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小説『空生講徒然雲19』

タルトとは、果物でいっぱいのフランスの伝統的なお菓子だ。私のまだらな記憶ではそうなっている。シマさんは洋菓子が好きなのだろうか。私は青猫タルトの由来を尋ねた。どちらともなく2者にむけた口ぶりで。
「じぶんで名乗ったのよ。この子」、そうだ言わんばかりに青猫は「みやおう」と短く啼いた。
ヤマハSR400でショートツーリングをしている最中、青猫タルトが空から降ってきたという。青猫タルトとシマさんの付き合いは、もうすぐ3年経つということになる。「タンッタタンタタタン」、ヤマハSR400との付き合いは5年だそうだ。わかった、妬くな。私はヤマハSR400を撫でてあげた。

青猫タルトが、屋根とか樹木。それともビルから落下してきたのではないか。そんな疑問には意味がないことを私は知っている。「宇宙船から落下してきたんですか?」で、なんとか成立する世界に私はいるのだから。それにしても初めてのケースがなんと多いことか。どんな空生講になるのだろうか。
「なるようにしかなりませんから、もの生む空の世界は」私が御師になってからの口癖だ。
「あら、奇遇。なるようになりますように。そう神社にお参りするのよ。いつも」、そうしたら、こんなところに来ちゃったのよねぇと、鉄塊と青猫と行者の凸女が楽しそうに鼎談をしている。
おそらくこれが『女子会』の雰囲気なのだろう。女子会の現場にたまたまピザをデリバリーして、その世界を垣間見てしまった配達員の気分はこんなかんじだろうか。

「では、なるようにしかならない空生講ツーリングにゆきましょう」、私がそう言うと青猫タルトは「みやおう」と啼いた。そしてとんだ。私の頭上。『?』のなかにくるんと収まった。
「あら、タルトめずらしいこともあるものね」、シマさんは青猫の顔をしげしげ見ている。『?』は青猫の重さを柔らかくうけとめた。私に重さはかからない。ここでシマさんはあることに気づいた。
「なんですかその『?』は」
私は、まあ、御師である印のようなもので、とくになんでもない雲であり、伸びたり縮んだりもする。なるようになってどうかした世界のなれの果ての『?』であることを説明した。
「それで納得しろと」、思う者は誰もいないし、私もそうだ。
「みやおう、みやおう、みやおう」、青猫タルトは納得しているようだった。






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