That's the Spirit - Bring Me The Horizon

新譜をリリースしたときに、その進化・変化を称賛されるバンドとされないバンドとがあるが、Bring Me The Horizon(以下BMTH)は進化を称賛されてきた、数少ないバンドの一つであろう。

そんなBMTHが9/12(金)に全世界同時リリースしたのがThat's the Spirit(以下今作)である。尚、保守的な日本の音楽業界はNew Music Fridaysを導入していない為、国内盤は9/16(水)に発売となる。

前作から約2年でリリースされた今作は、前作(Sempiternal)での進化・変化から更に、安直な言い方をすれば、「わかりやすく」進化した作品と言える。そして同時に、かのLinkin Parkが脱ミクスチャーラウドバンドとなったように、脱コアバンドとなったとも捉える事ができるだろう。

BMTHの具体的な音楽的な進化、変化の変遷は、過去作を一通り聴いてもらうとして、一言で言い表すならば、彼らの根底にあったのは「コア」要素であろう。彼らの初音源は、レコーディングされた音質、各楽器のサウンド、特徴的なデスヴォイス、スクリーム、どこをどうとっても、所謂「デスコア」であった。それは形を変えつつも継承され、BMTHの大きな特徴の1つとなっている。

前作は、BMTH史上、最もクリーンなヴォーカルが多かったアルバムであった。彼らは2ndアルバムであるSuicide Seasonから「コア」に「エレクトロ要素」を混ぜるという、当時は(2008年)革新的なサウンドとして評価を得ており、このエレクトロ要素も今作にまで引き継がれている、BMTHの特徴と言えるだろう。前作は、そのエレクトロ要素と、コアと、彼らならではのキャッチーなメロディが見事に化学反応を起こした大名盤であった。

そんな前作と比べ、今作の一番の特徴は、ヴォーカリストであるOliver "Oli" Sykesが、アルバムを通してほぼ全て、クリーンで歌っているのだ。つまり、リスナーにとって一番分かりやすい面でのコア要素がほぼ完全に欠落していると言えるだろう。彼の持ち味とも言える絞り出すようなスクリーム、デスヴォイスは、今作に置いて殆ど聴く事はできない。

にもかかわらず、今作のサウンドはBMTHそのものである。ヴォーカルから伝わってくるコア要素は失われているのにもかかわらず、根底は変わっていない。そこらのラウドバンドとは別格のカッコ良さがそこにはあるのだ。

今作は、もはやメタルアルバムではない。コアアルバムでもない。ロックアルバムだ。今作から、1stや2ndのサウンドを想像する事は非常に困難であろう。それがなぜ、BMTHの根底が変わってないと思えるのであろうか。筆者は考えに考えあぐねた結果、次のような結論に至った。

まず、BMTHの「デスコア・メタルコアバンド」としてのキャリア。バンドサウンドとして、一番ベーシックな部分となる、楽器隊の演奏、そのリフワークに、そのキャリアが如実に表れている。ヴォーカルはほぼクリーンであっても、バンドサウンドはヘヴィで、コアなのだ。それが、前面に押し出されているのではなく、要素として生きている。世界で通用するメタルコア・デスコアバンドだったキャリアは確実に生かされていると言えるだろう。

次に、エレクトロ要素の使い方。長年エレクトロ要素をバンドサウンドに取り込んできた実績がある彼らは、その使い方が他のバンドと一線を画している。昨今、巷にあふれかえる「エレクトロ入りラウドロックバンド」は、ベーシックな部分であるバンドサウンドの貧弱さを補うためにエレクトロ要素を取り入れているように筆者には感じられる。しかし、BMTHはバンドサウンド、サウンドクリエイションに申し分ないヘヴィさがあるため、そのような使い方をしなくていい。曲中でガラリと雰囲気を変える、あえてコーラスの音をぶつ切りにして強引につなぐ、等と活用の幅は広いように感じられる。

最後に、Oliver "Oli" Sykesの歌声だ。ライヴでお世辞にも歌が上手いヴォーカリストとは言えない彼だが、彼は「スクリームしながらクリーンを歌う」事、つまりは「だみ声」でクリーンを歌うことができるヴォーカリストである。この歌唱法ができるヴォーカリストは、意外に少ない。そして聴く者を魅了するキャッチーなメロディーセンスも相まって、今作を比類なきロックアルバムに昇華させていると言えるのではないだろうか。


今作は、過去のBMTHからは想像もつかないサウンドを擁しており、物議を醸す事間違いなしのアルバムである。しかしながら、巷にあふれかえるラウドバンドとは一線を画する、壮大なロックアルバムであることには間違いない。そして、一口にロックとはいうものの、その中に含まれる要素の1つ1つは、BMTHの今までに培ってきた様々な音楽的要素ーコアであったりエレクトロであったりーがハイレベルに纏まっている。そしてキャッチーさ、ポップさを前面に押し出したことが「聴きやすさ」として機能しており、ヘヴィなサウンドではあるものの、アルバムを通して非常にリラックスして聴ける作品になっている。

前作から今作への進化・変化の幅は非常に大きく、飛躍といっても過言ではないだろう。少々気が早いが、次回の進化・変化にも期待したい。

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