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時間の歪がもたらす絆 (#2)

この日の夕方。
高校の授業が終わり帰宅途中の菫。
「今日はエライ目に遭った」
あの女の子と出会わなければ遅刻はしなかったかも。けどしてたかも。あれこれ考えを思いめぐらせていると…
朝居た女の子がいた。女の子と言っても菫と同じ位の歳頃のように見えた。
「こんにちは」女の子の方から話しかけてきた。
「今朝はすいませんでした」
朝は怒りで頭がいっぱいだったがそこまで引きずるような怒りではない。
「いや、いいよ。それよりもカバンから飛び出したプリントは全部見つかったの?」
菫は少し心配そうに女の子に話しかけた。
するとその女の子は小さく頷いた。
「それなら良かった。ところであなたどこの学校?私は風が丘高校の3年の菫」
「私は坂の上商業学校3年のユカリって言います」
坂の上商業学校?聞いたことがない校名。
「え?その学校どこにあるの?」
「えっと、菫さんの通う学校のすぐ近くです」
その近くには別の専門学校があるがユカリの言ってる学校はない。嘘を言っているのだろうか?
初対面であまり追求すると面倒なので菫は適当に流すことにした。
と、丁度菫のスマホに通知が入った。母からの大事なメッセージかも知れない。菫はユカリに「ちょっとごめんね。母さんから連絡きたかもしれない」とスマホを見始めた。母からではなく菫の友達からだった。一通りメッセージを読み終わり「お待たせ」と顔を上げるとそこにはユカリの姿はなかった。
勝手に居なくなったのだと思い菫は少し腹が立った。

「ねぇ、坂の上商業学校って知ってる?」
菫が私にいきなりこんな事を聞いてきた。
うん、あったよ。それは昔の話だけどね今はもうないよ、と伝える。
すると菫は不思議そうな顔をしていた。
何かあったのだろうか?
「それがどうかしたの?」私は菫に尋ねる。
「いや、何でもない。今日学校行く途中に坂の上商業学校に行ってるって人と会って」
今度は私が不思議な顔をした。質の悪いイタズラをするやつがいるものだ。菫には最近は物騒だからくれぐれも気をつけるよう忠告した。
しかしその割に怖いとか不気味な感情は何故かわかなかった。

その日を境に菫は通学、帰宅途中には必ずユカリと出会うようになった。出会うようになったというより菫が道を歩いているとフッとユカリが現れるという感じだ。それも誰もいない道でうっすらと浮き出て来るかのように、と菫は話す。感覚的にそう感じるのだと。
二人はその日学校であった話やいま学習している勉強の事とかを話した。しかし今ひとつ会話が噛み合わない部分がちらほら出てきた。
日が増すにつれその部分が大きくなってきた。
例えば菫がスマホの話をするのだが、ユカリは何それ?という顔をする。多分家が貧乏でスマホさえも持たせてもらえないのかも知れないと自分に言い聞かせていたが、長く自分を騙すことは出来なかった。
ユカリと話をしているとどうも時代のズレを感じずにはいられない。
菫が土曜日の予定は?私は午前中遊びに行くんだよ、とユカリに話すと変な顔をされ『私は午前中は学校』と答えてきたのだ。今、大半の学校は余程のことがない限り土曜日は休みだ。
そう言えば母のゆかりは坂の上商業学校の出身だったはず。もしかするとこの正体は…
ある日菫はユカリに親しげに話しかける。
「ねぇ、一緒に写真撮ろう!今は色々と盛れるから凄いよー」
ユカリは頷くが『盛るってなに??何を盛るの?』と不思議な顔をした。
ここでユカリと写真を撮って母のゆかりに見せたら何かわかるかも知れないと思ったのだ。
二人で撮した写真はしっかりとれた。菫はユカリにまた明日と言って手を振ってユカリに背を向けた。
急いで振り返ってみるとユカリの姿はない。

帰宅して菫は
「ねぇ、いつも会う子なんだけど」と言いながらさっき撮した写真をスマホの画面に出してゆかりに見せた。
「なにこれ?パントマイム?」
ゆかりが首を傾げる。え?そんなはずではと思い菫はスマホの画面を見てみた。
そこには菫が隣に誰かいるかのように腕を伸ばして肩にのせているかのような姿がうつっていた。
ユカリが撮っていないのだ。

To Be Continued(不定期連載)

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