VII: Sturm Und Drang 疾風怒濤 - Lamb Of God

アメリカのメタルバンド、lamb of god(以下log)の最新作、VII: Sturm Und Drang(以下新譜)が2015年7月24日にリリースされた。

前作Resolution(以下前作)が2012年1月24日にリリースされているので、3年と半年ぶりのリリースとなった今作だが、logファンの多くは「よくぞここまで持ち直してくれた」という気分で発売日を迎えたに違いないと推測する。

一時はバンドの存続が危ぶまれ、長期活動停止が現実味を帯びていた時期が決して短くない期間あり、筆者自身も相当やきもきさせられた一人であったため、まずは新譜が出る事自体、logメンバーや彼らを支えている人達に感謝したい。

さて、新譜は発売までに合計5曲を公開し、前情報の多いアルバムとなったのだが、この先行公開された曲によって、筆者は新譜に対して一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

早い話が今までのlogとは違った雰囲気で溢れている曲が、先行公開に複数入っていたからだ。この先行曲により、筆者の新譜期待値は前作を遥かに下回るものになった。

結果的に、自身の期待値が低かったせいなのか、元々のlog底力なのかは定かではないが、新譜の出来は非常に良かったのではないかと思う。今までとは趣向が違う曲も、アルバムの振り幅に貢献していると感じられる。


前作は、log持ち前のブルータル、ハードコアを表出させ+新しいアプローチ(クリーンヴォーカルであったり、リフのデジタル処理であったり)を実験的に盛り込んだアルバムであったが、新譜はそれらを更に掘り下げ、より積極的に取り入れたアルバムとなっている。また、前々作Wrath(以下前々作)に色濃く表れ、前作で若干薄れた「オーセンティックなメタル要素」も復活し、丁度前作と前々作の良い部分をバランス良く合わせたアルバムと言えるだろう。

新譜で評価したいのは、リフ随所に潜む、ともすればクサくなりそうなギターコード(以下クサコード)だ。筆者はこれを、ツインギターの一角であるWillie Adlerの仕事ではないかと推測する。前作でもその片鱗を感じる事ができたが、新譜はより顕著に感じられる。

logはリフを主体とする攻撃的なバンドである。もう一人のソングライターであるギタリストMark Mortonが書いているであろう大半の曲において、クサコードはあまり聴かれない。


以前、Mark Mortonのtwitterで以下のようなファンとのやり取りがあった。

「logの曲で、貴方が書いていないもので好きな曲はあるか?」「In your Words」


In your Wordsといえば、前々作の1曲目を飾り、曲後半のクサそうで、でもクサくないギターとベースの応酬を聴く事ができる名曲であることは、logリスナーであれば説明不要であろう。

In your Wordsの作曲者が誰であるかは定かではない。しかし、「前作までがギタリスト二人がそれぞれ曲を持ち寄ったが、新譜は大半がギタリスト二人による共作である。(付属解説より)」という点から、Willie Adler作曲である可能性は高く、ひいてはクサコードは彼の武器の1つである仮説を立てる事ができる。

このクサコードが、新譜のスパイス的要素となっており、オーセンティックさを感じさせると共に、過去の焼き直しでない新しいアルバムとしての働きをしていると筆者は感じた。


新譜は基本的に、「相変わらず」という言葉が当てはまるだろう。

ザクザクと刻み込むリフ、それを裏打ちするベース、テクニカル且つ安定感抜群のドラム、野獣の咆哮と、彼らを象徴する音楽がそこにある。これぞ、New Wave of American Heavy Metalの旗手であり、唯一の体現者。Pure American heavy metalの正当後継者であり、最後の砦、最後の希望たるサウンドだ。logが終わる時、NWOAHMも、PAHMも終わる。と言っても過言ではないのではないだろうか。

しかし、「基本的には」と記したとおり、例外がある。トラック6のOverlordと4のEmbersだ。

Overlordは前作のInsurrectionを正当に、というよりも、よりlogらしくなく進化させた曲だろう。系統でいえば、フィル・アンセルモを中心としたバンドDOWNと類似したブルージーなサウンドで、ヴォーカルRandy Blytheが全編にわたりクリーンヴォーカルを披露している。しかし、DOWN程の重苦しさがあるわけでもなく、logの良さが生きているわけでもない。中盤の盛り上がりは、緩急を付けたようにも見えるが、とってつけたようにも見える。logがやらなくても良い曲とも言えるだろう。

Embersは、一言でいえばChino Morenoの無駄遣いだ。logの良さ、Chinoの良さが全くマッチしておらず、logの曲にChinoが歌いやすいようなパートを曲後半にとってつけたように感じられる曲。前半のlog節がきいたリフはカッコいいのだから、これを主体にして、トラック10のTorchesのように、Chinoをlogに被せるような使い方をしただけで大分違うのではないだろうか、と考えてしまう。


これら2曲は例外と記したが、全く楽しめないというわけではない。アルバムの振れ幅で、最も振り切った曲として聴けるし、素材はどちらも素晴らしく、どちらもlogの一つの顔として捉えられれば、より新譜の理解を深める事ができることは、間違いないだろう。

数々の苦難の末に発表されたVII: Sturm Und Drangは、2015年のメタルを象徴するアルバムになることは想像に難くない。logの底力はとてつもなく、今だ衰えを見せない。最後の希望として、今後も大いに期待したい。


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