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下部体幹の安定性は上位胸郭の影響を多分に受ける〜インナーマッスルよりも前に介入すべきこと〜

腰痛(特異的・非特異的)に関わるセラピストにとって、下部体幹の不安定性は解決すべき重要な課題であることは間違いありません。

下部体幹の"安定性"を評価する一つの手段として、Active SLR(ASLR)がよく知られています。腰痛がある、もしくは腰痛はなくても下部体幹の不安定性の有無を評価したい場合に選択されることが多いです。

下部体幹の不安定性が見つかった場合に、どのように介入するでしょうか。腹横筋や多裂筋のエクササイズにベクトルが向くことが多いのではないでしょうか。インナーマッスルへの介入をする前に上位胸郭を考えるべきです。

♦︎胸郭が変われば、下部体幹が変わる

下部体幹の不安定には、筋機能が発揮できない状況であることが一定数あります。介入すべきなのは、筋機能自体を高めるのではなく、機能の発揮を妨げる要因を排除することです。その要因とは、骨盤に対する胸郭の位置関係です。

上位胸郭が骨盤に対して偏位している場合、胸椎は回旋します。上位椎体が下位椎体に対して回旋すると、その棘突起に付着する多裂筋の長さが左右で変化するため、均一な出力がしにくくなります。これが、下部体幹の安定化機能発揮を妨げる要因です。上記の図では多裂筋を例に挙げましたが、腹横筋でも同様のことが起こります。

♦︎胸郭の位置の変え方

下部体幹の安定性には多裂筋や腹横筋の機能に適切に発揮できることが重要です。骨盤に対する胸郭の左右の偏位は多裂筋などの深層筋の機能発揮を阻害します。裏を返せば、胸郭の位置が適正化すると下部体幹の安定性は改善する可能性があるとも言えます。

胸郭の位置を変えたい場合、セラピストは患者さんの頭側に位置し、両側の肩甲骨を下から支え、わずにかに持ち上げます。あとはそのまま左右に位置を変えるだけです。ここ時、セラピストは腕で操作するのではなく、胸骨の変えたい方向に向きを変えるように身体を使うことで、手の感覚入力を阻害することなく、位置操作が可能です。

どちらにどのくらい操作するかは、今回の文脈でいうとASLRの左右差がなくなる位置なのですが、以下の2点を基準に基準にすると臨床的に有用です。
・左右の烏口突起の位置が揃う位置
・棘下筋の緊張の左右差がない位置

上位胸郭が偏位している場合、頭側から烏口突起の高さを観察すると左右差があることが多いです。胸郭の位置を操作する際は、左右の烏口突起の位置を参考にしながら操作の程度を判断できます。逆にASLRに左右差がある患者さんの烏口突起にも左右差がある場合は、胸郭からの介入が有効である可能性があります。

棘下筋の緊張の左右差をもう一つの基準としてあげました。これは、肋骨と肩甲骨の適合性を反映するものです。頭側から観察したときに、胸郭の高さに左右差がある場合があります。これは左右の肋骨のアライメントが異なるを示しています。それぞれの肋骨の面が肩甲骨としっかり適合すると、健康胸郭としての安定性が担保されるため、筋緊張は必要ありません。しかし、胸郭の偏位が発生して肩甲骨との適合性が下がると、周囲の緊張を高めて適合性をなんとか保とうとします。これが棘下筋によく現れます。

胸郭を左右に操作しながら棘下筋の緊張の左右差を確認、緊張が揃う位置でASLRの左右差が消失するのであれば、胸郭の形状が下部体幹の安定性に関与していることが示唆されます。

♦︎介入の第一選択は胸郭にある

烏口突起の位置や棘下筋の緊張を確認しながら胸郭を操作し、ASLRの左右差が現象し、患者さんの主訴が軽減するのであれば、介入の第一選択は胸郭になります。胸郭は頸部や上肢の影響も受けるので考える範囲は広いですが、多裂筋や腹横筋にいきなり介入するよりも本質的な介入が可能です。

この条件を整えるという考え方は下部体幹だけではなく、他の部位の介入にも応用が可能です。身体のトラブルは、愁訴がある部位に根本的な原因がない場合は多いです。

患者さんが痛みを感じるところをリラクゼーションしたら直接的に介入することは、その場でも満足度を得ることが可能です。しかし、それがその場だけのものであり原因を取り除くことにはならないことが多いです。患部から離れたところに介入することが、ある意味で患者さんの意向に沿わないことになる可能性がありますが、患者さんが変化を体感したり適切に説明することが納得してもらいながら進めると、より意味のある介入にすることができます。

♦︎ここまでの内容を動画で解説

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