はこの物語と完全に対応しています。つまり歌の構造が物語と層になってそこにあります。二重写しになっています。

 これは単にストーリーを追うだけでは気付く事ができません。ヤンソンさんは書く時に層になる事を意識して書いているはずですが、物語の中にも面白いエピソードがあり、教訓のようなものもありますのでどうしても全体構造を見るのは後回しになります。ですが、気付けばなるほど!、ですし、凝った書き方をしている事にグッときてしまいます。

 実は今書いていてそろそろリリースしようと考えている仮題「水のふたり」もレイヤー構造を大変意識して書いています。今現在これを読まれている方々には内容がわかりませんが、概略はここに書いています。

 文章を書くにあたっていくつかのレイヤーを想定して書いています。以下のようなものになっています。

 第一に全体のストーリーについてのレイヤーについてです。これは、 「原初」 の章と「雨の夜に」以降全体がストーリーとして相似形になっているという事です。「原初」は古事記/日本書紀の中の「国産み (くにうみ)」 に少し手を加えたものです。二人が現れて、話し合い、そして儀式のような形の振舞いで目合(まぐわ)います。「雨の夜に」以降ではそれと同じ流れでストーリーが展開します。

 第二は、「純粋」と「不純」の層構造です。主人公の二人は初めての性行為を純粋なものにしようと決め、その方法を学びます。その過程で当初想像していた純粋なものと、その逆のものが重なるようにして同時に現れます。お話が進展する中で、それらはある部分で逆転しているように見えてきます。例えば、バスの中での車掌と女性の性行為は倫理的に問題のある行いですが、美しく見えます。娼婦の少女と修行をしている者たちの関係も「聖」と「邪」の層を成していますがこれもどちらがどうであるかがわからなくなってきてしまいます。

 第三は、生き方に関する層構造です。主人公は将来のために勉強していますが、彼らが求める純粋性はそれとは全く異なるものです。現代社会で生きるには自然と 「〇〇のため」に■■する事を選択して生きる事になります。それに対して主人公の選ぶ「純粋な行い」には目的がありませんし、それをしたからと言って何かになる事もありません。その場限りの喜びを得て終わりです。そしてその行為の最中には現代社会という時間の流れからも目的からも周囲との繋がりも全て遮断されてしまいます。

 この部分に関しては下敷きとして採用したジョルジュ・バタイユの思想の一部を採り入れています。これに関しては別途私のnoteの記事の中に資料を置いていますので参照していただくのが良いかと考えます。

 第四は、物語と著者の層構造です。お読みになってこう感じられた方もいらっしゃるかと思います。「結局、この主人公が一所懸命やっている事って、他人にとって別にどうでも良い事だよね。そんな事、一所懸命やってどうなるの?」 もうお分かりですね? 著者はこの、たった5万字程度の短い物語を成立させる為にずいぶんと時間を使いました。最初にバタイユ作品「目玉の話」の中にある「ミルク皿にお尻」の場面に接して、そのインパクトにやられましたが、お話の内容が全くわかりませんでした。ただのエロ小説で何を言っているのか、何の為に書かれたのかが100%わかりません。理解度ゼロでした。それにも関わらず、ジョルジュ・バタイユという人は20世紀で最も重要な小説家と言われ、思想や哲学の分野でも名前が挙がります。不思議過ぎました。そこから検索して論文をいくつか読み、やっといくらか理解できるようになりました。そうして出来たのが「処女と童貞のカップルが会って初めてセックスをする」だけのこのお話です。ですから、読者が主人公に対して言おうとした言葉はそのまま著者に対しても言えるはずです。


 こうしたレイヤー構造は読む方にとっても意識していると読み易くなりますし、全体の構造をより理解し易いのではないかと考えます。ただ、もちろん、それを受け付けない作品もありますので場合によりけりではありますが。参考まで。


追加
 ところで、今書いている仮題「水のふたり」ですが、以前告知したようにnoteの記事中にPDFでプレリリース版として公開しようと考えています。(Amazonとの関係がある為、期間限定にする可能性もあります。)早ければ明日となりますので明日の記事をご覧ください。もちろん無料です。大きさは5万字程度の短編です。すぐに読めると思います。完成版はAmazonから公開しますが公開後の5日間は無料とする予定です。

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