にっかり青江単騎出陣

「全国公演をします」
と彼が言った時、まあいつも通りごく限られた「全国」だろうと思った。
その予想は大きく裏切られた。
発表されたスケジュールは2年に及んでいた。

彼はにっかり青江として、本気で全国公演をしようとしていた。

主演の舞台は幾つもあった。主演の映画だってあった。その他にも出演する作品はたくさんあった。

そんな中でも彼は全国公演を敢行した。
北海道から始まり、東北を巡り、関西、九州、四国、中国、関東、中部、もちろん沖縄にだって赴いた。

新型コロナウイルスの猛勢で、一年目では公演することが叶わなかった土地もあった。人を目の前にして芝居ができなかったこともあった。
そうすると彼はもう一度また、必ず戻ってくると約束して、2年目にもう一度戻って公演をした。今度はたくさんの人々の拍手を浴びて。

「にっかり青江」というキャラクターを理解するため、演じ切りたいと思った。と始めた公演。
初演から何度も演技を変え、二年間かけて一人のキャラクターと旅をする。
一途に、自分の俳優人生も乗せて、一人のキャラクターを生きている。

にっかり青江と荒木宏文の二人旅はもう間も無く終演を迎える。

そうか、荒木宏文はにっかり青江をそうやって理解したんだな。と伝わる芝居だった。

終演後の拍手は惰性でもカーテンコール待ちでもない、ただ一途にあなたを讃える拍手だった。ただただ「ありがとう」とあなたに伝えるために、あの場にいた全員が立ち上がって拍手を送った。

にっかり青江を生きてくれてありがとう。
あなたの芝居が大好きです。

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