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『歩荷虫』


虫がわいた
私の言葉を背負った
歩荷虫がわいた
あたまのどこかのくらがりの風穴に
いそいそ歩荷虫がわいた

歩荷虫の言葉の荷おろしを
ただ、黙って見守るのは私で
駄賃と言葉の交換をした
「いってらっしゃい」
そう、いったのは歩荷虫のほう
「いってらっしゃい?」
行くのは私のほうなのか
私はどこへゆけばいいのだ
「足りませんか?」
そう、いったのは歩荷虫のほう
「足ります、足りますとも、いい言葉です」
でも、私はもっとよくばりたい
私は嘘つきだ
「湯をわかしていいかな」
そう、いったのは私のほう
歩荷虫から言葉をもっと煮出さないといけない
「残酷だとおもいませんか?」
そう、いったのは半人前の言葉のほう
半人前の言葉のくせに生意気なのだ
「煮くたびれた言葉にはなりたくないな」
そう、いったのも言葉のほう
「たまには入れかわればいい」
そう、いったのは湯のほう
ほほう、それはいいかもしれない

私と言葉と歩荷虫と湯はそうすることにした
「湯がわいたようだね」
そう、いったのはもうわからないほう
「いってらっしゃい」
そう、いったのも、もうわからないほう

言葉はぐつぐつ煮出されて云う
「酸っぱいかな」
もう、わからないほうが
「苦くて、くだらないね」
もう、わからないほうが
「それが、あなたらしいかも」
もう、わからないほうが
「いってらっしゃい」
もう、わからない私が
「いってきます」








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